(第3話)スマートフォン依存症からの脱出:30日間のデジタルデトックス体験記【創作大賞2024オールカテゴリ部門応募作】
第3話 初日の衝撃:スマホなしの生活の始まり
デジタルデトックス1日目の朝、目覚まし時計の鋭い音が静寂を破った。半ば無意識に、ベッドサイドに手を伸ばす。しかし、そこにあるはずのスマートフォンはない。その瞬間、これから始まる未知の生活への期待と不安が押し寄せてきた。
深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。ゆっくりと体を起こし、カーテンを開ける。朝日が眩しく部屋に差し込み、新鮮な空気が肺に流れ込む。普段なら、この瞬間をSNSにアップロードしていただろう。だが今日は、ただ目に焼き付けるだけ。不思議なことに、いつもより鮮明に世界が見える気がした。
朝食の準備をしながら、テレビのニュース番組をつける。スマートフォンでニュースをチェックする習慣が抜け落ち、何か物足りなさを感じる。しかし、テレビの前に座り、じっくりとニュースに耳を傾けると、普段は見逃していた細かな情報まで入ってくる。小さな達成感が胸に芽生えた。
通勤電車に乗り込み、本当の意味での「衝撃」を体験する。いつもならスマートフォンを操作しながら過ごすこの時間。周囲を見渡すと、ほとんどの乗客が画面に目を落としている。その光景が、今までにないほど奇妙に感じられた。まるで、自分だけが異世界に迷い込んだかのような感覚だ。
代わりに持参した本を開く。しかし、なかなか物語に没頭できない。無意識のうちに、ポケットの中のない端末を探る手を、何度も制止しなければならなかった。わずか30分の通勤時間が、まるで永遠のように感じられた。
オフィスに到着すると、新たな困難に直面する。チームのグループチャットを確認できないのだ。幸い、事前に上司と同僚に状況を説明していたため、重要な連絡は直接口頭か社内メールで受け取れるよう手配されていた。それでも、何か重要な情報を見逃しているのではないかという不安が常につきまとう。
昼休みも、新鮮な体験の連続だった。普段はデスクでスマートフォンを見ながら孤独に昼食を取っていたが、今日は思い切って同僚を誘い、社員食堂へ向かった。久しぶりの対面での会話に、最初は戸惑いを感じる。話題に困ることもあったが、次第に会話が弾み、予想以上に楽しい時間を過ごせた。
午後の仕事中、ふと気づいたことがある。スマートフォンがないせいか、仕事への集中力が増していた。絶え間ない通知音に邪魔されることなく、一つのタスクに没頭できる。これは予想外の効果だった。生産性の向上を実感し、少し自信がついた気がした。
しかし、帰宅後の時間の使い方に戸惑いを覚えた。いつもならSNSやゲームアプリで時間を潰すところだ。代わりに、昨日購入した筋トレグッズを取り出し、テレビの健康番組を参考に軽い運動を始めた。体を動かすことで、むしろ心地よさを感じる。久しぶりに汗をかき、体が目覚めていくのを感じた。
夕食後、友人からメールが届く。LINEではなくメールでのやりとりは少し面倒に感じたが、じっくりと言葉を選んで返信するのも悪くないと思った。短いメッセージではなく、長文で近況を伝え合うことで、むしろ友人との距離が縮まったような気がした。
就寝前、いつもならベッドでスマートフォンを見ている時間帯。代わりに本を手に取るが、なかなか集中できない。スマートフォンへの渇望感が最も強くなる瞬間だ。何度も引き出しに手を伸ばしそうになるのを、必死に抑える。代わりに、深呼吸を繰り返し、瞑想を試みた。
1日を振り返ると、予想以上に大変な一日だったことに気づく。スマートフォンがないことで、時間の感覚が大きく変化した。一方で、自分のために使える時間が増えたという新たな可能性も感じられた。
同時に、スマートフォンへの依存度の高さを痛感する。無意識のうちにスマートフォンを探す自分に、幾度となく驚かされた。これほどまでに依存していたのかと、愕然とする瞬間もあった。
しかし、新たな発見もあった。同僚との対話が増えたこと、仕事への集中力が高まったこと、そして体を動かす時間が取れたことなど、小さな変化が芽生え始めていた。これらの変化が、今後どのように発展していくのか、少し楽しみになってきた。
就寝前、明日への不安と期待が入り混じる中、ふと窓の外に目をやる。夜空に輝く星々が、いつもより鮮やかに見えた。スマートフォンの画面を見ていなければ、こんな景色に気づかなかっただろう。自然の美しさに、しばし見とれてしまった。
ベッドに横たわりながら、明日はどんな一日になるだろうかと想像する。不安は依然としてあるものの、少しずつこの新しい生活に慣れていけそうな気がしてきた。スマートフォンなしの生活は確かに不便だ。しかし同時に、新たな可能性に満ちているようにも感じられた。
目を閉じる前に、今日一日の出来事をノートに記録する。ペンを走らせながら、デジタルデトックス初日の感想を綴る。慣れない生活に戸惑いながらも、小さな発見と達成感があった一日。明日はどんな発見があるだろうか。そんな期待を胸に、静かに目を閉じた。
デジタルデトックス30日間の挑戦は、まだ始まったばかり。この先どんな変化が待っているのか、不安と期待が入り混じる中、穏やかな眠りに落ちていった。明日は、また新たな挑戦の日。スマートフォンなしの生活が、どんな気づきをもたらすのか。その答えを求めて、私は夢の中へと旅立った。
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