1000文字小説(75)・こわいこわい・口裂け女の恐怖(怖い話/by処刑スタジオ)
「都市伝説の口裂け女って知ってる?」
美奈子が聞いた。
今日はハロウィン。部屋には小学生のトモキと2人きり。
美奈子は怪談や都市伝説が好きで、友人たちの間でも有名だった。美奈子が話を披露すると、誰もが恐怖におびえた表情をする。
それが楽しい。
美奈子は話もうまくて本当に怪異が起こりそうな気になるという。
「こわい、こわいよ」
特に小学生の弟のトモキは病的なほどの怖がりで、怖い話のし甲斐がある。
トモキを脅かして楽しむ。
あまりの怖がりで、時々心配になるほどだったけれど
最近、トモキはドイツのミリタリーグッズを集めているらしい。今日も迷彩柄のベストを着ている。子供向けに作られた偽物である。
「そんな、プラスチックのおもちゃの拳銃集めたって使えないでしょう。なんの役にも立たないし」
美奈子は笑った。
このあたりにも、気弱な性格が表れていてほほえましい。
「こわい、こわいよ」
口裂け女の話も、トモキはひどく怖がった。
トモキが近所のコンビニに出かけてくるというので、今日の怪談は中断された。
今日はハロウィンだ。
(続きがあるのよ)
美奈子はマスクをして夜道を先回りしている。
すぐには気づかれないよう、口裂け女風のコスプレをして草むらに潜んでトモキが来るのを待った。
トモキがコンビニから戻ってくる。
(ふふふ、失禁しなきゃいいけどね)
美奈子は、暗い道でトモキが通りがかるのを待った。
今日はハロウィン。
だからこのくらいは許される。
「アタシ、キレイ?」
声色を使って後ろからトモキに近づいていく。
案の定、トモキは怖くて動けない。
後から、怯えたトモキの前でマスクを取って正体を明かすと、トモキは美奈子だとわかってホッとするという段取り。
「アタシ、キレイ?」
美奈子がトモキの肩に手をかける。
「こわい、こわいよ」
トモキは迷彩柄のベストから何かを取り出すと反撃してきた。
激痛が走る。何かわからない。
「やめて、わたしよ」
美奈子は助けを求めた。
ドイツ製のミリタリーナイフ。恐怖のあまり、トモキは美奈子をめった刺しにしてきたのだ。
ようやく、通行人が覆い被さっているトモキを引きはがすと、周囲に血だまりのプールができていた。
「痛い、痛い」
美奈子は、あまりの痛みに叫びながら道路を転げまわっている。顔が血まみれ。
通行人がボロボロになったマスクを外すと、美奈子の口は耳まで裂けていた。