【小説】#幽霊を乗せたタクシー(ショートショート)
「幽霊を乗せたタクシーの噂を暴こうと思うの」
ミカは言った。
「どういうこと?」
カナエが聞いてくる。
二人は、夜になるまで渋谷のスターバックスで、時間を潰していた。
「あの不気味なタクシーの噂で今、持ち切りになっているでしょ」
ミカが嫌な顔をする。
「青山霊園の近くでタクシーを拾うと、前の客が幽霊だったとか」
カナエが笑う。
「そう。シートが、ビショビショに濡れているっていう」
「現実には、ありえないし」
噂には、数種類のパターンあった。
「タクシーに乗っていると、窓ガラス越しに、全身真っ白い服を着た女の人が、歩道で手を上げているのが見えるっていうのもある」
「それで運転手が無視して通り過ぎようとすると、もの凄い形相になって追いかけてくるとかね」
「この噂のせいで、勉強が手につかなくなっている生徒まで出ている」
「異常よね」
やがて、該当らしきタクシーがやってきた。バックミラーに神社の大きなお守りをつけている。
噂通りである。
「じゃあ作戦開始。車内で二人でピースサインを出している自撮り写真を撮影すれば、みんな納得すると思うから」
『ブロロロロ』
タクシーは進んでいる。
大蛇のような山道をうねるように進んでいる。
「運転手さん。青山霊園の近くで、変なものを見たことってありますか」
カナエが、探りを入れる。
「ないな」
運転手は、ボソリと言った。
そのまま、何度か会話の遣り取りがあった。
「変よ」
カナエがささやく。
「変って?」
「私たちって、行き先まだ伝えていないはず」
「……」
「じゃあ、この車ってどこ向かっているの?」
カナエが震え出している。
幽霊を乗せたタクシーの幽霊って、この運転手が幽霊ってことかも。
「昔、アンタたちみたいな若い二人組の女子を乗せたことがあるんだ」
運転手が話し続ける。
怖くて、二人とも前を見られない。
「それで、今日と同じ山道を車で走り始めたんだ」
「……」
「俺は、女子らに、何か企みがあるようだとすぐに気づいた」
「色々とイタズラを仕掛けては、今日みたいにシートでヒソヒソ話している」
「思い出さないかな? 乗っていたのは君たち本人だよ」
「君らが、今日みたいに手の混んだイタズラをしたもので、俺はハンドル操作を誤って、タクシーは崖から転落したんだ」
「……」
「そして俺たち三人は一緒に死んだ」
「じゃあ、幽霊を乗せたタクシーの幽霊って」
カナエは、声にならない。
「女子高生のアンタら二人と、運転手の俺の全員が幽霊ってことだ」