(第9話)詩魔法師の言霊(ことだま)【創作大賞2024ファンタジー小説部門応募作】
第9話 闇の詩人との対決
レン、ミラ、カイ、グレンの四人は、「嘆きの都」での勝利から数ヶ月が経ち、さらなる冒険を重ねていた。彼らの名声は広まり、多くの地域で希望をもたらす存在として知られるようになっていた。
ある日、彼らが小さな村で休息を取っていると、緊急の知らせが届いた。村長が慌ただしく彼らのもとへやってきて、息を切らしながら話し始めた。
「皆さん、大変です!遠く離れた『永劫の森』が突如として闇に包まれたという知らせが入りました。」
レンが眉をひそめて尋ねた。「永劫の森?それはどんな場所なのですか?」
グレンが思い出したように呟いた。「その森は、世界の調和を保つ重要な場所じゃ。古来より神聖な地とされてきた。そこが闇に落ちれば、世界全体が危機に陥る。」
村長が付け加えた。「そして、その背後には闇の詩人の存在があるという噂です。」
「闇の詩人だって?」ミラが驚いて声を上げた。「まさか、あの闇の詩人が?」
カイが冷静に分析を始めた。「前回の対決から逃げおおせたようだな。今度は『永劫の森』を狙ってきたか...」
レンは黙って考え込んでいた。彼の心の中には、まだ小さな不安が残っていた。前回の対決では勝利したものの、闇の詩人の力は計り知れない。本当に打ち勝つことができるのだろうか。
ミラがレンの肩に手を置いた。「レン、大丈夫よ。私たちならできるわ。」
カイも頷いた。「そうだ。これまでの経験を活かせば、きっと...」
グレンが杖をつきながら言った。「若者たちよ、確かに危険は大きい。しかし、我々にしかできない使命じゃ。」
レンは深呼吸をして、決意を固めた。「みんな、ありがとう。そうだね、行こう。世界を守るのは私たちの使命だ。」
四人は急ぎ「永劫の森」へと向かった。道中、彼らは様々な困難に直面した。
まず、彼らの前に現れたのは、闇に染まった獣たちだった。その目は赤く光り、牙をむき出しにして襲いかかってきた。
「気をつけて!」カイが叫んだ。「これらの獣は闇に操られているんだ!」
ミラは素早く弓を構え、獣たちの足元に警告の矢を放った。「私たちと戦う理由はないはずよ。目を覚まして!」
レンは獣たちに向かって語りかけた。「君たちの中にある本来の姿を思い出して。闇に飲み込まれてはいけない!」
彼の言葉が獣たちの心に響いたのか、次第に攻撃の勢いが弱まっていった。
グレンが古の呪文を唱えると、獣たちの体を覆っていた闇の霧が晴れていった。「さあ、本来の棲み処へ戻るがよい。」
獣たちは混乱した様子で森の中へと去っていった。
カイがため息をついた。「これが始まりに過ぎないんだろうな。」
彼の言葉通り、次に彼らを襲ったのは幻惑の霧だった。霧の中で、それぞれが最も恐れているものの幻影を見せられる。
ミラは叫び声を上げた。「いや...お父さん、お母さん...私を置いて行かないで!」
カイも苦しそうな表情を浮かべていた。「違う...僕の作戦のせいで、みんなが...」
グレンも呟いていた。「わしの知識が、何の役にも立たんのか...」
レンは必死に仲間たちに呼びかけた。「みんな、それは幻だ!目を覚まして!私たちはここにいる。一緒にいるんだ!」
彼の言葉が仲間たちの心に届き、少しずつ正気を取り戻していった。
「ありがとう、レン。」ミラが涙ぐみながら言った。「あなたの言葉が、私たちを繋いでくれたわ。」
そして最後に、彼らは絶望の沼を渡らなければならなかった。沼から立ち上る霧が、彼らの心に絶望の念を植え付けようとする。
「この先に何の希望がある?」「お前たちに何ができる?」「諦めろ...」
沼からの囁きが、彼らの心に忍び寄る。
レンは叫んだ。「みんな、手をつなごう!一緒なら、この沼を渡れる!」
四人は固く手を握り合い、一歩一歩、慎重に沼を渡っていった。それぞれが励ましの言葉を交わしながら、前に進む。
「私たちには希望がある。」
「私たちにはできる。」
「諦めない。絶対に。」
ようやく「永劫の森」の入り口に到着した彼らを待っていたのは、想像を絶する光景だった。かつては生命力に満ち溢れていたはずの森が、今や枯れ木と暗闇に覆われていた。空気は重く、希望の欠片も感じられない。
「ひどい...」ミラが絶句した。
「森全体が闇の力で覆われている。」カイが分析した。「中心部に向かうほど、闇の濃度が濃くなっているようだ。」
グレンが警告した。「気をつけるのじゃ。この森には古来より強力な魔力が宿っている。闇の詩人がそれを利用すれば、想像を超える力を持つかもしれん。」
レンは深呼吸をして、仲間たちに語りかけた。「みんな、怖いのは分かる。でも、私たちにしかできないんだ。一緒に、この森と世界を救おう。」
四人は互いに頷き合い、暗い森の中へと踏み入れた。
森の中は、彼らの想像以上に過酷だった。足元からは闇の触手が這い寄り、頭上からは絶望の雫が降り注ぐ。時折、悲鳴のような風が吹き抜け、彼らの心を揺さぶった。
「この風...まるで泣き声のようだ。」カイが顔をしかめた。
ミラが震える声で言った。「この森自体が苦しんでいるみたい...」
グレンが杖を強く握りしめた。「森の精霊たちの悲鳴かもしれんな。闇の力に抗っているのやも。」
しかし、彼らは諦めなかった。レンは希望の言葉を紡ぎ、ミラは勇気の歌を歌い、カイは冷静な判断で道を切り開き、グレンは古の知恵で危険を回避した。
森の中心に近づくにつれ、闇の力はさらに強くなった。そして finally、彼らは大きな空き地にたどり着いた。そこには、巨大な黒い樹が聳え立っていた。その根元に、闇の詩人の姿があった。
「よくぞここまで来たな、愚かな者どもよ。」闇の詩人の声が、闇そのものから響いてくるかのようだった。
レンは一歩前に出て、声を張り上げた。「もうやめるんだ! この森と世界を闇に落とすのは許さない!」
闇の詩人は冷笑した。「許さないだと? お前たちに何ができる? この世界は本来、闇に満ちているのだ。光など、儚い幻想に過ぎん!」
その言葉とともに、闇の波が四人に襲いかかった。レンたちは必死に抵抗したが、闇の力は予想以上に強かった。
「くっ...」レンが膝をつく。「こんなに強いなんて...」
ミラが叫んだ。「レン、諦めないで! 私たちにはまだ力が...」
しかし、彼女の言葉も途中で途切れた。闇の力が、彼らの声さえも飲み込もうとしていた。
カイが苦しそうに言った。「この闇、ただの力じゃない。森の魔力と融合している...」
グレンも顔をしかめた。「このままでは、私たちも闇に飲み込まれてしまう...」
闇の詩人は高らかに笑った。「さあ、観念するがいい! お前たちの希望など、この闇の前ではちっぽけな火花に過ぎん!」
レンは必死に抵抗しようとしたが、体が動かない。闇が彼の心まで侵食しようとしていた。
「みんな...ごめん...」レンの意識が遠のき始めた。
その時、かすかな光が彼の心の中で灯った。それは、これまでの旅で出会った人々の顔、彼らの笑顔、そして希望に満ちた眼差しだった。
(レンの心の声)「そうだ...まだ...終わりじゃない...」
レンは、最後の力を振り絞って叫んだ。「みんな! 希望を...忘れないで!」
その言葉が、闇の中に小さな光の筋を作り出した。
しかし、闇の詩人の反撃は激しかった。「無駄だ! お前たちの光など、すぐに消えてしまう!」
再び闇の波が押し寄せ、レンたちを飲み込もうとする。
「レン!」ミラが叫んだ。「私たちの力を...あなたに!」
カイも声を張り上げた。「そうだ、レン!俺たちの思いを受け取れ!」
グレンも杖を掲げた。「若者よ、我らの知恵と力を使うがよい!」
三人の思いがレンに流れ込む。レンは、仲間たちの力を感じながら、再び立ち上がろうとした。
果たして、彼らは這い上がることができるのか。闇の詩人との最終決戦の行方は、まだ見えない。
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