(怖い話/by処刑スタジオ)バラバラ殺人・ミサキの腕
「これで今回も、完全犯罪だな。自業自得だ。あの女がバカだからだよ。ったく」
僕は車を止めた。僕は帽子をかぶっている。ヤクルトスワローズの帽子だ。
『これで、ずっと一緒だね。指輪ありがとう』
ミサキの震える声が聞こえた気がした。
幻聴だった。
あれは、イミテーションの婚約指輪を渡した時だったっけ。彼女は、あの指輪が偽物のダイヤだということにも気づいていなかっただろう。
どうでもいいことだ。今やミサキは、人間の形すらなしていない。アタッシュケースの中で“肉の塊”と化している。
馬鹿な女――文字通り、もはや馬やシカの肉と大差ない。
僕はアタッシュケースを崖から落としていった。ケースは5つあった。
ここは自殺の名所で、絶対に死体が上がらないことで知られている。
「島田荘司のデビュー作みたいだ」
助手席には、“占星術殺人事件”が置かれている。
学生時代にはミステリー研究会だった。殺したミサキとは大学のミステリー研究会で知り合った。
皮肉な話だ。
この本をくれたのは、ミサキなのだから。
ミサキはバラバラにされて、殺されこうして海に沈んでいく。アタッシュケースには重りを入れているため、最終的には深海までたどりつく。
水圧に耐えられなくなったアタッシュケースは崩壊し、ミサキの身体も跡形もなくなる。
散らばった肉片は、奇態な姿をしたグロテスクな深海魚たちが食べてくれるだろう。
バラバラにしたのは、“占星術殺人事件”からアイディアをもらった。
だが、原作通りではつまらない。
僕のオリジナル要素があるので、今回の殺し方は気に入っている。
御手洗と石岡のコンビは傑作だ。ホームズとワトソンを彷彿とさせる。
占星術師として登場する御手洗。
僕は天才・御手洗にでさえ、ミサキの遺体を発見することはできないだろうと思った。
何しろ、ミサキの肉は深海魚たちに食べられてしまうのだから。
ヤクルトの帽子がふわりと風に舞った。
崖の下に落ちて、数メートル下の岸辺にひっかかっている。なだらかな道を通れば取りに行けそうだ。
「よし」
僕は、崖を降りて行くと拾った帽子をかぶり直した。
車まで戻ろうとした時、何かが足に絡みついた。
ぬらぬらした海藻のようだった。
それはミサキの腕だった。
左手の薬指に、イミテーションのダイヤの婚約指輪がはめられている。
『ずっと一緒だね』
僕は、海の底にひきずり込まれていった。