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Leopard 2における特殊装甲

MBTに関する情報の中でも大きな関心を集められつつもその実態は秘匿性が高く公開される事が稀な防護力だが、近年Leopard 2はその長い運用期間を経て徐々に情報が公開されてきており、冷戦前後の仕様については比較的その内容が明らかになっている。そこで、ここではその特殊装甲に焦点を絞り、Leopard 2における特殊装甲の簡易的なまとめを作成した。無論、実際にはMBTに限らずAFVの生存性と言うのは単に表面的な装甲の耐弾性だけでは無く、レイアウト等を含めた総合的な物で評価される物であり、その耐弾性のみで優劣を付けれる物では無い。飽くまでここではその特殊装甲についてのみ言及するものであるとは最初に断っておく。

概要

Leopard 2特殊装甲の変遷

Leoprad 2は西側第三世代MBTとして特殊装甲を採用し高い防護力を獲得した事が知られているが、その特殊装甲は製造時期毎に幾つかに分類できる。
中でも、A4からA5までの時点で装備されたB-tec、C-tec、D-tec※1として知られる3種の特殊装甲は比較的情報が公開されており、ここでは主にそれらについて紹介する。
尚、それぞれの装甲は厳密には各特殊装甲に用いられる技術形態を指していると考えられるが、実質的に特殊装甲の固有名詞として扱われている為ここでもそれに倣う。

B-tec

Leopard 2A4第5バッチ

Leopard 2A4前期型特殊装甲、量産車としては第一世代の複合装甲に相当する。
ドイツにおけるA4の生産台数2125両中約9割に当たる1896両がこの装甲で製造され、冷戦中から現在運用中のA4についても一部例外は有るがほぼこの装甲が装備されており、実質A4はB-tecと言ってよい。
装甲形態としてはKMW(現KNDS)公式HP(独語)のLeopard 2A4の解説にも明記されている通り、当時西側で主流であったNERAによるBeulblechpanzerung(Bulging plate)装甲が使用されている。従来の装甲と比較して主に成形炸薬弾に対し高い防護力を有しており、その防護対象(要求)はT-72、T-80(T-64)から射撃される125mm鋼製侵徹体APFSDS、及び口径136mmHEAT弾に対する耐弾である。

Leopard 2A4の防護対象に関する記述
Leopard 2AV 車体・砲塔NERA特殊装甲
技術的にはB-tecと同等と考えられる

当時としては特殊装甲の採用により前任のLeopard 1と比較して飛躍的に防護力が向上し、登場当初の脅威に対しては十分な性能を有していた。が、冷戦中の技術の進歩は目覚ましく、後述する防御力等から分かる通り良くて3BM22クラスへの耐弾が限界であり※2、T-80U等と共に80年代中盤から配備された3BM32等に対しては既に防御力が不足していた。現代においてもこの装甲を備えたA4が広く配備されているが、より新世代の3BM42や3BM60に対しては言わずもがなである。とは言え、その特徴であるHEAT弾の防護については冷戦の終結まで相対する脅威に対し十分な防護力を有しており、この世代の西側MBTの特殊装甲として求められ、そして実現された装甲としては一般的な部類である。

製造中のLeopard 2A4の砲塔

C-tec

Leopard 2A4第6バッチ

Leopard 2A4後期型特殊装甲、量産車としては第二世代の複合装甲に相当する。(適用部:砲塔・車体・重サイドスカート)
1987年以降、A4の第6バッチ97両目以降のA4がこの装甲で製造され(229両)、A4の特殊装甲としては最終型にあたる。また、後のA5についてもC-tecが装備されており、特にA5の第1バッチ(225両)はA4の前期型(第1~6バッチ)の砲塔と後期型(第6~8バッチ)の車体を組み合わせて改修※3を行う事で製造されている。その為A4については現存数は少なく、現在運用されている純粋なC-tec装備車両はほぼ全てドイツとは別にスイスで生産・改修されたPz87 WEであり、今日残るのは基本的にはA5(A6)である。

Pz87 WE

装甲形態としては新たにセラミックスを採用したとされており、実装形態は不明だがB-tecと比較して徹甲弾に対しても防御力が向上している。防護対象はT-72、T-80(T-64)から射撃される125mm重金属侵徹体APFSDS、及びより大口径のHEAT弾に対する耐弾である。
前述の通りB-tecと比較して徹甲弾に対する防護力が向上した事で順当に防護力が向上しており、至近距離から射撃された自身のDM23(東側重金属APFSDSに相当)に耐えうる性能を備えるなど、Leopard 2の特殊装甲における一つの完成形と言える。しかしながら、依然徹甲弾に対しては想定脅威に対し十分な防護力を達成しているとは言えず、一般に西側MBTとしてイメージされる様な真の意味で高い防護力を手にするのは後述するD-tec(と併用)以降となる。
尚、A5の輸出型であるStrv122には車体前側面内部の空間部分についても何らかの特殊装甲が装備されている事が確認されているが、それがA5(A4)以降の新造C-tec車体での標準なのか、Strv122等のMLC70を超える輸出型での仕様なのかは明記された資料が知る限り無く不明。(少なくともA7Vでは搭載されており、順当にStrv以降の新造車体には装備されている可能性が高い)

Strv122車体装甲レイアウト概略
新たに車体前側面を覆うように空間装甲だった部分に特殊装甲が追加されている

D-tec

Leopard 2A4第8バッチ

(複合)空間付加装甲※4、先の二つとは装甲の形態が異なるがLeopard 2の装甲としては第三世代の複合装甲に相当する。
Leopard 2A4第8バッチ軽サイドスカート※5にて最初に装備され、A5以降ではLeopard 2の性能向上計画であるKWSⅡの一環として砲塔・車体にも装備(厳密には開発)された。日本語圏では特徴的な砲塔の付加装甲を指して俗にショト装甲とも呼ばれる。開発にはIBD社が関わっていたとされ、当時のパンフレットに記載されている通りD-tec技術はMEXASファミリーの一部であると考えられる。

初期のD-tecと思われる付加装甲を装備したTVM
英国の文書によれば、最初期の試作段階では対CE向けと対KE向けの2種が存在し、KE型も優れていたが特にCE型の質量効率が従来のNERAと比較して良好であったとされる。初期のKWSⅡの試作車両に装備された付加装甲は現行の物とは形状が異なっており、鋲などの形状からこの砲塔・車体正面部がKE型、側面がCE型なのかもしれないが、確かな事は不明
量産型のD-tec砲塔正面付加装甲が取り外されたLeopard 2A6NL
砲塔改修部痕と共に付加装甲取り付け座が分かり易い
D-tec砲塔付加装甲内側
隔壁は防楯への側面(斜め)からの弾道防護に適した配置になっており、特に左側については一枚隔壁が多く砲手側の防護に重点を置いた形状になっている。一方で逆側についても明らかにもう一枚隔壁が装備出来る様な形状になっており、派生型によっては装備している可能性も有るが資料の母数も少なく知る限り確認出来ていない為、実態は不明
(実際同じD-tec付加装甲でも砲塔正面の物については広報等で展示する場合内部が隠されている場合が多い)

砲塔・車体に装備されたD-tec付加装甲は外観から確認出来る様に、一見すると唯の鋼鈑による空間装甲にも見えるが、その構造は隔壁を伴うボルトにより締結された2層以上の硬度等の異なる鋼鈑(恐らくHAA)+α(NERA中間材料)から構成されており、実体としては複合装甲の表層が突き出ているといった方が適切である。
この装甲は付加装甲の形で装備されている通り、単体で機能する物ではなく、主装甲等と併用する事により相乗効果で高い防御力を発揮する事を目的としている。現代の侵徹体は非常に高い貫徹力を持つ一方で、その侵徹体は比較的細長く外部からの干渉に影響され易い。そこで主装甲に着弾する以前の段階で侵徹体に干渉し応力を発生、その過程で離軸角を増大させつつ破損を狙い、最終的に弱体化された侵徹体を主装甲で耐弾する事で大きな効果を得る事が可能とされる。
この作動機序は大きく3段階に
・Destabilisierungsーstufe (Disturber)
・Brechstufe (Disrupter)
・Erosionsstufe (Absorber)
と大別され、この空間を用いた防護コンセプトが所謂D-tecと考えられる。

D-tec作動機序概略

事実、前述の通りD-tec付加装甲は所謂ショト装甲以外にもサイドスカートにも用いられているが、これは防護対象は異なれど同様のコンセプトの装甲である事を意味していると思われる。

D-tec技術が用いられた複合材料が使用された軽量型軽サイドスカート(Strv122)
後期型のA4の車体から改修されていた初期のA5等までは装備されていたものの、破損し易く後に薄い鋼鈑で構成された第三世代サイドスカート(現行)に順次置き替えられた

A5ではこれをC-tecと組み合わせ装備しており、比較的軽量でありながら徹甲弾、HEAT弾問わず非常に高い防護力を発揮する。その防御力は後述するが、現代においても最新の火器を除く大半の脅威に対し耐弾可能であり、最新型であるA7系に至るまで装備されている事からその効果の高さが伺える。
一方で、本国のドイツでは車重の増加等の点でこうしたD-tec付加装甲がA5以降の車体に装備される事は無く、長らく砲塔のみの装備でその防御力には不均衡が生じており、完全な装備形態のLeopard 2はA7Vの登場まで待たなけらばならなかった。(輸出型ではスウェーデンを筆頭にそれ以前から装備されている)
余談だが、後発の非対称戦から発展した対CEの付加装甲と比較し対KEの側面が強い事から、そうした付加装甲と分類する上でUrban(市街戦)に対しDuel(正規戦)※6モジュールとも呼称される。

Leopard 2PSO-VT (Leopard 2A7+ Duel OPS)
Leopard 2PSO-VT (Leopard 2A7+ Urban OPS)

2000年以降製造型第四世代(仮称)

Leopard 2A6HEL

2000年以降に新造されたLeopardo 2EやLeopard 2HELにて導入したとされる特殊装甲。新型となりKMWのプレゼン資料に記載された防護力の概略によると徹甲弾、成形炸薬弾共に耐弾性が向上したとされるが詳細不明。
少なくともLeopard 2HELに関してはそうした装甲強化に加え砲手用照準器前面の特殊装甲には192kg分の装甲が追加され防御力が向上している。※7

METKAで製造されるA7QAT

2020年以降製造型第5世代(仮称)

Leopard 2A7V

Leopard 2A7V以降新型Leopard 2に導入された特殊装甲。
(技術的には先の第四世代の延長線上でHEL~A7QAT~A7Vと段階的に改良された装甲の可能性も有るが、新型の装甲である事には変わりない為ここでは新型特殊装甲として別に紹介する)
EDRよると内部の特殊装甲が改良された他※8、車体が新造された事でStrvと同じく車体前側面内に特殊装甲が追加された。また、外観から見て取れる様に車体前縁にD-tecモジュール、上面にはA6M CANから装備が確認された付加装甲が装備された。これにより従来ドイツ軍で配備されていたLeo2とは異なり、車体についても砲塔と同等の防護力を得た。上面の付加装甲についての具体的な情報は明らかになっていないが、非対称戦におけるA6M CANを始めとした車両に装備されている事や、成形炸薬弾に対しモジュールとして換装容易である事が謳われている事、その外見等から対CE向けの付加装甲と見られる。
最新車両でもあり具体的な防護力の詳細は不明。
尚、A7VはA4、A6NL、A7の砲塔を改修する事で製造されており、その内A7、A6NLベースの砲塔特殊装甲についてはその内容と更新に議論の余地※8が有るが、少なくとも製造されたA7Vの104両中A4ベースの68両は砲塔筐体の改修を含むため確実に特殊装甲が最新型に置き換えられている

EDR Krauss-Maffei Wegmann: the ever-lasting Leopard 2
hull(車体・砲塔?)の内部特殊装甲が更新され、chassis(車体)に付加装甲が装備されたとある
Leopard 2A6M CAN
Leopard 2A7V 改修概要

付加装甲各種

後日追記予定


防護力

ここまで各特殊装甲の概要を述べてきたが、具体的な防護力の資料についても部分的に明らかになっており、特に1980年代後半の英国、1989~年のスウェーデンにおける2つの次期MBT導入時の資料には詳しく記述されている。ここではその個別の仔細は省くが(各装甲形態を読み解く必要の有るD-tecを除く)、それぞれの試験においてLeopard 2に対する耐弾試験が実施されており、それに伴う検証結果等からその各防護力を推測・確認出来る。

B-tec

この装甲については概要にて前述した様に、T-72、T-80(T-64)から射撃される125mm鋼製侵徹体APFSDS、及び口径136mmHEAT弾に対する耐弾である。
実際の耐弾試験では当時WTOの弾薬は入手困難であり情報も限られた為、NATOのそれぞれに相当する弾薬にて試験及び開発が行われたが、そうした評価と後に得られた情報から上記の防護力(要求)とされた様である。

B-tecの各部における防護力

こうした耐弾試験から英国の資料では"Leo 2 (in-service)"、つまりLeopard 2A4 B-tecにおいてその防護力はKE350mm/RHAe、CE700mm/RHAe※9、10とのデータが提供され記載されている。この数字は後述するスウェーデンにおけるトライアル時に提供されたB-tecのデータとも一致しており、この情報の妥当性と共に他スウェーデンのデータを比較検討する上でも非常に意義が有る。

砲塔正面領域における防護値
(英国資料より)
B-tecの各象限・防護力におけるグラフ
(スウェーデンの資料より)

C-tec

上記の通りT-72、T-80(T-64)から射撃される125mm重金属侵徹体APFSDS、及びより大口径のHEAT弾に対する耐弾である。
こちらについては英国が導入検討した際、耐弾試験が行われその結果が記録・公表されている。詳細については下記を参照して貰いたいが、脅威対象を模擬する物として、KEは射距離200mでの120mmDM23 APFSDS (WP125mmWA相当)、CEはHOT1 136mmHEAT (WP 150mmHEAT相当)が用いられた。
結果については先程の資料を再び引用する事になるが、その防護力はLeo 2 (Improved as proposed)に記載されている通り脅威対象のRHAe相当の貫徹力通りKE410~420mm/RHAe、CE750mm~800mm/RHAeと評価されている。数値としては従来のB-TecからKE60mm/RHAe、CE100mm/RHAe程の向上であり、割合としては約10~20%の強化となる。
また、実弾試験においては資料の通り結果はまちまちと言った所であったが、英国での試験後ドイツ側はC-tecを改良し問題は改善されたとしており、それが反映されてか後の英国の資料ではKE435mm/RHAe±23.5°、CE780mm/RHAe±27°とされている。
尚、上記のC-tec防護力については全てA4筐体における防護力であり、筐体から改修されC-tecが装備されたA5砲塔についてはより改良された装甲である可能性が高いが※11、そちらについては後述するD-tecと常に併用される為、A5砲塔におけるC-tec単体の防護力は不明である。

車体(上)・砲塔(下)における試験時の位置・弾道と結果を記した図
各射撃における結果詳細

D-tec

D-tec装甲は上記の装甲とは異なり、特に要部においては主装甲と組み合わされ付加装甲として機能する。その為実際には前述した装甲を含め〇ーtec+D-tecといった形になり、防護力についてもそれに準ずる形となる。
スウェーデンの資料によると、D-tec付加装甲は当時の時点でそれぞれD1~D3の3種が少なくとも存在するとされ、コンビネーション毎に番号が振り分けられている事が確認出来る。各D-tec付加装甲が具体的に何を指しているかについてはこの資料から断定する事は出来ないが、少なくとも前述した確認されているD-tec付加装甲の何れかに分類されていると思われる。

各装甲形態毎の象限における防護力図

同資料の左図のBーtecのみの装甲形態におけるグラフでは、コンビネーション表記が存在せず、右図のB-tec、D-2ではコンビネーション5となっている事が見て取れる。これはこの装甲が付加装甲として併用される物である事を改めて示唆すると共に、中央のグラフの紫部分は左図と、黄色部分と右図は一致しており、英国の資料からC-tecの防護力が420mm程である事から少なくとも紫がB-tec、赤がC-tec、黄がB-tec+D-2であると分かる。
この比較より、D-tec付加装甲は主装甲と組み合わせによって、概ねKEに対し200mm/RHAeと60%程の性能向上が達成されている事が伺える。
以降青と緑については推測にはなるが、青は赤のC-tecの50%の値にB-tecにおけるD-tec向上分の200mmと60%を加味するとそれぞれ620mmと672mmと概ね650mm程となり、英国における開発段階のA4砲塔におけるC-tec+D-tec装備時(当時の提案)の見積もりRHAe/600mmと概ね一致する事から、青についてはC-tec+D-2。緑についてはそれ以前の物と比較し、グラフの変動が投影面積に対しより多くの部分をカバ―している事からも特殊装甲による防護範囲の拡大を示唆していると考えられ、その事からC-tecに車体付加装甲を装備したD-2+D-1(3)あるいはその両方の装備を指す意味でD-1(3)を装備した形態と考えられる。
また話が前後し仮定の仮定の話になって恐縮だが、後のA5における構成が所謂マンハイマー構成と呼ばれる車体付加装甲を装備しない独軍等における構成とスウェーデン等に見られる車体付加装甲を装備した構成の実質的に2系統に分類される事からも、同グラフのD-2を装備した黄、青については前述の防護範囲から砲塔のみに付加装甲装備した状態の物と推測される。

まとめると各パッケージについては概ね次の様な物となる
紫:B-tec
赤:C-tec 
黄:B-tec+D2※12
青:C-tec+D2 
緑:C-tec+D2+D1(D3)或いはC-tec+D1(D3)
D1:車体、或いは砲塔含む装備形態(若しくはサイドスカート)
D2:砲塔
D3:D1に準ずる

各形態毎前方象限50%の領域における防護力
(筆者追記)※D-〇については推測

同資料では、スウェーデン仕様(以下SW)、ドイツ仕様(以下DE)における耐弾試験に基づく比較も記載されており、部位ごとの具体的な防護力についても確認出来る。

砲塔部
車体部

両国の装甲仕様がどの構成であるかについては資料の情報から断定する術は無い。だが、少なくともSW仕様については当時の要求から最高の弾道防護力を得る構成を装備して然るべきで、DE仕様については後に採用されたマンハイマー構成とも異なる車体付加装甲が装備された形態である為、恐らく参考として仮定のDE仕様※13と先程のグラフで言う所の緑の装甲形態のStrv122の比較と思われる。
各装甲は同トライアルでの他の試験の模様からコンポーネント単位で耐弾試験が行われたと思われ、その試験弾薬と結果に基づいて見積もられたRHAeにて防護力(相対的な脅威に対する)が記載されており、詳細は以下の通りである。

試験に用いられた砲弾
左から
105 10C2 (KE)
CE 143 FFV(CE)
120 12 C1(KE)
CE165(CE)

SW仕様
砲塔

右正面 30°KE810mm! 0°KE820mm 0°CE1850mm
左正面 30°KE720mm! CE1670mm! 5°CE1920mm
左側面 20°KE700mm! 22.5°CE1400mm 25°CE1470mm!
右側面 20°CE1480mm 90°CE379mm

車体

正面(傾斜先端部) 0°KE750mm!CE1580mm!
車体上面(装甲モジュール部) 0°KE656mm! CE968mm
サイドスカート 17.5°KE700mm! 25°CE1400mm! 90°CE313mm

DE仕様
砲塔

右正面 20°KE758mm 0° KE817mm 20°CE1679mm
左正面 0°KE862mm CE1720mm
右側面 20°KE690mm 20°CE1475mm 90°CE371mm

車体

正面(傾斜先端部) 0°KE670mm CE1257mm 車
体上面(装甲モジュール部) データ無し
サイドスカート 15°KE623mm 15°CE1273mm 90°CE340mm

両車比較

砲塔部(筆者追記)
車体部(筆者追記)


上記の結果から脅威対象に対する弾道防護範囲
DE仕様の砲塔正面防御範囲が0°と不自然な値になっているが、これは単に前述の表の試験で砲塔正面左側傾斜時の試験を取り扱っていない為だと考えられ、実際には砲塔右側と同等の防御範囲だと思われる

詳細については情報量が多いため、各自で確認していただきたい。
結論としては、D-tecを装備したLeopard 2(Strv122)は要部においてKE700mm、CE1500mm以上の防護力を達成していることが伺える。これは登場時点で諸外国のMBTと比較しても最高クラスの弾道防護力を有していると言え、概要にて触れた通り現代でも十分通用するレベルの特殊装甲となっており、それは複数のトライアルにおいても証明されている。
一方で、D-tec装甲それ自体は質量効率に優れているとは言え、最終的に車重が増加したのもまた事実であり(砲塔付加装甲のみで1.5t)、飽くまでトレードオフの関係に有る事には留意する必要が有る。(それでも当時の同重量帯のMBTと比較して防護力が高いが)

まとめ

Leopard 2

B-tec

装甲種別:Beulblechpanzerung(NERA)
採用:初期型~
適用部:車体・砲塔部内装式モジュール、重サイドスカート
防護対象:鋼製侵徹体APFSDS、136mmHEAT
前方象限0°正面投影面積50%の領域:
KE350mm/RHAe
CE700mm/RHAe

C-tec 

装甲種別:セラミックス装甲※14
採用:Leopard 2A4 第6バッチ97号車以降、A5以降生産車両~
適用部:車体・砲塔部内装式モジュール、重サイドスカート
防護対象:重金属製侵徹体APFSDS、より大口径のHEAT
前方象限0°正面投影面積50%の領域:
KE410~420mm/RHAe:射距離200m
着速1650m/s DM23に耐弾(125mm級重金属侵徹体APFSDSに相当)
CE750mm~800mm/RHAe:136mmHEAT 
HOT1(東側水準想定150mm級HEATに相当)

D-tec

装甲種別:特殊空間付加装甲(MEXAS) KWSⅡ
採用:Leopard 2A4第8バッチ、A5以降生産車両
適用部:軽サイドスカート、正面付加装甲
防護対象:N/A (120mmKE、165mmHEAT)
前方象限0°正面投影面積50%の領域: 
B-tec+D2-tec(検討試作のみ)
KE530mm/RHAe

ドイツ仕様(検討のみ、後に砲塔部のみD-tecにて量産)
車体要部:
KE670mm/RHAe
CE1200mm/RHAe

C-tec+D-tec(スウェーデン仕様)
前方象限0°正面投影面積50%の領域: 
KE700mm</RHAe
車体要部:
KE750mm/RHAe
CE1580mm/RHAe

諸外国MBT防護力 (参考)

Chieftain SCPP(Stillbrew)
砲塔部
KE420mm/RHAe
CE>700mm/RHAe(B-tec Leo2を下回る)

Challenger 1
砲塔部
KE435/mmRHAe
CE700mm/RHAe
車体部
KE300/mmRHAe
CE580/mm/RHAe

Challenger 2
砲塔部
KE600/mmRHAe
CE900/mmRHAe
車体部
KE350/mmRHAe
CE650/mm/RHAe

Leclerc S1
砲塔部
KE420mm/RHAe±20°(防楯部を除く)
CE800mm</RHAe

M1A1(BRL-2)
砲塔部
KE460mm/RHAe±20°
CE700mm/RHAe±27°
車体部
KE350mm/RHAe±25°
CE750mm/RHAe±25°

M1A1、A2(DU、Gen2HAP)
砲塔部
KE600(650)mm/RHAe±30°
CE900mm/RHAe±30°
(砲塔部の狭い象限においてはCR2を上回るとの情報から±25°程ではKE650mm/RHAe程度に達すると思われる)
車体部
KE350mm/RHAe±25°
CE750mm/RHAe±25°

Type90
砲塔・車体部
KE580mm</RHAe
CE800mm</RHAe
(極至近距離におけるJM33(530mmRHAe/200m)、JM12(480mm<RHAe)に対する耐弾性を有するとされる情報からの最低推定値)

T-80U
砲塔部
前方象限0°正面投影面積50%の領域:
KE610mm/RHAe
CE800mm/RHAe(当時推定値)

(Stridsfordon I dag och imorgon、Chieftain Tank Replacement等から)

最後に

以上が私的なまとめでは有るがLepopard 2における特殊装甲の概要である。
如何だっただろうか?一通り目を通した第一印象としては「思っていたよりも防護力が低い」といった感想を持たれたのではないだろうか。実際、過去の私もそう感じた。一般に、西側G3MBTといえばその特殊装甲によってあらゆる脅威に耐弾するかのようなイメージが持たれがちであるが、その実機密のベールの中では開発が活発であった冷戦中はかなり際どいラインでシーソーゲームをしていたと言える。無論、現代においてもそれは続いているのだろうが、一般にはその最前線を知る由はない。今回のまとめは、そのような過去の機密情報を含む情報が近年公開されるに至り、執筆することができた。一部の資料は、元を辿れば海外の熱心な有志が公文書等を請求し公開することで周知されてきた経緯がある。私はそれに乗っかっているだけに過ぎず、勝手な話だとは承知だがこの場を借りてそうした海外の有志には感謝を申し上げたい。最後に、拙い記事であったとは思うが、読んでくださったことに感謝を申し上げると共に、途中追記予定とした項目があったと思うが、今後も新しい情報が判明したり訂正等が見つかり次第、追記と修正を行っていく予定ではあるので、その際はまた思い出した時にでも覗いて頂ければ幸いである。

注釈

※1
Type 〇とする資料も存在する

※2
射距離に依存する

※3
残った後期型の砲塔と前期型の車体の車両はA4のハイブリットロットとして組み合わされたが、後にそれも改修された

※4
一部ではD-tecの内部装甲も存在するとの主張もあるが、後述するスウェーデンの資料や軍事文献の等の曖昧な言及から存在を否定できないといった具合の話で、知る限り公的な文献では全てD-tecは付加装甲(外部装甲)としてのみ言及されておりD-tecの内部装甲が存在するという決定的な資料は皆無で有る為、ここでは付加装甲として扱う

※5
一部の資料(Frank Lobitz著)には重・軽サイドスカートにてD-tec採用とも読み取れる紛らわしい記述がされている事も有るが、(原文 "Verbesserter Schutz bei schweren und leichtenKettenschürzen (D-Technologie)"
同著にて(原文" Im Unterschied zum 6. und 7.Baulos verfügen die Fahrzeugedes 8. Bauloses nun auch überdie leichten Kettenblenden inD-Technologie Ausführung.)と記載されている通り、文脈上の()位置から両方に適用されていると読めてしまうだけで、同様の形状の重サイドスカートは第6バッチの装甲改修型から装備されており、A5以降の改修項目においてもD-tecについては軽サイドスカートにしか触れられていない為、軽サイドスカートのみの適用が正しい。

※6
この文脈における適当な訳が定まっていない為意訳

※7 
2006年ギリシャのEODHがHELの量産を開始しそれに伴う弾道防御テストを行った際、複数の砲塔で合計数十発分の120mm徹甲弾による試験を行った所、ある砲塔で5発中2発が砲手用照準器部を貫徹した事を受け生産が一時停止。その後装甲を追加し、再度テストが行われ問題が解消された事が確認された後生産再開された経緯が有る。

※8
この装甲に纏わるよく引用される記述として、A7Vの装甲についてTankogradで執筆するなどオフィシャルに近い立場のRalph Zwilling氏は、内部モジュールは最新のD-tec技術を用いて設計されたと(複数の記事にて全く同じ文で)解説しているが、原文は以下の様な物で

"To increase the level of protection, among other things the internal protection modules in the front of the hull were designed using the latest D technology. In addition, a front protection module has also been fitted to the bow, as well as duel glacis plate protec- tion."
"防御力を向上させる為、車体正面の内部モジュールは最新のDテクノロジーを駆使して設計された。加えて、車体部にはフロントプロテクションモジュール(車体正面上部付加装甲)が装備され、デュエルグレイシスプレートプロテクション(D-tec付加装甲)も装備された。(意訳)"

既知の情報ではD-tecは付加装甲であり公的な文書においてもそうした技術を指していた事や、D-tecである筈の車体付加装甲がそれに触れられずに単に付加装甲として記載されている事から、恐らく実際には"最新の技術を用いた内部の特殊装甲と車体に追加されたD-tec技術の付加装甲"若しくは"車体前側面の特殊装甲が分類上C-tecではなくD-tecでその装甲が最新の物に置き換えられた"事を指しているのだと思われる。
(無論D-tec内部特殊装甲の可能性を完全に否定出来る訳では無いが、その場合にしても呼称が同一であるだけで今までの所謂D-tecとは異なる文脈である事に変わりはない)

※9
RHAe: Rolled Homogenous Armor equivalent(均質圧延鋼相当)

※10
実際の装甲配置にはレイアウト上のバラつきが有る為、部分的に防護力が高くなる箇所も有れば低くなる箇所も有る

※11
詳細不明ながら、時系列的にも一致するLKE1M(DM43)を耐弾する特殊装甲モジュールの試験写真が存在しており、その存在が示唆されてはいる

※12
後にB-tecとD-tecが組み合わされた事例は存在しない為、これがA4砲塔かA5砲塔なのかは不明

※13
図中ではDEと比較してSWの優れている箇所に!が付けられたとしているが、図の並びとは別にそれぞれの砲塔位置と撃角に対応したショットナンバー毎に比較した場合、砲塔正面(SW2、6、7 DE1、2、4)、砲塔斜側面(SW3、5、8、10 DE3、5、)、砲塔側面(SW11、 DE6)において撃角を考慮してもほぼ同一の値になっている。この事から、砲塔については新造と改修、僅かな付加装甲やスポールライナー等のローカルな違いで若干の差が有るものの、同一の装甲と思われる。一方で車体については明確に防護力の差が生じており、推測ではあるがDE仕様とはSW仕様と同等のC-tec+D-tec砲塔に旧式のC-tecA4車体かB-tec車体にD-tecを装備した仕様の事を指していると思われる。

※14
NERAの使用を排除する意味ではない

参考文献

・Leopard 2 sein Werden - seine Leistung
・Lagefeststellung "Panzerabwehr Fähigkeit des Heeres"
・Tankograd
・Stridsfordon I dag och imorgon
・Kampfpanzer heute und morgen: Konzepte - Systeme - Technologien
・Chieftain Replacement Programme(一連資料)


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