【遊戯王マスターデュエル】強くないデッキでマスター登頂~数学で見るランクマッチシステム~
えー、意味わからんタイトルですね。
この記事は遊戯王マスターデュエルのランクマッチシステムにおいて、一見相反するように見える以下の2つの内容について話したいと思います。
・強くないデッキでのマスター登頂は相当な苦行である
・強くないデッキでもマスター登頂は可能である
後半で数学的な話(本当に数学やってる人からすると数学ではないけど)をしたいと思います。ちなみに、40枚デッキで誘発を引き込みつつ初動も引ける確率が…とか組み合わせ初動の確率が…みたいな話では全くありません。
もともとは以下の記事で解説した、【水フルモン】デッキでのマスター登頂についてのただの感想記事の予定だったんだけど、せっかくなのでランクマシステム全般の話に広げちゃいました。以下の記事も読んでくれると嬉しい。
誘発なしの水属性フルモンスターデッキでマスター登頂できたよ!という内容です。
そういえば今月からレート戦実装されてるけど、そこには触れない。マスター登頂の登頂感がなくなるねえ。
ではこれから本編です。よかったらゆっくり読んでいってね
強くないデッキでのマスター登頂は相当な苦行である
先月(2024年6月)でのランクマッチでは、なんとか悲願の【水フルモン】でのマスター登頂を達成することができた。しかし、戦績はマス4以上で251戦して118勝、勝率は47%(マス4以上のみで集計)。弱いな……。
私が使っていた水フルモンはずっと一番のお気に入りで、使ってて楽しい上に結構勝てる印象もあった。「誰も使ってないけど強いじゃんね~~展開気持ちいいし後手捲りできたら脳汁ぶしゃぶしゃだし最高!!!!」って思ってた。
ただ、マスター登頂目指して戦いはじめた途端に現実を突きつけられる。思うように勝てない。あっさり降格する。そして、このデッキは弱い、パワー不足だという現実を直視させられる。【水フルモン】に関して言うと、先攻とってもG1枚でたちまち大ピンチになるのが弱すぎるし、誘発がないから後手は相手の妨害数が少なめになることをお祈りするしかないのも弱い。墓穴うらら等を投入すると手数不足が顕著になり、貫通力が下がり事故率向上が看過できないレベルになる。これはシンプルにパワー不足の証拠だなと。そして、パワー不足で負け続きの現実を見るとデッキを嫌いになりそうになる。連敗降格するとなんだこのデッキ弱いな…なんて愚痴を言いたくなる。
実は先月、マスター2の、あと1勝でマスター1昇格のところから連敗してマス4に転げ落ちた経験もしている。このときのメンタルは最悪でした。はー萎え萎え二度とやるかこんなクソゲー、って言えればよかったんだけど、似たような経験を前に2回ほど経験していて(いずれも別々のシーズン)、どちらもマスター1到達できなかったので悔しくて諦めきれませんでした。逆に言えば、マス2のあと1勝でマス1、のところまで行けるんだから絶対いつかはマス1行ける、という自信にはなっていたかも。【水フルモン】でマスター登頂目指してランクマで試行回数をゴリゴリに稼いだのは3回目なので、3度目の正直で上手くハマってくれた形だ。
この記事前半で言いたいことはこれだ。
弱いデッキでマス1目指す人は覚悟した方がいい。
デッキを嫌いになりそうになるし、連敗で2段3段の降格を経験するとすごく萎える。なんで俺こんなことしてるんだろ…って気持ちにもなる。弱いデッキ(強くないデッキ)、特に勝率5割いかないようなデッキでマス1行きたいならとにかくモチベーションをどう維持するかを真っ先に考えるべきで、相当の覚悟がないとあっさり萎えると思う。正直言って本当に辛かった。私は後述する考え方でモチベを保っていた部分が大きいが、ジェム使ってロイヤル《深海のディーヴァ》を作ったりして気休め程度にモチベーションを上げてみたりもしていた。限界すぎる。
シンプルに、ゲームなんだから楽しんだ方がいい、というのも大いにある。パワーがそこまで高くないならプラチナ帯とかの浅瀬で遊んだ方が幸せになれると思います。
さて、そんな辛い状況の中でもランクマに向き合い続けられたのには理由があるので、その理由を説明しようと思う。勝率が5割未満しかないのは分かり切っていたが、私はひたすらデュエルし続けた。
強くないデッキでもマスター登頂は可能である
ランダムウォーク過程のランクマッチ
勝率47%だった強くないデッキを使ってでもマス1に行ける自信があった理由は……ランクマッチは、下限のあるランダムウォークだからである。ランダムウォークは高校の数学やらで触れたこともある人は多いと思うが、要はコインを投げて表なら一歩進む!裏なら一歩下がる!みたいな、確率によってランダムに決定される運動のことである。
あるランクの0勝0敗状態から、昇格か降格するまでデュエルを繰り返すとして、上のランクに昇格する確率がpだとすると、下のランクに降格する確率は1-pになる。昇格確率がpであり、1戦1戦の勝率とは異なる点には注意。あとで詳しく述べます。当然マスター4から3に上がる確率はpで、5に落ちる確率は1-pとなる。これを繰り返すともちろん運とpの値によってランクは上下する。
ここで最も重要な点は、マスター5からは降格しない、という事実である。
マスター3にきた!4に下がった!また3に上がった!2連降格で5になっちゃった!また4きた!3にきた!運よく2にきた!3に下がった!
……というような昇格と降格の過程を繰り返すことで、いつかはマスター1にたどり着く、ということである。下限のマスター5があるおかげで、負けが込んでもマスター5で踏みとどまってくれるため、幸運なタイミングを捕まえてマスター1を狙えるのである。ためしに昇格確率p=0.45でランダムウォークさせてみた結果を下に示す。
じぐざぐ。ランク変動40回ちょっとでマスター1に到達している。
分子進化の中立説と結構似てる気がする。
さらに重要な点は、上のランクに昇格する確率pが0.5未満であっても、やはりランダムウォークを繰り返すことでマスター1にたどり着く可能性が十分ある事実だ。昇格より降格が多かったとしても、先ほど説明した下限のあるランダムウォークによるメカニズム自体は変わらない。だから、ある程度負けていてもマスター1に行ける自信があったわけだ。これが、私がランクマッチと向き合い続けられた理由である。
「でもいくらなんでも昇格確率が0.1で降格が0.9だったら現実的に無理じゃね?」と思った方もいると思う。そう、実際のところ弱すぎるデッキではマスター登頂は現実的ではない。結論から言うと、勝率4割以下で登頂を目指すのは無理だと言って良い。勝率45%がギリギリである。
もちろん、試行回数を無限回稼げば理論上はたどり着くかもしれないが、1か月に10000回もデュエルするのは時間的におそらく不可能だろうし、まともなライフスタイルを送っていればデュエルに余暇を全て捧げたとしても1か月に1000回がやっとだろう。というかそんなたくさんデュエルしたくないよ…。
そういうわけで、ここからは「どのくらいの勝率があればどのくらいの試行回数でマスター登頂できるの?」という話をしていく。
ランクマッチシステムはマルコフ連鎖
まずはそもそものマスター帯でのランクマッチシステムについて解説。
図の方がわかりやすいと思うので図を見てほしい。マスター5では降格がないことだけ注意してほしい。
一応文字でもランクマッチのシステムを以下でまとめてみる。
・ランク変更直後のスコアを0とする(あと5勝でマスター●●、の状況がスコア0)。
・デュエル直前のスコアが0以上の時、デュエルに勝つとスコアが+1される。
・デュエル直前のスコアが-1か-2の時、デュエルに勝つとスコアが「1」になる。(直前スコアが-1ならスコア+2, 直前スコアが-2ならスコア+3と言い換えることも可能)
・スコアが5になると、昇格して上のランクのスコア0の状態になる
・デュエルに負けるとスコアが1減る。
・スコアが-3になると、降格して下のランクのスコア0の状態になる
・マスター5では降格がない
このようなシステムは上図のように思いのほか複雑で、マルコフ連鎖になっているのが分かると思う。上記の図を数学語に直すと、こんな感じになるだろう(大したことはまるでやってないが、数学アレルギーがある方はどうぞ読み飛ばしてください)。
$${x_{n+1}=\begin{pmatrix}1 & v & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\0& 0 & v & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\0 & 1-v & 0 & v & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 \\0 & 0 & 1-v & 0 & v & 0 & 0 & 0 & 0 \\0 & 0 & 0 & 1-v & 0 & v & v & v & 0 \\0 & 0 & 0 & 0 & 1-v & 0 & 0 & 0 & 0 \\0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1-v & 0 & 0 & 0 \\0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1-v & 0 & 0 \\0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 0 & 1-v & 1 \end{pmatrix}x_n}$$
(スマホ縦画面だと見切れてるかも…横にすると見れると思います。)ここで、$${x_n}$$は9個の要素を持つベクトルで、1つめの要素は昇格した累積確率を、2つめの要素はあと1勝の状態にいる確率を、3つめの要素はあと2勝の状態にいる確率を示す。9つめの要素は降格した累積確率である。時刻nにおいてどの位置にいるかを示した確率ベクトルとなっている。時刻0における初期値として$${x_0=(0, 0, 0, 0, 0, 1, 0, 0, 0)}$$を与えれば、あるランクの0勝状態から降格するか昇格するかを計算できるというわけだ。
で、まず知りたいのは昇格確率pと勝率vの関係性なんだけど、勝率vが未知数のままだと昇格確率pは解析的に求められない(と思う。9行9列の対角化とか無理でしょ…)。そこで、pythonプログラムで雑に行列演算を繰り返してもらい、昇格確率pに応じた勝率vを算出した。さきほどの漸化式を使って行列積を繰り返して大きな値のnのときの$${x_n}$$を見たわけだ。
計算せずとも考えればわかることだが、勝率が6割7割あれば滅多に降格しないだろうし、逆に勝率が2割しかなければ昇格できる確率はほとんどない。勝率3割でも昇格がわずか5%、つまり95%で降格となってしまう。
勝率5割近辺では昇格確率pは勝率vの変化に敏感であり、多少の勝率の変化が昇格確率に大きな影響を及ぼす。勝率4割では昇格確率が20%ちょいしかないのに、勝率6割なら昇格が85%を超えているのだ。また、昇格と降格がちょうど等しくなる($${p=0.5}$$)の時、勝率vは48%程度になる。すなわち、勝率が48%未満であれば昇格よりも降格しやすいということになる。
マスター帯全体へシステムを拡張
ここまで来たら、これをマスター帯の全てのランクに拡張してシステムを作れば、「どのくらいの勝率があればどのくらいの試行回数でマスター登頂できるの?」という問いに答えられる。
マスター帯全体では下図のような感じだ
うーん、わかりにくい。図のセンスがなさすぎて悲しい。数字は勝ち越し数で赤矢印は勝利、青は敗北です。
まあやることはそんなに難しくなくて、やっぱりこれを行列演算に書き直してみるだけです。さすがに27行27列の行列は省略。
ということで、まずはこのシステムを確率過程を用いて実装し、ランダムウォークのシミュレーションをやってみた。
勝率をいくつか変えてシミュレート。いずれも1回のみの試行であるため、運次第で結果が変わる点は要注意。ただ、もうある程度の結論は見えてくる。勝率が55%など十分にあれば、基本的には降格せず降格しても大体は連続で降格したりしないので、およそ順調にランクを登っていくことができている。私が先月実際に体験した勝率47%だと、それなりの試行回数はかかるけどまだ現実的に狙えそうな範囲。一方、勝率が43%だとなんと2000回以上もデュエルしてからようやくマスター1まで到達している。
勝率に応じた必要な試行回数の分布
厳密に確率を計算して(とは言っても数値的な解き方だが)、勝率の程度によってマスター1登頂にかかる試行回数がどう変わるかを見ていこう。
マスター帯全体の確率行列(マルコフ連鎖における遷移行列)を27×27の行列とし、前に述べた方法と同様に行列積を繰り返し計算することで確率の分布を調べられる。
上の図は、デュエル試行回数(x軸)を決めた時、その回数でちょうどマスター1に昇格する確率を示すグラフである。確率の値そのものはyの値だけど小さすぎて実感もわかないのでスルーしてOK。赤破線は期待値なので、運次第で変動するもののおおよそ赤線の位置くらいのデュエル回数が登頂に必要だと言ってよい。分布が左に歪んでいるので、期待値は試行回数の多くかかった、「沼る」ケースに引っ張られていることもわかる。勝率が47%なら400回くらい、55%なら100回くらいが期待値なので、この勝率の差で試行回数が4倍近く変わる事実はなかなか残酷と言える。勝率が4割近くまで落ちると登頂がほぼ現実的に不可能になってくることも予想できるはずだ。
最後は、勝率に応じて決まるデュエル試行回数の期待値がどう変化するかを示す。分布が見えて傾向はつかめたので、先ほど赤線で示した期待値のみに注目して考えている。
上の図が本記事後半の結論。さっきの確率の分布を表した図を見てわかるように振れ幅はあるものの、勝率が低いと必要な試行回数はぐっと跳ね上がるのが分かると思う。対数軸なのにグラフの形状が下に凸なので、勝率の減少に応じた試行回数の増加は指数関数よりもはやい。勝率が5割なら全然登頂を狙えるけれど、4割だと絶望的なのがよくわかる。
主要な結果を以下にまとめてみた。
勝率70%:試行回数の期待値は43回
勝率60%:74回
勝率55%:113回
勝率50%:224回
勝率47%:429回
勝率45%:773回
勝率43%:1620回
勝率40%:6600回
一か月にかけられるデュエル回数はデュエル廃人でも1000回くらいがやっとではないか(そんなやりたくない)と思うので、試行回数の期待値が1000回の勝率を見てみると勝率は44.3%であった。
もちろん、運でのばらつきがあるため、勝率が仮に40%でも運が良ければ数百回の試行でマス1にたどり着くこともある。毎月毎月チャレンジしていれば、4割強くらいの勝率でも登頂は無理ではないのだろう。
ただまあ、普通に考えて職業デュエリストでもない限りは45%以下の勝率で登頂は目指さない方がよさそうだ。
とりあえず、これから強くないor弱いデッキでマスター登頂目指すか考える人は、マスター4以上で100戦くらいやってみて冷静に勝率を計算してから対応を考えればいいのかなあと思います。
私は先月マスター4以上のみ集計して251戦、勝率47%だったため、かなり運は良かった方なのだと思う。マスター5での対戦回数を考慮してもなお、期待値の429回よりは少ない試行回数で登り切ることができてよかった。
ここまで読んでくれてありがとうございました!
では最後に一言。
強くないデッキでのマスター登頂は相当な苦行である。
おまけ
使用したpythonソースコード。
duel関数を実装してduel関数をimportする字面がちょっと面白かった。
A 図4の描画
BDemo 図1の描画
BWhole 図6の描画
C 図7の描画
D 図8の描画
おわり
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