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Pluto EP5お風呂のシーンについて
はじめに
これはPluto seriesEP5のMayがAioonをお風呂へ入れるシーンについて分からない箇所を洗い出し、調べて自分なりの解釈をまとめたしたノートです。
PlutoEP5放送時(2024.11.20.)に書いていたものですが、いくつかのupdateを含み、改めて記録として残しておきます。
・なぜお風呂に入ることが小説を書く助けになるのか?
・Mayは何を伝えようとしているのか?
考えてみたいと思います。
本文中では以下の通り表現を統一します。
Aioon(Oom)がMayへ語るお話=「物語」
Aioon(Oom)が書いた小説=「小説」
まず、このシーンの背景について説明します。
Aioon(Oom)は「愛されるとはどういう事か知りたかった」と話し、Mayを通して感じた愛について語ります。
そのお話を聞いたMayは「そうやって話してもらうのが好き。小説を読んでいるみたいに、実際にそれを想像して感じることができるから。」と伝えます。
そして、Aioon(Oom)はMayのために自分でも小説を書いてみようと思い立ちます。
そしていざ、書いたものをMayへ聞かせると「これはOomが聞かせてくれるお話とは少し違う」と言われ、どうしたらよいのか困り果てるAioon(Oom)をお風呂に入れるところから始まります。
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===
May:
すべてを手放し、重荷を消し去り、
心配事も、一つひとつ溶かしていく。
身体と心をそっと離し、
心を温める水の感触を感じてみて。
静寂の中に、三つの特性が見えてくる。
目の前に広がる気づき、
無常、無我、そしてほんの少しの苦しみ。
物事は訪れ、留まり、そして去っていく。
Aioon(Oom): 響きが美しいね。
May: これはダンマの詩。 視力を失ったばかりの頃、これを唱えて乗り越えたの。 意味は分かる?
===
MayはAioon(Oom)をお風呂に入れて、小説を書くのを手伝うと言い、ダンマの詩*を暗唱します。
Mayは目が見えなくなったとき、それを乗り越えるためにこの詩を読んで自分を励ましていたと話します。Aioon(Oom)も美しい響きの詩だと答え、MayはAioon(Oom)にこれがどんな意味かわかる?と尋ねます。
Aioon(Oom)は、これは仏教における3つの特徴*。この世の万物の本質。無常、苦、無我。だと答えます。
※ ダンマの詩 = 『ダンマパダ』(法句経)
仏教経典のひとつで、韻文のみで構成された経典。仏教の教えを短い詩(格言)の形で伝えている。
※ 三相(3つの特徴)
仏教の重要な教えであり、無常・苦・無我 の三つを指す。
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そして、Mayはこのダンマの詩はAioon(Oom)がMayに聞かせてくれるお話「物語」と同じだと言います。
===
May:それは、あなたが聞かせてくれる物語と同じ。意味があって、響きが美しいの。
ただ、意味と響きを区別する必要がある。詩では、それを『響きの美しさ(euphonious)』と呼んで、小説ではそれを『面白さ(fun)』と呼ぶの。」
May:あなたが私といるときに、物事をうまく表現できるのは、響きを加えているからなのよ。
===
「ダンマの詩には、言葉の意味と音の響きがある。言葉の意味とは何か、音の響きとは何か、それを区別したらいい。」とMayは言います。さらに、詩の場合は「響きの美しさ」で、小説の場合は「面白さ」になると続けます。
そして、Aioon(Oom)がMayといるときにうまく話せる理由は、「響きの美しさ(euphony)」を加えているからだと伝えます。
※ euphonious =「心地よい音」「美しい響き」「聴覚的に心地よい」といったニュアンスを含む。
ここで一度、「響きの美しさ(euphonious)」がどんな効果をもたらすのか考えてみます。
まず、Mayが朗読したダンマの詩を最初に聞いたとき、そのリズミカルな詩的表現が日本の俳句に似ていると感じました。
その理由として、俳句は5・7・5の17音からなる短い詩の形式だからです。本来は季節を表す「季語」を含めるルールがありますが、今回は省略します。
< – update 20241121 – >
ダンマの詩は、詩的な形式のみで構成された経典と考えられています。
では、「詩」とは何でしょうか?
詩とは、「一定のリズムを持ち、形式的に構成された文章」のことを指します。
(日本語では、これを「韻文(INBUN=韻文)」と呼びます。)
ここでいう「リズム(Rhythm)」とは、「音の強弱・長さ・高低の変化によって生まれる言葉のリズム」のことです。
(日本語では、これを「韻律(INRUTSU=韻律)」と呼びます。)
つまり、一定のリズムを持つ文章は「詩(INBUN=韻文)」と呼ばれるのです。
英語圏における分かりやすい例として、マザーグース(Mother Goose)の韻文を挙げます。
-------------------------------------------
Hey, diddle, diddle-Mother Goose
Hey, diddle, diddle,
The cat and the fiddle,
The cow jumped over the moon.
The little dog laughed
To see such sport,
And the dish ran away with the spoon.
-------------------------------------------
"Diddle/fiddle" and "moon/spoon" と韻を踏んでいます。
日本での韻文は一般的に「俳句、短歌、詩」を指します。
私がダンマの詩を聞いた時に感じた俳句に似ているというのは、両方とも韻文で作られたものだったからです。
この後、音節と拍についても書いていますが、韻文における韻律は、基本的にはそれを構成する単語の形(アクセントパターン、声調、音節・モーラ数など)に基づいて定められたものだそうです。
そのため、音節や拍についての解釈は、あくまで補足的なものになりました。
ここまで考えて調べた記録として、一旦このまま残しておきます。
< – update end – >
私が考えたのは、音節(syllables)とモーラ(mora)も関係しているのではないかということです。
ただし、音節は言語によって異なるため、注意が必要です。
音節(Syllable) = 母音を中心に音を区切る単位。
モーラ(Mora) = リズムの単位。
…だんだん複雑になってきました。
具体例を使って考えてみることにします。
「chocolate」の音節・モーラ・言語による違い
EN:「chocolate」 → choc・o・late
(3音節 / 3モーラ)
JP: 「チョコレート」 → cho・ko・rē・to
(cho・ko・rē・i・to) (4音節 / 5モーラ)
同じ「chocolate」という単語でも、英語と日本語で音節やモーラの数が異なることがわかります。
Mayが朗読したダンマの詩も俳句と同じように、音の配置やリズムの規則性があるのではないかと思いました。
気をつけなければいけないのは、英語や日本語に訳すと、音の数やリズムが変わってしまうため、意味は伝わるが、euphonious(響きの美しさ)は失われる可能性があるという事です。
そのため、ダンマの詩を理解するには、単に翻訳された意味を追うだけでなく、Mayの朗読の音そのものを感じ取ることが大切だと考えました。
例えば、このフレーズ…
"การวางใจอาวรณ์รู้อ่อนไหว"
これも特定の音節やリズムを持っていると考えられます。
===
การวางใจอาวรณ์รู้อ่อนไหว (4 mora for 4 syllables)
タイ語の自動生成から引用してますが、まずこれが正しい表記かどうかはわからない。なので、Ep5のURLを掲載します。
音の数に注意しながら聞いてみることをおすすめします。
===
同じ音節数を繰り返す(4・4・4音節)
規則的な音節の並び
(3・4・4音節+3・4・4音節)
これらによって、文章にリズムが生まれます。 リズムのある文章は、読んでも聞いても心地よく感じるようです。
なぜリズムの良い文章は心地よく感じられるのか? これは新たに調べるべきテーマかもしれません。 ひとまずここでは置いておきます。
本筋に戻ります。ダンマの詩から響きの美しさ(euphonious)についてのヒントは得られたものの、それだけでは十分ではないようです。
なぜなら、Aioon(Oom)の小説を初めて読んだMayはこう伝えます。
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May:いつも聞かせてくれる物語とは少し違うね。
===
May:あなたの書いた小説には、登場人物や要素、シーンがある。でも、ちょっと素っ気なく聞こえるの。まるで法律文書や証明書、伝記を読んでいるみたい。とてもストレートな感じがするわ。
===
「Oomの書いた小説には登場人物や要素、シーンがある。(便宜上、これらを総じて「プロット(plot)」とします。)でも、それがあまりに素っ気なく聞こえる。まるで法律文書や証明書、伝記みたい。」とMayは話します。
「Mayに物語を話すとき、プロットのことなんて考えていないんだもん…」とAioon(Oom)は困惑した様子です。「どうしたらいい?」と、Mayに尋ねます。
そこでMayは、かつて自分が教わった指導者の言葉をAioon(Oom)に伝えます。
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===
法律とは、服を脱ぐようなもの。
事件記録を書くのは、シャワーを浴びるようなもの。
証拠を集めるのは、メイクをするようなもの。
証人尋問は、服を着るようなもの。
そして最後に、完成した姿が出来上がる。
====
指導者の言葉は比喩表現を使っています。
この比喩には、視覚的なイメージを生み出す効果があります。
ここでは、弁護士の仕事を、服を着て身支度を整えることになぞらえています。
そして、「服の意味を理解すること」は、「小説のプロット(plot)の意味を理解すること」と同じだという暗喩(metaphor)が含まれています。
Mayは「服を着て=単調な文章」と言う代わりに、 「さあ、上手に着こなして」と言います。
これは、「上手に着こなす」=「euphonious(響きの美しさ)を加える」という比喩になっていると思います。
つまるところ、この指導者の言葉の中に、MayがAioon(Oom)に伝えたかったことがすべて詰まっているんじゃないでしょうか。
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===
Aioon:愛されるってどんな感じなのか知りたかった
===
Aioon(Oom)が小説を書こうと思ったきっかけとなったエピソードも、比喩表現の効果をよく示しています。
Aioon(Oom)が「愛されるとはどんな感じなのか知りたかった」と言ったとき、Mayは「それはどんな感じ?」と尋ねます。
そこで、Aioon(Oom)は自分が感じた愛の感覚を「物語」として語ります。
===
Aioon:全身が何かで満たされていく感じがした。
それがどんどん大きくなって…愛を受け取れば受け取るほど、それはさらに大きくなって…でも、重く感じるどころか…… むしろ、ふわっと浮かび上がるような感じだった。
May:可笑しいね。大きくなるのに、ふわふわしてるなんて。
Aioon:うーん。愛って…風船の中の空気のようなものなんだと思う。私たちを大きく、美しく、そして軽やかにしてくれる。
===
これがMayが気に入っているAioonの「物語」。
愛について語るEpのURLを記載します。
例えば、比喩表現を使わないでこの物語を語るとどうなるのでしょうか。書いてみました。
全身に新しい感覚が広がり、
それが徐々に強くなっていった。
愛が深まるたびに、その感覚も大きくなっていく。
愛とは、私たちをより成長させ、美しく軽やかに前進させるものなのだと感じた。
どうでしょうか?
意味は通じるけど、どこか平坦でシンプルな印象を受けます。風船の比喩を使うことで、愛が膨らんでいく様子を視覚的に想像しやすくなり、聞き手が情景をイメージしやすくなるという効果があります。
まとめ
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Aioonをお風呂に入れることが、なぜ小説を書く助けになるのか?
Mayはまるで先生のようでした。
まず、改善点を指摘し、何が出来ているのか?そして何が足りないのかをはっきりさせました。
出来ていること
言葉の意味を理解している
「euphonious(響きの美しさ)」を使えている(ただし、Mayに話すときだけ)
足りないこと
小説そのものに「euphonious(響きの美しさ)」が欠けている
さらに、直接答えを教えるのではなく、ヒントを与えるやり方はとても良い方法だと感じました。
熱いやかんに触るまで熱さが分からないように、自分で体験しなければ理解できないことが多いです。
心地よい音も、実際に聞いてみなければその感覚はわからない。お風呂に浸かり、リラックスし、ダンマの詩の響きを味わう。
風呂から上がったら、丁寧に服を選ぶように、言葉を選び、物語を紡ぐ。
この「お風呂に入れる」という方法を通じて、MayはAioon(Oom)に小説を書く方法を上手に伝えることができたと思います。
Aioon(Oom)が風船のような愛の物語を語った後、Mayはこう返しています。
「そうやって話してくれるのが好き。小説を読んでいるみたいに、想像できるから。」
だからこそ、Aioon(Oom)にも、こうした感覚を味わえる「小説」を書いてほしいと思ったんじゃないでしょうか? 私もまた、この愛の物語が大好きです。
2024.11.20
Inumochi
< – update 20250228 – >
https://twitter.com/mindespaced/status/1895094456698970495?s=46&t=wXaY3SZ0QMEFBXRRmnhd6w
このお風呂のシーンは、MayがAioon(Oom)に小説の書き方を伝えるために作られたシーン(+ファンサービスも含む)だと思っていました。
Pluto制作チームのspaceの翻訳から、このシーンについての見解を聞いて改めてここにまとめます。
Mayはかつての指導者からの言葉を引用しながら、お風呂に浸かるAioonの腕や脚をなぞります。
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その様子にAioonは目を瞑りMayの感覚を味わいながらドキドキしっぱなしです。
しかし、Mayは何事もなかったように「さあ、上手に着こなしてね」とバスルームを後にします。
残されたAioon(Oom)はドキドキも止まず驚いた表情です。
このシーン。Mayは随分あっさり出て行ってしまうんだなと感じたのを覚えています。
Mayは「小説を書く手伝い」としてeuphonious(響きの美しさ)と比喩表現についてすでに伝え終えてます。ミッションコンプリート。
実際はミッションを終えたから出て行ったのではなく、「Aioon(Oom)を残して行くこと」がミッションでした。
Mayが行ったのは心理学でいう「覚醒の誤帰属(Misattribution of Arousal)*」の理論を使ったものだったからです。分かりやすい例では「吊り橋効果」があげられます。
『吊り橋が高くてドキドキしているのか、目の前にいるこの人にドキドキしているのか?』
全裸で入るお風呂で肌を触られてドキドキしているのか、Mayに対してドキドキしているのか?
この状況を狙ったんじゃなないでしょうか?
「ドキドキさせて、惹きつけて、去っていく」
「小説を書く手伝い」はもちろん、Aioon(Oom)を誘惑するのも今回の狙いだったとわかりました。
制作チームのスペースもあとで書き起こせるといいなと思ってます。
*覚醒の誤帰属(Misattribution of Arousal)=自分の覚醒の原因を誤って判断する現象
< – update end – >