超こわくない話(ギャグ劇団笑)/恐怖が足りない
深夜。
「恐怖が足りない」
ヒカルは、自宅を抜け出すと公園に向かった。
ヒカルは怪談師。
明日は怪談最恐トーナメント決勝戦。
去年は、敗退。
「ヒカル。私には勝てないわよ」
優勝したキョウ子のバカにしたような笑みが、浮かんでくる。
「キョウ子め」
今年こそは、ライバルのキョウ子に勝ちたかった。
『赤ん坊の首』
これが明日披露する怪談の名前だった。
今の今まで、リハーサルをしていたのだが、著しく完成度が低かった。
ヒカルは、怪談で使う"キューピー人形”を手にしたままだ。
怪談は、あまりの恐怖に会場が静まり返って、本当に怪異を呼び込んでしまうほどのリアリティがなければならなかった。
『赤ん坊の首』
このオリジナルの新作は、あまり怖くなかった。
キョウ子は強敵。
恐山のイタコの家系で、毎回度肝を抜く怪談を披露する。
狂気。
下手したら人を殺しかねないほどだ。
これでは勝てない。
今夜中に最恐トーナメントにふさわしい新作の"怪談”を作らなければならない。
去年と同じ屈辱は味わいたくない。
あらゆる恐怖のパターンが出尽くしていた。
手詰まり感が否めなかった。
最後の手段。
心霊スポット巡り。
ニュートンのリンゴ。
怪談のアイディアが欲しかった。
公園が見えてくる。
ここのトイレは、女子がレイプされて3人殺され、ジャングルジムやブランコで首吊り自殺が6件起こっている。
幽霊の名所。
「駄目だ」
暴走族がドンチャン騒ぎしている。
とても怪談など生まれてきそうにない。
ヒカルは事故物件サイトをスマホで開くと、すぐに曰くつきのマンションに向かった。
高層マンション。
ここは自宅から最も近くにある心霊スポット。
404号室。
この部屋では、借金苦に陥った夫婦が首吊り自殺している。
ダメだ。
ビック●ディーばりの大家族が住んでいて、笑い声がゲラゲラと聞こえてくる。
全く怖くなかった。
「最後の望みだ」
タクシーで、神社へ向かう。
そこは、呪いの藁人形に釘を打つ、幽霊が目撃されたこともある神社。
境内へ入っていく。
『カンカンカンカン』
奇怪な音が聞こえた。
ついに怪異に遭遇した。
新作ができそうだった。
髪を振り乱した白装束が振り返る。
鬼のような女。
キョウ子だった。
「あ、明日の決勝で披露する怪談のリハーサルしているの。ライバルの怪談師・ヒカルが、藁人形で呪い殺される話……」
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