【時短系料理人】
――今日は俺、珍しく料理をしているんだ。
時短系料理だ。
「パパ。お腹がすいたよ」
居間の方から、子供たちの声が聞こえている。
――俺は、シングルファザーだ。
俺、料理は下手だ。
文字通り命がけだ。危険すぎるんだ。
「見てくれ」
俺は、オタマでスープを掬ってみせる。
奇妙な肉片が入っている。子供たちには、見せられない。
俺の指だ。薬指の先。第一関節より上の部分だ。さっき包丁で、食材を調理している時に、謝って切り落としてしまったんだ。
それが、スープの中に入って、グツグツと煮えているんだ。
人間の食い物じゃない。
ぶきっちょ。どんなに一生懸命作っても、人間の食べるモノとは思えないものしか出来ない。
俺は、マッドな時短系料理人。
「パパ、まだ? お腹すいた」
息子が聞いてくる。
「もう、そろそろだよ」
俺は、自分の子供の中で、この息子が最も嫌いだった。何かにつけて絡んでくる。生意気さが尋常じゃない。
たまに、死ねばいいとさえ思う。
――息子は、好奇心が旺盛という次元じゃない。うるさい。うるさ過ぎる。何にでも口を突っ込んでくる。
「遅いよう。パパ」
息子がキッチンにやってきた。
「これ、何のスープ?」
息子は、大きな鍋の中をのぞき込んでいる。
「そのスープかい?」
俺は、そっと息子の後ろに立った。
――教えてやろうか
「パパ。ママはどこなの?」
息子が聞いてくる。
――教えてやろうか
この息子は、堪忍袋がいくつあっても足りないようだ。
「死ね」
俺は、遂に息子の肩をつかんでスープの中に放り込んだ。
すぐに鍋の蓋をする。何も見えなくなった。
暗いくらい、スープの鍋の奥底から
『ママ、助けて』
暗いくらい、息子の叫び声が聞こえた気がした。
『グツグツ、グツグツ』
息子は、そのまま俺の薬指の先端と供に、スープの鍋の中で煮えている。
――教えてやろうか
「ママは、このスープの中だよ」
俺は、こうしてマッドな時短系料理を完成させた。
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