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核実験40年で456回 カザフ 被害者放置 若者自殺 小山美砂氏オンライン講演

 2023年度JCJ賞受賞『「黒い雨」訴訟』(集英社新書)の著者で広島・長崎の被爆者実相を追求するジャーナリスト・小山美砂氏(JCJ会員)は、9月初旬に中央アジア、カザフスタンのセミパラチンスクで核被害の実態を取材した。カザフスタンは1991年に独立したがその前までは旧ソ連の構成国。旧ソ連はセミパラチンスクで49年から40年間で456回もの核実験を行った。カザフスタンは米ニューヨーク国連本部で来年3月に開催の核兵器禁止条約第3回締約国会議の議長国。小山氏らはこの機会にカザフスタン核被害の支援を日本に広げようと広島で市民団体を立ち上げた。クラウドファンディングなどで資金を集め小山氏自らセミパラチンスクに入った。10月26日JCJオンライン講演会でその成果を報告した。

 

実験場跡地で取材

 

 セミパラチンスクでの核実験のエネルギー総量は広島型原爆に換算すると、1100発分にも匹敵する。実験場は91年8月に閉鎖されたが、30年以上経過しても平常時の放射線量基準値(年間1ミリシーベルト以下)より8、9倍も高い跡地もある。小山氏は「実験場跡地のガイド役、原子力センタースタッフに『防護服は着なくていい』と言われ、内部被爆を防ぐためマスクとゴーグルはつけました。帰国後『やはり防護服も着とけばよかったかな』と不安な感情が残りました」と語った。

 核実験場周辺で暮らす村民クサイン・ヌルグルさん(74)は実験が繰り返さる度に地震のような揺れを体験。クサインさんは「私は貧血や頭痛、骨の痛み、高血圧に苦しんでいます」「薬代が高く、政府は支援してほしい」「病気を苦に自殺する若者は多い」と訴えた。核実験のキノコ雲を見たという村最高齢86歳の女性は「若い人がどんどん死んでいく。つらいのでもう葬式に行くのは止めた」「核実験の影響のせいだ」と話した。

 

弱体化の援助体制

 

 カザフスタン政府は日本の被爆者健康手帳のような「ポリゴン(ロシア語で演習場の意味)証明書」を認定した被爆者に発行している。証明書があると補償金、追加年金や休暇などがもらえる。これまで証明書は100万を超える人に渡されたが、近年は補償金が減額されたなど被害者援助体制が弱体化している。

 小山氏は「カザフスタン政府は国際的に核廃絶を打ち出しているが、国内の被害者を置き去りにしています」「日本の黒い雨の被爆者と状況が似ている」と指摘した。

2年前設立NGO「ポリゴン21」は、被害者救済に向けた新しい法律制定を求める運動を積極的に取り組んでいる。母親、2人の姉、兄、夫をガンで亡くしたマイラ・アベノヴァ代表(70)は、SNSで運動参加を呼びかけ数万人が賛同し、署名も5万筆集めた。

 

日本に求める支援

 

 地元の反核運動団体などが日本に求めているのは①治療ノウハウや病院建設など医療分野での支援、②日本の被爆者との連帯―などだ。小山氏は取材を踏まえて、日本の政府と市民社会は、世界の核被害者援助に対して果たせる役割があると指摘。核禁条約の枠組みにおいては、被害者救済に向けてカザフスタンとキリバスが「国際信託基金」の設立を目指しており、この行方も注目する必要があると話した。

 「3年後ぐらいに再訪し取材をさらに進めたい」と小山氏は述べた。

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号に記事掲載

 

 

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