1000文字小説(65)呪いの手紙(奇妙な話/不愉快な話)
「富沢リカのマンションに呪いの手紙が来るらしい」
変人で友人のKは、こう切り出してきた。
Kは“富沢の写真で何度もオ●ニーしている”と言っていた。
富沢は、近所でもちょっとした有名人だった。誰もが振り返る圧倒的な美貌――高校でも“高嶺の花”といった感じだった。
当然だが、話しかけた者など誰もいない。本人も積極的に男子生徒と触れ合うことはない。
だからKが富沢と話したと聞いて少々嫉妬を感じたほどだ。
「富沢リカ? 話したのか?」
僕は驚いたふりをする。
どうもマユツバのような気がしてくる。うさんくさい。
「話した」
Kは以前”隠し撮り写真”を何度も見せてきた。富沢の住んでいるマンションを突き止めたという。
とはいえ、それだけで富沢と親しくなれるはずもない。
「どうやって、話しかけたんだ」
「俺はあの後、富沢のマンション近くにアパートを借りたんだ。引っ越しをした。同じ通学路で同じバス停を利用して、話しかけるきっかけを掴むためだ。どうだ、すごいだろ」
Kは楽しそうに笑った。
「そこまでするか。ついていけない」
僕はKに羨望めいたものを感じながらも、少々怖くなった。
Kには、ストーカーめいた気質がある。
「話はそれだけか」
「続きを聞け」
「何だい、続きとは?」
僕は立ち去ろうとしたが、実際“呪いの手紙”というのも気になる。
ともかくコイツが僕たちの間で、最も富沢と近いところにいるのは事実である。
「これが手紙だ。開けるなよ、危ないから」
Kは実物を見せてくる。
「貸せ」
触るなという忠告を無視して、僕は手紙を開けようとした。
確かに「富沢リカ」宛の手紙ではある。
差出人は不明。
(わ)
指に違和感があった。血が滲んでいる。封筒にコンパクトな剃刀が仕込まれていたらしい。
「バカ。だから触るなと言ったんだよ」
「ふざけるな」
「ふざけてない。バス停で青い顔をしながら手紙を渡してきたんだ。結局、これがきっかけで俺と富沢の間で、深い信頼関係が芽生え始めている」
僕はこの時点である結論に達していた。
「お前が送ってるんだろ。その手紙。やめろ。そんなのすぐにバレる。警察沙汰になる。今の時代、バレないはずがない」
「……」
Kは、剃刀についた血をじっと眺めている。無言であることが、全てを肯定しているかのようだった。
――3か月後、Kは死んだ。
富沢を刺殺した後、その足で踏切に行き列車の前に飛び込んだのだ。