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モナ・リザについて

事故調査委員会報告書 ケース29 ブリッジマン

 本件は被疑者死亡につき解決済み
被疑者フランチェスコ・ブリッジマンは失われた名画「モナ・リザ」(レオナルド・ダ・ヴィンチ作)を手に入れるため、1974・4・20東京・上野ポイントへジャンプした。本件の如く失われたもの・こと・ひとを求める事案、いわゆるマルセル・プルースト症候群はあとを絶たず増加の一途を辿っている。バタフライ効果による歴史改変は予測不能で、われわれの存在を脅かすものだ。この由々しき事態に対処し、模倣犯を抑止・防止するためには、より一層のパトロール強化、タイムキーパーの増員、及び全国民の深層心理を掌握するロールシャッハテストの完全実施、一挙手一投足を監視するパノプティコン体制の拡充が急務と思われる。
なお本件は被疑者死亡につき、遺体は極秘裏に回収・処理された。

モナ・リザの夢

ーあなたのお名前をどうぞ。
ーラ・ジョコンダです。
ーいえ、本名をお願いします。
ーラ・ジョコンダです。
ー・・・そうですか、あなたが「モナ・リザ」の生まれ変わりだというのは本当ですか?
ー本当です。
ーそれに気づいたのはいつですか
ー物心ついた時ずっと感じていました。わたしがわたしではないような不思議な気持ち。どこにもうひとり、別のわたしがいるような、そのもうひとりのわたしはどこかで多くの人にジロジロ見られているのです。
やっと分かったのは「小学三年生」の付録についていた飛び出す絵本の中の「モナ・リザ」を見た時、はっきりと分かったんです。「これはわたしだ」と。
ーとても興味深いお話ですね。
ところで「モナ・リザ」は誰なんです?
ーわたしです。
ーいや、そうではなくて・・・つまり、ダ・ヴィンチ作「モナ・リザ」のモデルは誰なのか、という問題です。ラ・ジョコンダ。あなたのお名前通りフランチェスコ・デル・ジョコンドに嫁いだリザ・ゲラルディーニ、その人なのか。
ーわたしはわたしです。
ーごまかさないで下さい。「モナ・リザ」の正体は大いなる謎のままです。マントヴァ侯妃イザベラ・デステ、聖母マリア、マグダラのマリア、ダ・ヴィンチの弟子のサライ、ダ・ヴィンチ自身の自画像だというものまで。
あなたは誰です?
ーわたしは「モナ・リザ」です。
ーあなたは20の時、下柳ゆいという芸名でセクシー女優デビューをしている。きっかけはなんなんです、「モナ・リザ」がヌードになって本番を生業(なりわい)とするというのは?
ーわたしのことをお調べになったのですね。
ーインタビュアとして必要不可欠、最低限のマナーです。
ーそうしたかったからそうしたというだけ。誰だって、「モナ・リザ」にだって衝動というものがあります。ふと思い立って髭を生やしてみたり、剃ってみたりしたくなるものでしょう。
ー「モナ・リザ」の名を騙る売名行為,サルヴァドール・ダリ的ななりすまし、とんだ茶番なのでは、それともこれは新しい現代アートの形なのか。
ーわたしは「モナ・リザ」です。口をお慎みなさい。一度も罪を犯したことのない者だけが、わたしに酸を浴びせたり石を投げたり、スプレーを吹き付けたり素焼きのコップを投げたり茶碗を放ったりソフトクリームをくっ付けたりできるのです。
ー飽くまでも「モナ・リザ」の生まれ変わりと言い張るとおっしゃる。
ー飽きることなく、わたしは「モナ・リザ」です。わたしは「鏡」で、あなたはわたしという「鏡」の中にご自分の見たいものを見ているだけ。あなたはわたしを「モナ・リザ」のニセモノだと思っている。つまりあなたも、
ー馬鹿馬鹿しい。
ーわたしに会いに来たあなたは、あなたご自身に会っているのです。
ーわたしもニセモノだと?(笑)
ーその笑い方、サルヴァドール・ダリにそっくりですよ。
ーわたしは髭など生やしていない。
ーわたしにだってありません。わたしは本物の「モナ・リザ」の生まれ変わりです。

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