
1000文字小説(117)・そして、誰もいなくなった?/ホラー(コメディ)
雪山。
下山不可。
ここは、行方不明者が多い。
外は吹雪。
窓も、開けられないように釘で打っている。
全ては、万全だ。
密室殺人。
小屋の中には、場違いな外国の童謡が流れている。
微笑む俺。
手には斧。
復讐の鬼。
この雪山、訪れた者は童謡にまつわる死に方をするのだ。
あの英国のミステリー小説のように。
――そして、誰もいなくなる――
そうさ。
死んで、当然だ。
あいつらは、
誰もいなくなるんだ。
あの小説みたいに。
そっくりの死に方をするんだ。
俺は、用意周到。
先月、あいつらを、この山小屋に招待した。
5人のクラスメートを殺していく。
死者は、全員、雪に埋めた。
今頃、地獄で、寒くて凍えているだろう。
強い風。
「コンコン」
ノックのような音がする。
ドアが軋んでいる。
残りは1名。
目の前で青くなっている男。
担任だ。
「何のつもりだ」
担任は、ぶるぶる震えている。
「忘れたわけじゃないだろ?」
俺は、目出し帽を被っている。
そう。
中学生時代。
あの忌まわしき、中学生時代。
思い出す度に、吐き気がする。
この担任はクラスメートともに、俺を虐めた。
救ってくれるどころか、一緒になって笑っていた。
「誰だキサマ。ちょっと、待て」
担任は言った。
「俺さ」
俺は、ついに目出し帽を脱いだ。
「これで、誰もいなくなる」
手に持っている斧を一気に、脳天に振り下ろす俺。
頭部がザクロのよう。
「キサマか」
担任が、笑ったように見えた。
何が楽しいのだろう。
担任は、息も絶え絶えになってドアのところまで行った。
「バカめ。誰も、いなくなってなんてないぞ」
担任。
意味がわからない。
どういうことだ?
5人とも殺したはずだ。
嫌な予感。
「コンコン」
さっきから、ノックのように聞こえている音。
風の音なんかじゃない。
「コンコン」
「コンコン」
「コンコ」
ノックの数はどんどん増えている。
「お前も、死ぬんだ。当然だろ」
担任は、そう呟くと、こと切れた。
山小屋のドアが、担任の体の重みで開く。
闇の中に浮かぶ目。
5体のゾンビ。
あいつらだ。
クラスメートは、5人ともゾンビとなって蘇ってきたのだ。
殺された俺に、復讐するため。
近づいてくるゾンビ。
奇怪な笑みを浮かべている。
そう。
俺をいじめていた、あの時と同じ笑みだ。
侮蔑の笑み。
助けて。
必死で、逃れようとする。
だが、外は吹雪。
窓も、鍵をかけて密室。
どうやら俺は、永遠に虐められっ子のままらしい。
死ね。
ゾンビたちが、一斉に俺の首元に食らいついてきた。
そして、誰もいなくなった。