（第３話）Twitter社創業物語【創作大賞2025ビジネス部門応募作】2024/08/25公開
第3話: 政治の舞台へ
2011年、Twitterは世界中で急速に普及し、その影響力は政治の世界にまで及んでいた。ジャック・ドーシーは、自身が創り出したプラットフォームが世界を変える力を持っていることを、より強く実感し始めていた。
1月25日、エジプトで大規模な反政府デモが勃発した。「アラブの春」と呼ばれるこの一連の民主化運動において、Twitterは重要な役割を果たした。デモ参加者たちは、Twitterを使って情報を共有し、集会の場所や時間を調整していた。
カイロのタハリール広場に集まった数万人のデモ参加者の中に、25歳のワエル・ゴニムがいた。彼は、Twitterを使って抗議活動を組織した中心人物の一人だった。
「我々は、ソーシャルメディアを使って革命を起こした」とゴニムは後にインタビューで語っている。「Twitterは、我々の声を世界に届ける力を与えてくれた。」
この出来事は、Twitterの力と責任の大きさを世界に示すことになった。ドーシーは、自身のプラットフォームが歴史的な出来事の中心にあることに、興奮と不安を感じていた。
「Twitterが革命の道具になるとは、正直予想していなかった」とドーシーは後に語っている。「我々が作ったのは、人々をつなぐためのプラットフォームだ。それが民主化運動を支える力になるとは...」
エジプト政府はインターネットの遮断を試みたが、世界中のハッカーたちがTwitterへのアクセスを維持するための方法を次々と編み出した。Twitterは、言論の自由と民主主義のシンボルとなっていた。
3月、アメリカ連邦取引委員会（FTC）は、Twitterのプライバシーとセキュリティに関する調査結果を発表した。2009年に発生したハッキング事件を受けてのものだ。FTCは、Twitterに対して今後20年間、2年ごとにセキュリティ監査を受けることを義務付けた。
この決定は、Twitterに大きな衝撃を与えた。ドーシーは緊急の役員会議を招集した。
「これは我々にとって厳しい判断だが、受け入れなければならない」とドーシーは社内会議で語った。「ユーザーの信頼は何よりも大切だ。我々は、より安全で信頼できるプラットフォームを作り上げる必要がある。」
Twitterは、セキュリティチームの強化とプライバシー保護策の改善に乗り出した。同時に、ユーザーに対してもセキュリティ意識の向上を呼びかけた。
5月1日、アメリカ軍の特殊部隊がパキスタンでオサマ・ビン・ラディンを殺害した。この出来事は、Twitterがニュースの速報媒体として機能することを再び証明した。作戦が行われている最中、現地住民のソーハイル・アタハルが「ヘリコプターが頭上を飛んでいる。これは珍しい」とツイートし、知らずのうちに世界的ニュースをリアルタイムで報じることになった。
アタハルのツイートは瞬く間に世界中に拡散され、従来のメディアよりも早く情報を伝えることになった。
「Twitterは、もはやただのソーシャルネットワークではない」とドーシーは語った。「我々は、世界中の人々をリアルタイムでつなぐ、新しい形のメディアになったのだ。」
しかし、この力は新たな課題ももたらした。偽情報の拡散や、過激派によるプラットフォームの悪用など、Twitterは複雑な問題に直面することになる。
7月、アメリカ連邦選挙委員会（FEC）は、政治広告にTwitterのハンドルネームや画像を含めることを許可した。これにより、Twitterは政治の舞台により深く関わることになった。
ドーシーは、この決定の重要性を認識していた。「我々は、民主主義のプロセスを支援したい」と彼は述べた。「しかし同時に、公平性と透明性を維持することも重要だ。政治広告の取り扱いには細心の注意を払う必要がある。」
9月17日、「Occupy Wall Street（ウォール街を占拠せよ）」運動が始まった。この抗議運動でも、Twitterは重要な役割を果たした。デモ参加者たちは、ハッシュタグ #OccupyWallStreet を使って情報を共有し、運動を組織化した。
ニューヨークのズコッティ公園に集まった数千人のデモ参加者の中に、23歳のジャスティン・ウェデスがいた。彼は、Twitterを使って抗議活動の様子をリアルタイムで世界に発信していた。
「Twitterは、我々の声を増幅させてくれる」とウェデスは語った。「1%に対する99%の声を、世界中に届けることができるんだ。」
しかし、この出来事はTwitterに新たなジレンマをもたらした。一方で、Twitterは言論の自由を支持し、人々が自由に意見を表明できるプラットフォームであることを誇りにしていた。他方で、暴力的な行動を煽るような投稿や、誤情報の拡散を防ぐ責任もあった。
ドーシーは、この難しい問題に対して慎重に対応した。「我々は、表現の自由と社会の安全のバランスを取らなければならない」と彼は語った。「これは簡単な問題ではない。しかし、我々には責任がある。」
10月、Twitterは重要な機能更新を行った。ツイートの埋め込み機能の導入だ。これにより、ニュースサイトやブログなどの外部サイトでツイートを直接表示できるようになった。この機能は、Twitterのコンテンツをより広く拡散させることを可能にし、プラットフォームの影響力をさらに高めることになった。
「これは、Twitterを真のグローバルタウンスクエアにする一歩だ」とドーシーは説明した。「世界中の会話が、あらゆる場所でリアルタイムに共有される。これこそが、我々が目指す未来だ。」
2011年末、Twitterの月間アクティブユーザー数は1億人を突破した。1日のツイート数は2億5000万件に達し、毎秒4,600件のツイートが投稿されていた。
Twitterの急成長と影響力の拡大は、ドーシー自身にも大きな変化をもたらした。彼は、テクノロジー企業の創業者から、世界的な影響力を持つ人物へと変貌を遂げていた。
ある日、ドーシーは自身のオフィスで深い思索に耽っていた。窓の外には、サンフランシスコの街並みが広がっている。彼は、Twitterが世界に与えた影響を振り返っていた。
「私が大学を中退してプログラマーになった時、こんな未来が待っているとは想像もしていなかった」とドーシーは親しい友人に語った。「Twitterは、私の人生を完全に変えた。そして今、世界中の人々の生活を変えている。この責任の重さを、常に感じている。」
ドーシーは、Twitterの会長職とSquareのCEOを兼任しながら、両社の成長と発展に尽力した。彼の日々は、二つの革新的な企業を率いるという前例のない挑戦に満ちていた。
「毎日が新しい挑戦だ」とドーシーは語った。「でも、それこそが私の原動力になっている。世界を変える可能性を持つ二つの会社を同時に率いることができる。これ以上の幸せはない。」
2011年は、Twitterにとって転換点となる年だった。政治や社会運動における影響力の拡大、新機能の導入、ユーザー数の急増。これらの出来事は、Twitterが単なるソーシャルネットワークから、世界規模のコミュニケーションプラットフォームへと進化したことを示していた。
同時に、この年はTwitterに新たな課題をもたらした。言論の自由と社会の安全性のバランス、プライバシーとセキュリティの問題、政治との関わり方。これらの課題は、Twitterの未来を左右する重要な問題となった。
ドーシーは、これらの課題に真摯に向き合った。彼は、Twitterの力と責任の大きさを十分に理解していた。「我々には、世界をより良い場所にする力がある」と彼は常々語っていた。「その力を正しく使うことが、我々の使命だ。」
Twitterの物語は、21世紀のテクノロジー革命を象徴するものとなった。小さなスタートアップから始まり、世界を変える力を持つプラットフォームへと成長していく過程は、まさに現代のシンデレラストーリーだった。
そして、その物語の中心にいたのが、ジャック・ドーシーだった。彼の大胆なビジョン、技術的な才能、そして時に苦渋の決断を下す勇気が、Twitterを成功に導いたのだ。
ドーシーの物語は、多くの若い起業家たちに勇気と希望を与え続けている。それは、一人の若者の大胆な発想が、いかにして世界を変えうるかを示しているからだ。
Twitterの誕生から2011年までの道のりは、決して平坦ではなかった。技術的な課題、法的問題、倫理的ジレンマなど、数々の障害が立ちはだかった。しかし、ドーシーとTwitterチームは、それらを一つ一つ乗り越えていった。
その過程で、Twitterは単なるテクノロジー企業から、グローバルなコミュニケーションプラットフォームへと進化していった。そして、その影響力は、誰も予想しなかったほど大きなものとなったのだ。
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