知る権利とプライバシー侵害 経済安保新法 秘密保護法と一体運用 身辺調査拒めば不利益も
特定秘密保護法(2014年施行)の経済安保版といわれる「重要経済安保情報保護法案」は、国会の情報監視審査会での報告・公表など多少の修正が加えられただけで成立。この経済安保新法は国民の知る権利を制限し、秘密情報にアクセスできる権限がある人は身辺調査される。秘密保護法の一体運用で監視統制はさらに強まる。
恣意的に件数増大
特定秘密保護法は、防衛・外交・スパイ防止・テロ防止の4分野のうち安全保障に「著しい支障」がある政府保有情報は特定秘密に指定。その数は昨年末までで751件。経済安保新法はこうなる。電気、ガス、鉄道、航空、放送、通信といったインフラ分野、宇宙開発、サイバー攻撃、AIなど先端技術分野、半導体、鉱物などの重要物資分野などの中で安保に「支障」がある政府保有情報は「重要経済安保情報」として秘密指定される。
件数は「初年度は数十件から100件程度」と高市早苗経済安保相は国会で答弁したが、秘密指定の定義があいまいで恣意的なものが入り件数は膨れ上がる可能性がある。同法案に詳しい秘密保護法対策弁護団事務局長の海渡双葉弁護士(写真)は「秘密保護法では安全保障に『著しい支障』がある情報を特定秘密にしたが、経済安保新法は『支障』だけ残し、『著しい』を外した。これは秘密指定の範囲を相当に広げる狙いがある」と指摘した。秘密指定の増大は国民の知る権利が狭められる。
特定秘密情報を取り扱う人物は「適性評価」調査の対象だ。その適性評価対象者約13万人のうち9割超は防衛省、自衛隊、防衛施設庁の公務員が占めた。 適性評価(新法ではセキュリティー・クリアランスと名付けた)調査は新法の秘密情報に接する人物も対象。経済分野ゆえに民間人が多くなる。国が秘密情報の取り扱いを認定した企業、大学、研究機関などで働く人たち。
数千の民間人調査
内閣府が主導する適性評価調査の手順はこうだ。企業など事業者は対象者の同意を得た候補者名簿を所管する省庁に提出。内閣府は30ページの質問書を対象者に配布する。その項目は①家族やテロとの関係、②犯罪や懲戒の経歴、③情報の取り扱いに関する違反行為、④薬物乱用、⑤精神疾患、⑥飲酒の節度、⑦経済状況―。配偶者や子ども、父母や兄弟姉妹、配偶者の父母や子ども含む家族関係、同居人、国籍、借金の理由と総額、精神疾患のカウンセリング歴・症状など7項目は詳細に書くことが求められる。面接もあり質問書をもとに内閣府担当者は根掘り葉掘り尋ねる。対象者に内緒で上司も聞かれる。身辺調査された個人情報は役所に握られる。目的以外に利用しないというが、外部からは分からない。情報が洩れればプライバシー権が侵害される。
身辺調査の結果をもとに適性の有無を評価した担当省庁は事業者と対象者に「合否」を伝える。
初年度の身辺調査対象者は「数千人」と高市経済安保相は言っているが、大きく増えるかもしれない。重要情報を漏洩した違反者は5年以下の拘禁刑などで処罰される。
人生設計狂うかも
これまで身辺調査をめぐり問題は浮上していないが、新法では大勢の民間人が身辺調査の対象になる。問題は起きないのか。
「候補者名簿に載せることに同意しない、調査を拒む、適性がないとされたら働いている今の部署から異動になる。出世コースから外れた、居づらい、合わない仕事を押し付けられるなどの理由で退職もあり得ます。不利益な扱いを受け人生設計がくるう。人権侵害です」(海渡弁護士)
新法の恣意的な利用で「第二、第三の大川原化工機事件(警視庁公安部がでっち上げたと東京地裁は被告の社長らを無罪とし、東京都に賠償を命じたが、原告、被告とも控訴)は起こり得る」と海渡弁護士は警鐘を鳴らす。
これから何をしたらいいのか。
「反対運動を拡大させることが重要です。(法成立後、閣議決定する)運用基準についてパブリックコメントが実施される。パブコメに問題点を書き込む。世論の強い反対によって使いづらい法律に変えることはできます」(海渡弁護士)
諦めてはダメだというのだ。