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(第8話)最後の言葉【創作大賞2024ホラー小説部門応募作】

#創作大賞2024 #ホラー小説部門

第8話 内なる闇との対峙

健太は、美咲の死の真相に近づくにつれ、自分の内なる闇とも向き合わざるを得なくなっていた。彼の心の中には、過去のトラウマと新たな恐怖が渦巻いており、それらが彼の現実と幻想の境界を曖昧にしていった。

ある夜、健太は再び悪夢に襲われた。夢の中で、彼は無数の鏡に囲まれた部屋にいた。それぞれの鏡には、彼自身の姿が映っていたが、どれも少しずつ歪んでいた。ある鏡には怒りに満ちた表情の自分が、別の鏡には恐怖に震える自分が映っていた。

突然、鏡の中の自分たちが動き出し、健太に向かって手を伸ばし始めた。「お前は我々だ」「逃げられない」「真実を受け入れろ」と、鏡の中の自分たちが口々に叫ぶ。

健太は恐怖に駆られ、逃げ出そうとするが、どこにも出口がない。彼は鏡の間を走り回るが、どの方向に進んでも同じ光景が広がっている。そのとき、一つの鏡の中に美咲の姿が映った。

「健太さん、自分自身と向き合って」美咲の声が響く。

健太は立ち止まり、深呼吸をした。彼は恐る恐る、目の前の鏡に映る自分の姿を見つめた。そこには、彼の内なる闇が具現化したような、歪んだ自分の姿があった。

「お前は本当に彼女たちを救えると思っているのか?」鏡の中の自分が問いかけてきた。

健太は震える声で答えた。「わからない。でも、諦めるわけにはいかない」

鏡の中の自分は不気味な笑みを浮かべた。「お前の中にある闇を認めろ。それが真実を知る鍵だ」

その瞬間、健太の周りの鏡が一斉に割れ、無数の破片が彼に向かって飛んできた。彼は反射的に腕で顔を守ったが、予想していた痛みはなかった。目を開けると、彼は自分の部屋にいた。

冷や汗をかきながら起き上がった健太は、夢の意味を考えた。自分の内なる闇と向き合うこと。それが、真実を知るための重要な一歩なのかもしれない。

翌日、健太は決意を新たにして、過去の事件の調査を続けた。彼は警察署の資料室で、美咲が言及していた過去の事件に関する情報を探し始めた。

何時間もの捜索の末、健太は一つの古い事件ファイルを見つけた。それは、20年前に起きた連続殺人事件に関するものだった。被害者たちの特徴や殺害方法が、現在の事件と酷似していた。

健太はファイルを開き、詳細を読み進めた。そのとき、彼の目に見覚えのある名前が飛び込んできた。田中健二。美咲が最後に会っていた男性の名前が、被害者の一人の親族として記載されていたのだ。

「これが、美咲が追っていた真実なのか」健太は呟いた。

彼は急いで田中の家に向かった。しかし、到着してみると、家は無人で、荒れ果てていた。ドアは開いており、中には誰もいなかった。

健太は恐る恐る家の中に入った。リビングには、壁一面に貼られた新聞記事や写真があった。それらは全て、20年前の事件と現在の事件に関するものだった。

突然、背後で物音がした。健太は驚いて振り返ったが、そこには誰もいなかった。しかし、彼の目の前に一枚の写真が落ちていた。それは、若い頃の田中と美咲が一緒に写っている写真だった。

健太はその写真を手に取り、じっと見つめた。そのとき、彼の耳に囁きが聞こえた。「真実はもっと深いところにある」

彼は恐怖で体が硬直したが、その声の主を探そうと周りを見回した。しかし、部屋には彼以外誰もいない。

健太は急いで家を出ようとしたが、ドアが開かない。パニックに陥りそうになりながら、彼は必死にドアを叩いた。そのとき、彼の背後で鏡が割れる音がした。

振り返ると、壁に掛かっていた大きな鏡が粉々に割れ、その破片が床に散らばっていた。健太は恐る恐るその破片に近づいた。

一つの大きな破片に、彼の歪んだ顔が映っていた。しかし、よく見ると、それは彼自身ではなく、どこか別の人物のように見えた。その顔は徐々に変化し、美咲の顔に、そして田中の顔に変わっていった。

「我々は皆、繋がっているのだ」鏡の中の顔が語りかけてきた。

健太は恐怖で叫び声を上げ、目を閉じた。しばらくして目を開けると、彼はまた自分の部屋にいた。夢だったのか、それとも現実だったのか、彼にはもはや区別がつかなかった。

しかし、彼の手には、田中と美咲の写真が握られていた。それは夢ではなく、現実だったのだ。

健太は深い呼吸をし、自分を落ち着かせようとした。彼は今、真実に近づいていることを感じていた。しかし同時に、その真実が彼自身の内なる闇と深く結びついていることも理解し始めていた。

彼は決意を新たにした。自分の内なる闇と向き合い、それを受け入れること。それが、美咲を救い、この恐ろしい連鎖を断ち切る唯一の方法なのかもしれない。

健太は、次の一歩を踏み出す準備をした。彼の前には、さらなる恐怖と真実が待ち受けているはずだ。しかし、彼はもう逃げない。美咲の声が彼の心の中で響く。「健太さん、頑張って」

彼は深呼吸をし、自分の内なる闇と対峙する準備をした。真実への道のりは、まだ遠く険しいものだったが、健太は前を向いて歩み続けることを決意した。彼の心には、恐怖と希望が交錯していたが、美咲の声が彼に勇気を与え続けていた。

次の瞬間、健太の周りの空気が変わり、部屋が歪み始めた。彼は自分が再び、現実と幻想の境界線上にいることを感じた。そして、彼の目の前に、自分自身の姿が現れた。

「さあ、真実を受け入れる準備はできたか?」もう一人の自分が問いかけてきた。

健太は震える声で答えた。「はい、準備はできている」

そして、彼は自分の内なる闇との最後の対決に向けて、一歩を踏み出した。

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