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腐女子映画図鑑・幼馴染ってずるいよね【マティアス&マキシム】

 ボーイズラブ作品を嗜む際、あなたはどのような関係の二人がお好みだろうか?同級生、先輩と後輩、上司と部下、エトセトラ、エトセトラ。どの組み合わせにもそれぞれ良さがあるのは大前提として、私個人が圧倒的に最強だと考えているのは幼馴染である。特別に親密な二人の関係に「昔から一緒」という時間の軸が加わることによって言動一つ一つに深みが増し、愛しさと切なさと心強さが何倍にも膨れ上がるのだ。……と、幼馴染BLの良さを語り出したらそれこそ記事が一本書けてしまうのでこれくらいにしておこう。今回の作品はそんな幼馴染同士の恋愛ドラマである。

マティアス&マキシム(2019年・PG12)

https://www.youtube.com/watch?v=2RdymGAx5yA

おおまかレビュー(ネタバレなし)

もだもだ度 ★★★★★
エロ度   ★
グロ度 
鬱度    ★

 舞台は2019年のカナダ・ケベック州。登場人物たちが話すフランス語が映画全体のアンニュイ感を増幅しているのは単に日本人にとって聞きなれない言語だからだろうか。マティアス(ガブリエル・ダルメイダ・フレイタス)とマキシム(グザヴィエ・ドラン)は幼馴染で、幼い頃から社会人になった現在に至るまで仲の良い友人同士として連んでいるが、マティアスには婚約者がおり、マキシムは仕事を探すため数週間後にオーストラリアへ発つことが決まっている。そんな折、仲の良い友人グループのうちの一人の妹が撮っている自主制作映画への出演を半ば強引に頼まれ、二人はカメラの前でキスシーンを演じることになってしまう。それ自体はただの仲間内での悪ノリ、罰ゲームのような行為だったはずが、そのキスをきっかけに二人の関係はギクシャクしてしまい……というのがおおまかなあらすじである。
 まずは上で示した★五段階評価について。PG12というレーティングになっており、多少性的なものを匂わせるシーンはあるがあくまで匂わせる程度である。(本当はエロ度は星半分といったところだがそのような記号がないので便宜上星1つとした。)グロ描写も特になく、全年齢作品と変わらないレベルだ。そして最高評価の「もだもだ度」だが……「もだもだ」という言葉が果たして通じているのだろうか。ここでは、お互い思い合っているのにすれ違ってもどかしい、くらいの意味で捉えてほしいのだが、主人公二人は終始そんな感じであり、見ている側としてもやきもきすることこの上ない。大きな事件によって二人がぐっと近づいたり逆に決定的に決裂するようなイメージではなく、感情の揺らぎを繊細にスクリーンに写し取ったような映画なのだ。

ネタバレあり感想

 率直な感想としてはまず、「マティアスめちゃくちゃめんどくさい奴じゃん」である。彼のめんどくさポイントは映画冒頭で提示されるエピソード(誕生日パーティーで友人が「ケーキに火をつけようぜ」といったらマティアスが「ローソクにだろ」とわざわざ訂正してきた)に実によく現れており、その理屈っぽい性格が故かどうかはわからないが弁護士として働いてもいる。各サイトでこの作品のあらすじを読むと大体、「映画撮影でのキスをきっかけにお互いのことを意識し合うようになり……」みたいな感じで書いてあるのだが、私個人としては相手を殊更に意識しているのはマティアスの方で、精神的に不安定な母親のケアをしているマキシムはややそれどころではなさそうな印象を受けた。そんなめんどくさ男のマティアスは、件のキス以降親友であったマキシムへの態度がそっけなくなり、彼がオーストラリアに発つ前のお別れ会でのスピーチが適当になったり、些細なことでイライラして無関係な友人と喧嘩になった挙句止めに入ったマキシムに彼の容姿を揶揄するような暴言を吐いたりする。はっきり申し上げて中盤までは「なんだコイツ……」という気持ちで見ていたのだが、見ているうちに唐突に腑に落ちた。ああでも、現実にもいるよなこんな奴、と。好意や憧れやその他諸々、自分の中で処理できない感情をじくじく腐らせて、最終的に相手への攻撃性となって表出させるタイプ。第三者から見れば傍迷惑な話ではあるのだが、その内情を知ればある意味いじらしいと思えなくもない。(まあティーンエイジャーならともかく、この作品のマティアスのようないい大人がやることか?とは思うが……。)
 そんなもだもだ劇場を繰り広げながらも、友人宅でのホームパーティーの最中になんだかんだそういう雰囲気になった二人は熱烈なキスを交わす。このシーンが正直いってかなり良かった。友人宅の作業場のような倉庫のような部屋で二人きりになるのだが、窓に貼られた半透明のシート越しに二人がキスをしているシルエットだけが浮かび上がるのが、今風の表現を使えばめちゃエモい。この演出のためだけでも見る価値があるといっても過言ではない、そのくらい私には刺さった。
 しかしまあ先述のようなめんどくさ男たちがそのキスシーンで丸く収まる訳もなく、マティアスは(自分から手を出したのにもかかわらず)その先に進もうとしたマキシムを拒絶して逃げるようにその場を後にする。そのまま迎えたオーストラリアに旅立つ前日、最後の別れを言うためにマティアスの母親の元を訪れたマキシムは、幼い頃のマティアスが描いた絵を偶然発見する。
「Mたちの農場   マティアスとマキシムの農場 マット7歳」
…………こういうのがあるから幼馴染はずるい。なんのしがらみもなくただ楽しかったあの頃。ずっと一緒にいられると無邪気に信じていたあの頃。もう戻れないあの瞬間の輝きの残滓みたいなこういうアイテムを出されるとめちゃくちゃしんどくなってしまう。なぜなら幼馴染BLが大好きな腐女子だからだ。

 映画はマキシムがオーストラリアへと発つ直前、家の前で対峙する二人のシーンで幕を閉じる。二人のこれからは完全に観るものの想像に委ねられることになるが、腐女子としてはやはり収まるところに収まってほしい。だって……ほら、何十年も一緒にいる相手と両思いなんて運命じゃん……。多くを語らぬ雰囲気だけに観るものによって受け取り方が異なりそうなこの作品、我こそは幼馴染大好き腐女子という方はぜひ観てみてはいかがだろうか。

(筆者はBL映画を求めて日々彷徨っておりますので、洋画でも邦画でもおすすめ作品があればぜひ教えてください)

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