1000文字小説(54)・感動的なビデオ⇔ミステリー仕立て⇔うそ寒い話(真相)
「これ、うそ寒いビデオ。ちょっと見てくれ」
タイチは、小学校の教員をしている。
「うそ寒いだって」
タイチは、昔から予測不能なところがある。
『無人島からの手紙』
と、タイトルが記されている。
「クラスで、子供たちと鑑賞したんだ。終戦記念日に合わせてさ」
「おお。いい話だな。涙腺崩壊。超感動しそう。泣きそうだ」
タケヒサが、声を詰まらせる。
「だが、どうも遣りすぎたみたいだな」
「遣りすぎた?」
「そうだ。結局、本人が手持ちカメラで撮影していない限り、何だかの演出が入り込んでしまうということさ」
「子供に指摘されたんだ。先生、コレちょっと(うそ寒い)って」
「悲しいな」
「ま、ともかく見てくれ」
DVDプレイヤーが動き出す。
『第二次世界大戦で激戦地だった無人島から、手紙が届いたのです。戦地で亡くなった父からでした』
ナレーションからスタートした。
テレビ番組。
「ヤバいな。もう涙腺にきそう」
タケヒサは、ハンカチを取り出した。
『手紙は、日記風の手記でした。男性に向けられて書かれているようです。そもそも、父親がどんな人だったのか。男性は幼少期に別れたので、全く覚えていません。思い出すらありません』
ナレーションが続いている。
『手紙は古すぎて、判別が不能です。何が書かれていたのでしょうか』
途方に暮れる男性の表情。
『男性は、大学の近くで、個人タクシーの運転手をすることにします』
同時進行で、男性の生活を追っている。
ドキュメンタリー。
『大学の教授たちが、タクシーを拾うのを待っています。手紙をダッシュボードに隠して…』
大学の研究者に、手紙を解析して貰うつもり。
最先端の技術があれば、可能なのだ。
結局、赤外線を照射することで、ノートに書かれてあることがわかった。
浮かび上がる文字。
ラストは、男性を乗せたテレビ局のヘリコプターで、無人島までフライトする。
エンドロール。
「うそ寒くないよ。良い話だろ」
タケヒサは、涙を拭った。
「よく考えろ。ヘリコプターで現地までフライトできるんだぜ」
「どういうこと」
「この番組。無理にミステリ仕立てにしてたけど。初めから、きっと全部わかってたんだよ」
「よく考えろ。ヘリコプターで現地までフライトできるんだぜ。ならさ、タクシー運転手なんてする必要ないだろ。テレビ局が本気出せば、何でも調べられたんだよ。タクシーじゃなくて、初めからヘリコプターを使えば良かったんだ」