【小説】#引きこもり⇔電磁波⇔訪問支援員(ショートショート)
「今日は、手ごわいぞ」
水橋。
水橋は、認定NPO法人の先輩。
引きこもりの訪問支援を行っている。
「マジっすか?」
今日もタケヒサの登場。
タケヒサは、前回の出会い系サイトのサクラをクビになった。
再び、研修だった。
給料よりも、やりがいを求めてNPO法人を職場に選んだ。
研修が始まって、三週目。
引きこもり支援員は、やりがいがありそう。
給料は安い。
だが、そんなことは問題ではない。
世のため人の為になるか。それだけである。
「ミツオ君という中学生なんだ。ミツオ君が原因で辞めていくヤツも多い」
それほど、支援員泣かせの「引きこもり」らしかった。
『……訪問支援。自宅に支援員が伺って、お子様と話をして、解決策を探る。家族だけで試行錯誤を続けても、失敗するケースは多い。そこで、第三者が訪問支援するんだ』
これが、面接時の説明。
「引きこもりの子供全員が対象ですか?」
「全員ではない。主に親からの支援で、改善が困難な子。引きこもりから3年以上が経過している子。さらには、本人が親御さんを拒否しているケースではNPOが動くんだ」
「職員が接触できるの平均2割ほど。うちは、8割は最終的に会えるようになる」
実際に、マンションに行くと、水橋の言ってることが明確となってくる。
(厄介そうだ)
「は。さっさと帰れよ」
ミツオが、水橋に怒鳴る。
中学二年生。声変わりは済んでいて、もう大人だ。
「やっと最近、部屋に入れてくれるようになった。1年もかかっている。親御さんの依頼である以上は、対応する」
ドアが開いて、中に入ることができた。
中には、何もなかった。人間一人きりだ。
「電子レンジは? この前、届けだろ。実家から預かってきたヤツ」
水橋が問う。
「売ったよ。五万円くらいだった」
「スマホはどうしたんだ。全然連絡取れないって、お母さんが泣いていたぞ」
「あ。あのiPhoneは、売ったよ。10万くらいかな」
「あの冷蔵庫は」
「あれも売った。二束三文にしかならなかったけど」
ミツオは、親御さんから送られた電化製品を、片っ端から売ってしまうらしい。
「変な癖だね」
タケヒサが対応を代わる。
水橋の指示だ。
「俺、過敏症なんだ」
「過敏症?」
「うん。俺、電磁波過敏症なんだ。だから、電化製品を使ったりできない。実家は忘れている。自分の子供のことなのに。俺が、勝手にリサイクルショップに売るのは抗議のつもりなんだ」