1000文字小説(90)・キモを冷やす、キモだめし(超こわくない話/ギャグ劇団笑)
僕は寺の息子。本当は怖がりだが見えてしまう。お寺なんて継ぎたくない。
いってみれば、ただの「弱虫」。
今日は1対1の喧嘩である。マサヤはすぐにケンカを売ってくる。
「キサマも寺の息子だろ。まさか幽霊が怖いなんてことはないだろ」
マサヤも父親が住職。天台宗。街では2番目に大きい寺の息子。
「怖いわけないだろ」
僕は喧嘩を買ってしまった。
「幽霊なんて怖くない」
「じゃあ、俺の寺に来いよ。肝試ししよう」
(マジで?)
マサヤの実家は、江戸時代からある寺で、元処刑場の跡地に建てられたという。
いまだに、人魂を見たとか、鎧武者の亡霊が歩き回っているとか奇怪な噂は絶えない。
マサヤの寺での肝試しは、僕らの間でも怖すぎてみんな途中でやめてしまう。
無事に最後まで、肝試しを終えた者がいない。
それほど、不気味な寺だった。
「よし。始めるぞ」
マサヤは意気揚々としているが、早く帰りたい。
一人ずつ。
墓地を一周して、一番奥にある水子地蔵が数百体ならんでいるところまでいって、スマホで写真を撮って帰ってくる。
これが、はた迷惑なミッションである。
二銭銅貨を投げて、表とウラでどっちが先か順番を決めた。
「ウラだ」
マサヤは先に肝試しに行った。
戻ってきて、これ見よがしに水子地蔵の写真を見せてくるマサヤ。
不気味である。
「僕の番」
肝試しに向かう。
『ガシャ、ガシャ』
方腕、片足のもげた鎧武者。
『にゅろろ』
青白く光る人魂。
物の怪が尾行するようにフラフラ僕についてくる。
魑魅魍魎の跋扈する世界。小便を漏らしそう。オムツをしてきてよかった(マジ)。
ついに、水子地蔵地帯。
スマホを取り出して写真に収めようとする。
(やばい)
手が震えて電源が入らない。
『けたけたけた』
笑い声。地蔵たちの裏から血まみれの赤ん坊たちがノソノソと這い出して来る。その数、数百体。
(うわ)
硬直する僕。
その時
「グアアアッ」“鎧武者”が、刀を振りかざして斬りかかってきた。
「うわ」
僕は目を閉じると同時に、盛大にオムツに失禁した。
『オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラ マニ ハンドマジンバラ ハラバリタヤ ウン』
マサヤの声。
亡者たちが消えていた。
マサヤが天台宗の光明真言を唱えたのだ。
「冷静に考えろ。死にそうな武士と人魂と赤ん坊だ。あんな社会的弱者に何ができるというんだ」
「そんなこといわれても怖いものは怖い」