(奇妙な話/不愉快な話)呪いの手紙

「富沢リカのマンションに呪いの手紙が来るらしい」
 変人で友人のKは、こう切り出してきた。

 Kは“富沢の写真で何度もオ●ニーしている”と言っていた。
 富沢は、近所でもちょっとした有名人だった。誰もが振り返る圧倒的な美貌――高校でも“高嶺の花”といった感じだった。

 当然だが、話しかけた者など誰もいない。本人も積極的に男子生徒と触れ合うことはない。
 だからKが富沢と話したと聞いて少々嫉妬を感じたほどだ。

「富沢リカ? 話したのか?」
 僕は驚いたふりをする。
 どうもマユツバのような気がしてくる。うさんくさい。

「話した」
 Kは以前”隠し撮り写真”を何度も見せてきた。富沢の住んでいるマンションを突き止めたという。
 とはいえ、それだけで富沢と親しくなれるはずもない。

「どうやって、話しかけたんだ」

「俺はあの後、富沢のマンション近くにアパートを借りたんだ。引っ越しをした。同じ通学路で同じバス停を利用して、話しかけるきっかけを掴むためだ。どうだ、すごいだろ」
 Kは楽しそうに笑った。

「そこまでするか。ついていけない」
 僕はKに羨望めいたものを感じながらも、少々怖くなった。
 Kには、ストーカーめいた気質がある。
 
「話はそれだけか」

「続きを聞け」
「何だい、続きとは?」
 僕は立ち去ろうとしたが、実際“呪いの手紙”というのも気になる。
 ともかくコイツが僕たちの間で、最も富沢と近いところにいるのは事実である。
 
「これが手紙だ。開けるなよ、危ないから」
 Kは実物を見せてくる。
「貸せ」
 触るなという忠告を無視して、僕は手紙を開けようとした。
 確かに「富沢リカ」宛の手紙ではある。
 差出人は不明。

(わ)
 指に違和感があった。血が滲んでいる。封筒にコンパクトな剃刀が仕込まれていたらしい。
 
「バカ。だから触るなと言ったんだよ」
 
「ふざけるな」
「ふざけてない。バス停で青い顔をしながら手紙を渡してきたんだ。結局、これがきっかけで俺と富沢の間で、深い信頼関係が芽生え始めている」

 僕はこの時点である結論に達していた。
「お前が送ってるんだろ。その手紙。やめろ。そんなのすぐにバレる。警察沙汰になる。今の時代、バレないはずがない」

「……」
 Kは、剃刀についた血をじっと眺めている。無言であることが、全てを肯定しているかのようだった。
 
 ――3か月後、Kは死んだ。
 富沢を刺殺した後、その足で踏切に行き列車の前に飛び込んだのだ。
 

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