(第5話)最後の言葉【創作大賞2024ホラー小説部門応募作】
第5話 邪悪な存在の気配
健太は、連続殺人事件の調査を進めるうちに、自分の周りで不可解な現象が起こり始めていることに気づいた。彼の能力が何か邪悪なものと繋がっているのではないかという不安が、日に日に大きくなっていった。
ある夜、健太は再び悪夢にうなされた。夢の中で、彼は真っ暗な部屋の中にいた。突然、部屋の隅から低い笑い声が聞こえてきた。健太は恐怖で体が硬直し、声のする方を見ることができない。笑い声は次第に大きくなり、彼の周りを取り囲むように響き渡る。
「お前は本当に彼女たちを救えると思っているのか?」という声が、彼の耳元で囁いた。健太は振り返ろうとするが、体が動かない。彼の背後に何かがいる気配を感じ、冷や汗が背中を伝う。
目が覚めると、健太の部屋は異様な雰囲気に包まれていた。壁には奇妙な影が揺らめき、何かが彼を見つめているような感覚に襲われる。彼は恐怖で震えながら、部屋の電気をつけた。しかし、不気味な気配は消えることはなかった。
翌日、健太は警察署に向かった。しかし、同僚たちの態度が明らかにおかしかった。彼らは健太を見るたびに、不安そうな表情を浮かべ、距離を置こうとする。健太は孤立感を感じながら、自分の机に向かった。
机の上には、新たな被害者の報告書が置かれていた。健太はそれを手に取り、内容を確認する。被害者の最後の言葉が記されていたが、それは彼がこれまで聞いた言葉とは明らかに異なっていた。「彼が来る...」という不気味な言葉だった。
健太は背筋が凍る思いをした。「彼」とは誰なのか。そして、なぜ被害者はそのような言葉を残したのか。彼は疑問を抱きながら、新たな被害現場へ向かうことにした。
現場は古い廃工場だった。健太が工場に足を踏み入れると、異様な空気が彼を包み込んだ。壁には奇妙な落書きが描かれ、床には不自然な血痕が残されていた。彼は懐中電灯を取り出し、慎重に内部を調べ始めた。
突然、背後で何かが動く音がした。健太は驚いて振り返ったが、そこには誰もいなかった。しかし、彼の目の前には、赤い液体で書かれた文字が浮かび上がっていた。「お前は次だ」
健太は恐怖で叫び声を上げそうになるのを必死に抑えた。彼は急いで工場を出ようとしたが、出口が見つからない。まるで迷路のように、通路が入り組んでいる。彼は焦りと恐怖に駆られながら、必死に出口を探した。
そのとき、彼の耳に美咲の声が聞こえた。「健太さん、助けて...」健太は声のする方向に向かって走り出した。しかし、彼が到着した場所には、美咲の姿はなく、ただ大きな鏡が置かれているだけだった。
鏡に映る自分の姿を見て、健太は息を呑んだ。鏡の中の自分が、不気味な笑みを浮かべていたのだ。そして、その姿が徐々に変形し始め、恐ろしい怪物のような姿に変わっていく。健太は恐怖で動けなくなり、ただ鏡を見つめることしかできなかった。
突然、鏡の中の怪物が手を伸ばし、健太を掴もうとした。健太は悲鳴を上げ、後ずさりした。そのとき、彼は何かにつまずき、床に倒れた。目を開けると、彼はまた工場の入り口にいた。周りには何もなく、鏡も怪物も消えていた。
健太は混乱し、恐怖に震えながら警察署に戻った。彼は同僚たちに工場での出来事を報告しようとしたが、誰も彼の話を真剣に聞こうとしなかった。むしろ、彼らは健太を奇異な目で見ていた。
その夜、健太は再び悪夢にうなされた。夢の中で、彼は無数の鏡に囲まれていた。それぞれの鏡には、被害者たちの姿が映っていた。彼らは全員、健太を非難するような目で見つめていた。
「なぜ私たちを救ってくれないの?」「お前には責任がある」「もう逃げられないよ」
被害者たちの声が、健太の頭の中で響き渡る。彼は耳を塞ぎ、目を閉じたが、声は消えることはなかった。そして、彼の背後から低い笑い声が聞こえてきた。
健太は恐怖で目を覚ました。彼の部屋は、異様な雰囲気に包まれていた。壁には奇妙な影が揺らめき、何かが彼を見つめているような感覚に襲われる。彼は震えながらベッドから起き上がり、部屋の電気をつけた。
しかし、電気をつけても不気味な気配は消えなかった。むしろ、より強くなったように感じられた。健太は恐怖で体が硬直し、動くことができない。そのとき、彼の耳元で低い声が囁いた。
「お前は私から逃げられない」
健太は叫び声を上げ、部屋から飛び出した。彼は廊下を走り、アパートを出た。外の冷たい空気が、彼の頬を打った。彼は深呼吸をし、自分を落ち着かせようとした。
しかし、彼の心の中には、もはや逃げられないという恐怖が根付いていた。健太は、自分が何か邪悪なものに取り憑かれているのではないかと疑い始めた。そして、その存在が彼を通じて、この世界に侵入しようとしているのではないかという恐ろしい考えが浮かんだ。
健太は、この恐怖から逃れるためには、事件の真相を解明し、被害者たちを救わなければならないと決意した。しかし、彼の心の奥底では、もはや手遅れなのではないかという不安が渦巻いていた。
邪悪な存在の気配は、健太の周りにますます濃くなっていく。彼は、自分自身との戦いに勝てるのか、そして被害者たちを本当に救うことができるのか、不安と恐怖に苛まれながら、次の一歩を踏み出す決意をした。
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