1000文字小説(23)・ブラックエンペラーを手に入れた男(復讐)
「ようやく、手に入れた」
マヒトは、バイクを走らせている。
ホンダのCB250T HAWK。暴走族全盛時代は、「バブ」と呼ばれていた。
この「バブ」は、ブラックエンペラー総長が、カスタムして乗っていた本物である。
パーツは、交換されてはいるが、ほぼ当時のままと言っていい。
マヒトは、バイク屋で働いている。
このバイクを見た時、ビリビリと全身に衝撃が走った。
「絶対に、手に入れてみせる」
マヒトは、本当に手に入れた。かなり汚い手を使ったが、後悔していない。
「もっと、飛ばしてよ」
後ろに乗っているのは、このバイクに負けぬほど、美しい女。
バイクを手入れて、一週間目。
「あのバイクに、乗せて欲しいの」
女が、バーで声をかけてきた。
逆ナンである。19年も生きているが、こんなことは初めてだった。
「バブ」を手に入れてから幸運ばかり。
暴走族全盛期から、生き延びてきただけの魅力が、このバイクには備わっている。
『バブー』と聞こえる排気音が「バブ」の名の由来である。当時の不良たちはクールとしか思えない。
マヒトが、ブラックエンペラーを知ったのは、ユーチューブ動画からだ。
1960年代末から1992年までにかけて存在した伝説の暴走族である。
暴走族は、衰退。2000年代に再結成された関東連合は、犯罪集団であり、準暴力団である半グレとして知られる。当時とは随分、変わってしまった。
こうしてクールなバイクだけが、生き残っている。
暴走族マンガのヒットの影響で、当時のバイクが高値で取引されている。
年代の違うマヒトが引かれるのも当然ではある。
「あぁん。もっとスピードを出して」
女の声が、聞こえてくる。
この女は、全身が性器になったようなエロい声を出す。
『ブルㇽゥルオオオォ』
フルスロットル。バイクは、首都高を加速していく。少々、飛ばし過ぎだが構わない。
「このバグ―、どうやって手に入れたの?」
女が聞いてくる。
「俺は、バイク屋をやっている。どうしてもこのバブーが欲しかった。だから、持ち主がメンテナンスに来た時に、ブレーキとアクセルに細工をしたんだ。それで、交通事故。運転手は即死。そのまま、引き取り手のない車両を、俺がゲットしたってわけ」
「それって、作り話?」
「いや。本当だよ」
「ふふ。アナタが殺した人、私の恋人なの。このバイク、昨夜のうちに、時速100キロ以上出すと、ブレーキが効かないように細工しておいたの……だから、もっとスピード上げて」