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(第6話)最後の言葉【創作大賞2024ホラー小説部門応募作】

#創作大賞2024 #ホラー小説部門

第6話 真実への接近

健太は、自分の周りで起こる不可解な現象に戸惑いながらも、真実に近づこうと必死だった。彼の心には、被害者たちの声が絶え間なく響いていた。特に美咲の声は、彼の心を深く揺さぶり続けていた。

ある夜、健太は警察署の資料室で夜遅くまで調査を続けていた。周りは静まり返り、彼一人だけが残っていた。突然、彼の背後で何かが動く音がした。振り返ると、書類棚の影に人影が見えた。

「誰だ?」健太は声を震わせながら尋ねた。返事はない。彼は恐る恐る人影に近づいていった。そのとき、影が動き、彼の目の前に現れたのは、自分自身の姿だった。

分身は不気味な笑みを浮かべ、健太を見つめていた。「お前は本当に真実を知りたいのか?」分身が口を開いた。その声は、健太自身のものでありながら、どこか異質な響きを持っていた。

健太は恐怖で体が硬直した。分身は彼に近づき、耳元でささやいた。「真実を知れば、お前は二度と元には戻れない」

その瞬間、健太の目の前に恐ろしい光景が広がった。被害者たちの最期の瞬間が、まるで映画のように次々と映し出される。彼らの苦しみ、恐怖、絶望が、健太の心を直撃した。

健太は叫び声を上げ、目を覚ました。彼は資料室の床に倒れていた。周りには誰もおらず、分身の姿も消えていた。しかし、彼の心には、今見た光景が鮮明に焼き付いていた。

翌日、健太は新たな決意を胸に秘め、被害者の家族たちに会いに行くことにした。最初に訪れたのは、最新の被害者である山田家だった。

玄関を開けたのは、被害者の母親だった。彼女の目は悲しみに沈み、疲れた様子が見て取れた。健太は自己紹介をし、話を聞かせてほしいと頼んだ。

母親は健太を家に招き入れた。リビングに入ると、そこには被害者の写真が飾られていた。笑顔の若い女性の姿に、健太は胸が締め付けられる思いがした。

「娘は、最後に何か言っていましたか?」健太は恐る恐る尋ねた。

母親は悲しそうな表情を浮かべ、答えた。「はい...彼女は『影が...影が来る』と言っていました」

健太は背筋が凍る思いがした。「影」という言葉が、彼の心に不吉な響きを持って迫ってきた。

突然、部屋の温度が急激に下がった。健太は息が白くなるのを見て、驚いた。母親も異変に気づき、不安そうな表情を浮かべた。

そのとき、部屋の隅に黒い影が現れた。それは人の形をしているようでいて、どこか歪んでいた。影は徐々に大きくなり、部屋全体を覆いつくそうとしていた。

健太は母親を守るように前に立ち、影に向かって叫んだ。「何者だ!」

影は動きを止め、健太を見つめた。そして、低い声で答えた。「お前が呼んだのだ」

健太は混乱した。自分が呼んだ?どういう意味だ?

影は続けた。「お前の能力が、私たちを呼び寄せた。お前は扉を開いてしまったのだ」

健太は恐怖で震えながらも、勇気を振り絞って尋ねた。「私たち?あなたたちは何者なんだ?」

影は不気味な笑みを浮かべ、答えた。「我々は、死者の世界からやってきた。お前の能力が、我々を現世に引き寄せたのだ」

健太は言葉を失った。彼の能力が、このような恐ろしい結果をもたらすとは思ってもみなかった。

突然、影が健太に向かって伸びてきた。健太は反射的に後ずさりしたが、影は彼の体を包み込もうとしていた。

その瞬間、美咲の声が健太の耳に響いた。「健太さん、逃げて!」

健太は美咲の声に導かれるように、影から逃れた。彼は母親の手を取り、急いで家を出た。外に出ると、影の気配は消えていた。

しかし、健太の心には新たな恐怖が芽生えていた。彼の能力が、死者の世界と現世をつなぐ扉を開いてしまったのだ。そして、その扉を通じて、邪悪な存在が現世に侵入しようとしている。

健太は、自分が引き起こしてしまった事態の重大さに打ちのめされた。しかし同時に、彼には使命があることを悟った。彼は、この扉を閉じ、邪悪な存在から現世を守らなければならない。

その夜、健太は再び悪夢にうなされた。夢の中で、彼は無数の影に囲まれていた。影たちは彼に向かって手を伸ばし、彼を闇の中に引きずり込もうとしていた。

健太は必死に抵抗したが、影たちの力は強かった。彼は徐々に闇に飲み込まれていく。そのとき、美咲の声が再び聞こえた。

「健太さん、諦めないで!あなたならできる!」

美咲の声に勇気づけられ、健太は最後の力を振り絞って影たちから逃れた。目が覚めると、彼は冷や汗でびっしょりだった。

健太は決意を新たにした。彼は、自分の能力の真の意味を理解し、それを正しく使う方法を見つけなければならない。そして、被害者たちを救い、邪悪な存在から世界を守らなければならない。

真実への道のりは、まだ遠く険しいものだった。しかし、健太は前を向いて歩み続けることを決意した。彼の心には、恐怖と希望が交錯していたが、美咲の声が彼に勇気を与え続けていた。

健太は、次の一歩を踏み出す準備をした。彼は、自分の運命と向き合い、真実を明らかにする決意を固めた。そして、彼の周りには、まだ見えない恐怖が潜んでいた。

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