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【異世界小説】ただの世界の住人③
同僚の秋津が、デスクでパソコンを開いていた。
「おはよう」
「おー」
秋津は、めんどくさそうに、答えた。
そして、こう言った。
「給料もう出ないらしいぜ。会社来なくていいってことじゃん」
そして、続けて言った。
「なんでも『ただ』なんだろ?なら働く必要ないじゃん。じゃー俺、農業でもすっかなー?」
「なんでいきなり農業なの?」
俺はすっとんきょうな声で聞いた。
「だって、お前よく考えてみろよ。働く必要ないなら、嫌な仕事なんてだれもしないだろ?そうすっと、工場とか、スーパーとかさ、人いなくなるじゃん。食べるものなくなるかもしんないよなー」
あ、そうか、給料が出ないのに、働く人なんていないのか?
そうなのかな?
みんな働かなくなったら、この社会はどうなっちゃうんだ?
うちの会社は電化製品をつくってるけど、この会社が何も作らなくなったら、どーなるんだ?
まてよ。思考が追いつかない‥
物の値段は、全部ただだったら、給料が出なくても困らないだろうけど、そもそも、買う物がなくなるってことになるよね?
何年か前から、世界の貨幣価値が変わるとか、一定の収入が誰にもはいるとか、全てがリセットされるとか、都市伝説のような話を聞いたことはあった。
「車のローンもなくなったりするのかな?そりゃーいいなー」
と、その時は一応言ってみたけど、ほぼ100%そんなことないのがわかっていた。
でも
まさかこれがそうなのか?
そんなことって、本当におきるのか?
生まれてからずっと、いや、生まれる前からずっとあったお金がなくなる。
安定した給料を得るために、なんとか大学に入り、厳しい就活も乗り越えて、やっと今の会社に入ったのだ。なのに、給料がなくなる!
ぼくは、もしかして、まったく別の世界にきてしまったのかもしれない。そうだったら、まだ救いようがあるかもしれない。
でも、ここは紛れもない現実で、この激変した「ただの世界」が、これからどうなるのか?ぼくも、ただデスクのパソコンを見ているしかできなかった。