CCS(炭素回収貯留)事業 脱炭素「切り札」はウソ 未完成な技術、高コスト

 「二酸化炭素回収貯留(CCS)事業法案」が先の通常国会で成立した。火力発電所や石油精製所、セメント工場などから排出される二酸化炭素(CO2)を回収し海底や地中に貯留するCCS技術は、脱炭素の切り札と言われている。法制化によって試掘・貯留の事業化を目指す企業の参入を促進させる。官民合わせて今後10年間で4兆円を投じるというCCS事業、マスコミは「有望」と持ち上げるが、本当にそうなのか―。
 
CCS実証実験
苫小牧で実施
 CO2が80%近く占める温暖化ガスを2050年に実質ゼロにする方針を打ち出す政府は、「CCSなくして、カーボンニュートラル(脱炭素)なし」とCCS事業を位置付ける。北海道苫小牧市では、国、自治体、企業が一体で19年11月までの3年8カ月間、国内最大規模のCCS実証実験が行われた。仕組みはこうだ。隣の石油精製所が出すガスから分離・回収し液化させたCO2に高い圧力をかける。パイプラインで輸送したそのCO2は専用井戸(圧入井)を通じて海底1000㍍以深に送り込まれる。これまで注入されたCO2は約30万㌧。現在、貯留層からCO2の洩れがないかなどモニタリング調査が続けられている。
 
 所管の経済産業省は、苫小牧を始め国内5プロジェクトと、液化CO2を専用船でマレーシアやオーストラリアなどに運んで貯留する海外2プロジェクトの合計7プロジェクトを「先進的CCS事業」計画として選定した。ただし、苫小牧以外のプロジェクトはあくまで調査の段階。また苫小牧のモニタリング調査の期間は定まっていない。7プロジェクトの事業化の時期は不明だ。
 
高額費用の縮小
具体策は示さず
 こうした状況下で30年までに事業をスタートさせて、50年時点で年間1・2億から2・4億㌧貯留(今の排出量の1から2割)という政府の目標は達成できるのか。
国際環境NGO「FoE Japan」の気候変動・エネルギー担当の深草亜悠美氏は「目標達成は困難」と前置きしたうえで、3つ大きな理由を挙げた。
①    「技術がまだ完成していません。ノルウェーのスノヴィット事業では、地層の事前調査で18年分の貯留が可能としていたが、実際は6カ月程度で再調査や新しい圧入井を掘った。CCS技術が進んでいるノルウェーですらこの程度です。オーストラリアのゴーゴンでも企業が莫大な資金を投入しながら予定の半分の貯留に留まった。苫小牧では、CO2を圧入した2本の圧入井のうち1本は十分に圧入できなかった」
②    「貯留までの費用が高い。一連の工程を経た1㌧のCO2を地中や海底に貯留するまでには1万2800から2万200円もかかる。50年までに6割程度に下げると政府は説明するが具体策は提示していません。たとえ6割に下がっても高額なのは変わらない。世界の大規模CCS事業(年間3万㌧以上のCO2を回収)の78%は高コストが原因で中止か延期に追い込まれたという研究報告もあります」
③    「事故の可能性がある。実際、2020年にアメリカ・ミシシッピー州でCO2輸送パイプラインが損傷し、300人が退避、二酸化炭素中毒で45人が病院に搬送された。今年4月にもルイジアナ州でパイプライン事故が発生している」
 
化石燃料の利用
政府は継続狙う
 
 ほかにもCO2回収率は60から70%に留まる、地中にCO2を注入することで地震の誘発が懸念されている。
  いろいろな問題点がありながらCCS事業を進めることについて深草氏は「石炭、石油、天然ガスの化石燃料の利用を続けていくのが政府の狙い」と指摘。与党自民党をバックアップする企業が経営する火力発電所、石油精製所、セメント工場などを政府は簡単に潰すことはできない。かといって世界に約束した50年温暖化ガスゼロは反故にできない。苦肉の策がCCS事業ではないか。
 
多額の補助金
負担は国民へ
 深草氏は「このまままではCCS技術の開発という名目で多額の補助金が投じられる。これは国民の税金。国民に負担を強いることになる」と見通しを語った。
 政府が今取り組むべきことは何か。「再生可能エネルギー由来の発電と省エネ政策を拡充すれば、CO2排出の大幅削減や光熱費、化石燃料輸入費の削減が可能です」と深草氏は訴えた。
 CCS事業は信頼できる脱炭素のツールではないようだ。

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