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「愛してる」が苦手な男の人のおはなし

先週の土曜日は十五夜だった。
ベランダから見た月はとても明るくて大きかった。お団子を買うのを忘れた私達夫婦はUber eatsで月見バーガーと月見パイを頼んだ。

月が綺麗だと思い出す。
夫とまだ彼氏彼女の関係だった頃。
十五夜の日は毎年「月が綺麗ですね」というひと言と共に、夫が会社を出てすぐに撮ったであろう月の写真が送られてくる。

携帯のカメラだと何故か月の大きさや輝きが捉えられない。変な光の玉が写っているだけの写真になる。お世辞にも綺麗だとはいえない写真である。

それでも、「綺麗だな」と思ったと同時に私の事を思い出してくれた事が素直に嬉しい。

添えられた「月が綺麗ですね」という言葉。
これはかつて夏目漱石がI love youを「月が綺麗ですね」と訳したエピソードからきているものだ。

夫は付き合った当初から言葉で愛を表現するのは苦手だと言っていた。言葉での愛情表現は軽く感じるとか言い訳していたが、つまり恥ずかしかったんだと思う。

私は「好きだよ」の一言で喜ぶと何度も伝えていたのに、一向に言葉にする気はなさそうだった。
平成生まれのくせに、昭和のおっさんみたいに頑なだった。その他の行動で十分に愛情は感じているから大丈夫だけれど、それでもたまには言って欲しいのがオトメゴコロ。何度か水をむけてみたが上手く交わされた。

おそらくLINEでこの一言を送るのが、彼の精一杯だったのだと思う。

短いひと言だけれども私は嬉しくてスクショしてしまう。月並みだけれど、「死んでもいいわ」と返す。二葉亭四迷が和訳の時に使ったフレーズ。

5年の交際期間中、毎年このやりとりをした。

忙しくてうっかり月を眺めるのを忘れる日もあるだろう。毎年欠かさず送ってくるなんて、実は十五夜を心待ちにしていたんじゃないの?
聞いても教えてくれないから聞かないけど。

今年は2人で並んで月見バーガーを食べた。
そろそろ直接言ってくれてもいいんだけど?笑

触れ合う肩の温もりと過去のやりとりが私の心を温めてくれた。幸せな日々は今も続いている。


#月見バーガー

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