飴ちゃん〇〇味(SS日記)
「下瀬さんはいこれ、飴ちゃんあげる」
そう言われて彼女をみると鞄から何かを出しているところだった。
握られたそれを手ずから渡そうとしてくるので、キーボードに打ち込む私の手が止まる。
「ありがとうございます。」
手渡されたのは透明な小袋に包まれた何味かわからない黄色の飴玉だった。
「疲れた時には甘いものですよ。遠慮せずに食べてね」
後で食べます、と返事をして作業を再開させた。
午前中の就業時間、彼女は皆に飴玉を配っていた。
飴より事務員としての成果を出しなさいよと思ったが、自分のことで精一杯なので、私は眉をひそめるだけだった。
つい最近配属された彼女は50代の女性なのだが、明るい性格で擦れていない感じがよく、仕事熱心のため周りからの評判がとても良い。
彼女がパートの中途採用にて私の後輩として入ってきたとき、仕事ができない私はなんとなく気まずい気持ちになったが、私も現金なもので当時渡されたそれも、もらうだけポケットにしまっておいた。
私はそれを家に持って帰るだけで食べなかった。
月日は流れ、春の温かさが次第に暑い夏場に掛かろうとしていた。
最近、季節商品の注文が殺到する繁忙期で私たちはパソコンで発注をかけたり、何かと忙しい日々を送っていた。
今日は上司から4件発注のミスを指摘され、営業の人達も自分のミスに付き合わされることになってしまった。
これじゃあ店の信用問題に関わってくる。
(ちょっとだけ、疲れた…)
休憩中、一人で昼ご飯を食べた私がポケットから携帯電話をだそうとしたときポトっと音を立ててそれは落ちていった。
以前もらったあの時の飴だった。
あの、何味かわからない飴。
包みを取り、溶けかけていたそれをおもむろに食べてみた。
その日は涙が出るほど美味しく感じた。
飴ちゃんには心に効く何かしらの効果があるらしい。
私は知らなかったのだ。彼女の努力すらも。
終業時間がすぎて、私は近くにあるスーパーに行った。
買い物カゴにタピオカの入った飲み物と飴ちゃんも入れてレジを通った。
当たり障りのない果汁の入った飴にした。
明日はこれを持ってちゃんと配ろうと思う。
ところで、食べてみたはいいものの、あれはやっぱり何味だったんだろうか。
とても気になるから明日、彼女に聞いてみよう。
【あとがき】
よくわからない味になってしまったよ、このSS。
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