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1000文字小説(127)・新興宗教⇔若者たち(実録ルポ)

「先輩。こんな話があります。聞いてくれますか?」

「へえ。どんな話? 記事にはできそう?」 

「いえ。すぐには記事にできません。違和感だらけ。だから先輩にアドバイスを貰いたいのです」

「へえ。どんな話? 聞かせて」

「新宿の東宝ビル付近で、群れている若者たちがいるのですが」

「トー横? トー横キッズ?」

「いえ。トー横キッズではなく全く別の集団。自ら新興宗教と主張していますが。割とインテリもいます。有名企業の元社員や大学ОBなんかも」

「へえ。キッズとは違うの? どこに出没するの?」

「特に決まっていません。ただ僕がよく見かけるのは東宝ビルの屋上です。あのゴジラの……」

「何をしているの?」

「ええ。そうした屋上などで黙って人々を眺めているだけなんです」

「何もしないの? それって宗教なのでしょう? どういうレリジョン(宗旨)かしら」

「『意味の無意味性』です」

「意味の無意味性?」

「ええ。覇気のない生活をしている理由です。それがレリジョン(宗旨)といえるかもしれません。ただ黙って東宝ビルや渋谷のスクランブル。どこかの陸橋などから、通りを見つめている以外、何もしません」

「なぜ、そんなことをするの?」

「『意味の無意味性』とは人間の歴史が『無意味な意味追及』の繰り返しに過ぎないというのです。これが彼らがそんな行動をしている理由なのです」

「無意味な意味追及?」

「ええ。彼らは今まで人類が哲学や科学、経済、戦争などで、そこに意味を求めてきたのは『不安』だったからだというんです」

「不安?」

「ええ。『不安感の裏返し』が意味の追及(社会活動全般)だと。人間の歴史は、単なる不安感の裏返しに過ぎないという主張です」

「それで何もしないと?」

「ええ」

「変ね。それでは宗教とは呼べない。だって、どんな宗教だって信者に『不安』があるのは当たり前でしょう。バカみたい。不安感の裏返しなんて、わざわざ主張するまでもない。不安のない人類なんてロボットだわ。ロボットに宗教は不要だ」

「そうです。それが彼らに違和感を感じる理由の一つです」

「彼らは矛盾だらけ」

「先輩。もう一つ変なことに気が付きませんか?」

「さあ」

「いえ、単純なことです。こうして日々の生活に追われ、何かしら不安を感じながら『意味の無意味性』の意味について考えている僕たちも、彼らとさほど変わらないのではないかと」

「ははは。バカみたい。無意味ね! 『意味の無意味性』だもの!」


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