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1000文字小説(116)・北欧⇔雪国⇔呪われた氷祭り/ホラー
北欧の小国。
旅をしている私。
列車に乗っている。
もう何年も前に、見かけなくなったような酷い列車だ。
いつになったら、目的地に着くのだろう。
列車は、時刻を守るつもりはないようだ。
邪気。
禍々しい予感。
呪われたような、頭痛が続いている。
なぜ、こんなに嫌な気分なのか。
慣れない言葉。
不快感が消えない旅。
時差ぼけ。
日にちもわからない。
凍てつく寒さ。
ここは、どこなのだろう。
国境を越えたらしいが、国の名前はわからない。
死の国。
そんな、表現さえ脳裏を過っていく。
寒気。
それは、窓を開け放っている前の席から、吹き込んでくる風によるものなのか。
それとも、私の疲弊したメンタルから来る悪寒なのか。
寒くないのだろうか?
前に座っている、家族は無言のままだ。
窓を閉めようとさえしない。
どこか、マネキンのようでもある。
だが、時折、聞こえる老人の咳払いから、本物の人間だとわかる。
全てが、作り物に見えてくる。
列車の窓から見える国は、白いものが覆っている。
私は、ある物を見かけた気がした。
それは、私の落ち込んだメンタルに、指した希望の光のようだった。
私は、その一瞬見かけたものを確かめたくなった。
列車が止まった。
駅に着いたらしい。
途中下車する。
私は、気味の悪い家族から逃げるように列車を降りた。
一切、振り返らなかった。
私は、足早に駅舎を抜けて、それを見に行った。
あった。
やはり、見間違いではなかった。
氷像である。
私は自分の国で、子供の頃に見た「氷祭り」を思い出している。
楽しい、家族の思い出が過る。
そう。
あの頃は、まだ、メンタル的に不安を感じることもなかった。
私は、好奇心旺盛な、明るい子供だったのだ。
氷像。
素晴らしい技術だった。こうした像を造る職人がいると聞いたことがある。
家族のようだった。
家族の氷像は5体ある。
どこか、列車の席に座っていた家族を写し取ったかのような錯覚を覚えさせる。
デジャブ。
老人の咳払い。
だが、そのデジャブは氷像の素晴らしさもあって、心地の良いものだ。
私は、微笑んでいた。
誰かに話しかけたくなった。
駅舎に戻る。
慣れぬ言葉を使って、駅員らしき男に氷像の感想を伝えた。
素晴らしかった。
旅をして良かった。
氷像は、この旅での最大の収穫だったと。
すると、男は無表情のまま、こう言った。
「氷祭りなど、この村で開かれたことなどないでさあ」
「あれは、人間ですよ。人間が立ったまま凍り付いたものですよ。この数日は寒かったからなあ」