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Monozukuri Hardware Cup日本予選の審査員をやらせていただきました!

先日2/25にMonozukuri Hardware Cup(オンライン開催)に審査員として参加させていただきました。

ピッツバーグで決勝戦を行うイベントの日本予選という位置付けです。(今年はオンライン開催になるようですが)
個人的にはこういうピッチイベントでの審査員自体が初めての経験でしたが(これまで審査される側ばかりだったので)実際にやってみて正直なところ「登壇の方が全然緊張しないな」と思いました。笑
審査員は、むしろ登壇者よりも限られた時間の中(通常、投げかけれる質問はひとつかふたつ)で、登壇者の応答をある程度想定しながら最終的に実りのあるやり取りになるように、かつ当然ながら審査の参考になるように質問を考えなければならないので、かなり頭を使いました。。。
でも非常に面白かったですね!またこういう機会があれば喜んでご協力させていただきたいと思っています。

さて、せっかくなので登壇したスタートアップの一部を紹介をしながら私なりの視点について解説を加えたいと思います。(本番では私は3位のスタートアップへのコメントをしたのですが、実際はもっと色々な会社に対して言いたいことがあるのです!)以下解説を通して事業の企画やビジョンの方向性を立てる上での私なりのエッセンスを共有できればと思います。

例えばまず、Water Design JapanとMagic Shieldsを挙げましょう。

Water Design Japanは特殊な泡を生成するノズルを取り付けることで水道管の清掃を不要にするというもの。バブルでうんぬんという技術自体は既存のものなのですが、市場にある製品は例えば外付けの高級機器であったり洗濯機への組み込みなどをやっているが、彼らの製品はただパイプのノズルを交換するだけで良い、というもの。
Magic Shieldsは特殊な構造をした吸収素材で、普段は硬い床、転倒が発生した時はクッション、として働くマット製品です。

この2社は実は私にとっては目を見開かれるものがありました。というのも昨今のハードウェア業界はある意味非常にソフトウェア化していて、巨大なプラットフォームとセンサー群にビッグデータとAIでうんぬんかんぬんみたいな代物が跋扈している状況があります。
ところがこの2社に共通して言えることは「極めてシンプルなハードウェア製品がシンプルに問題を解決している」という点です。
誤解のないように言っておくと、審査員の振る舞いとしては決してそこを主眼としての審査をしていません。「ソフトに偏ってるからこりゃダメだな」とかそういうセリフは一切出ていません。しかし、ハードウェア業界に対してついつい油断すると「やり尽くされている感」を感じてしまいがちな現状で、シンプルなハードウェア技術でこれだけ社会的意義、市場性、横展開の柔軟性を兼ね揃えたものがまだまだできるんだなぁと感心させられました。私も明日から頭を捻り直したいです。
また両者に共通して言えた良いポイントが、市場にコストがマッチしているところでした。ハードウェア製品を作ると、例えばちょっとした困難を改善するためのツールで$200とか$300とかになってしまって、いわゆるアーリーアダプターだけが面白がって買う製品で終わってしまうリスクがあります。しかしながら彼らはシンプルであるが故に市場にある競合(一般品)と十分戦える価格レンジで提案できるという点に強みを感じました。

さて、次にCYBOについて。

ImPACT発、東大発のスタートアップ、という言い方で良いかと思いますが、がん細胞の早期発見を目的とした一連のシステムを開発している会社です。
ここで「一連の」というのがポイントだと思っています。ある意味で賭けではあるのですが。というのも(あくまで素人理解ですが)検知の過程には、イメージング、アナライズ、ソーティングがあります。簡単に言うと細胞を見て(ハード)、判定して(ソフト)、分離する(ハード)のです。
これ自体は何か奇抜なアイディアが含まれたプロセスというわけではなく、この一連のシステムによって実現する効率、スピード、精度などがポイントだと言えます。つまり、例えばAIの部分などは一般に多くのチャレンジがあり、その優劣を単純につけるのは非常に難しいと思います。しかし一連のシステムによるパフォーマンスという点では「他社の追随を許さない何某」にたどり着く可能性が大いにあります。ちょっと優れている、ではなく、他社には絶対無理、に届けることに如何にフォーカスするかがポイントだと感じました。

次にLANGUALESS。これはイヌパシーでバズった会社ですね。

マイクで心拍情報を収集して、それを元に犬の感情を推定するという製品ですが、技術的には恐らくHRV的なアプローチを使っているのだと想像します。そうすると必然的に精度の問題が出てきます。「エンタメ製品なんだから精度とかうるさいこと言わないでいいじゃん」という考え方と「いや、より精度を上げることでさらに利用範囲を拡大していける」という考え方があると思います。彼らはプレゼンでは後者のことを言っていたのですが、私は個人的には前者が好ましいと感じました。というのも、例えば医療機器で使われているようなECG製品に求められる精度は極めて高いものです。「ペットの病症の検知などできれば、、、!」というビッグビジョンを抱くのは非常に良いことですが、シビアに見て技術的にはキッパリ『不可能』と言うべき隔たりがあります。使用技術を根本的に見直す必要があるかも知れません。場合によっては「ペット」というターゲットすら見直す必要があるかも知れません(あれ?もはや別の会社?)
せっかくペット市場という「実は侮れない規模感の市場」に目をつけているのだから、そっちに振り切ることを考えるべきではないかと思います。他の動物への展開であったり、ペットの心拍データと状態(ある意味教師データ)の情報を収集するプラットフォームを作ることであったり、現時点の技術でできることで市場をしゃぶり尽くすスタンスがあった方が良かったかなぁと感じました。
当然上記のようなことも彼らの構想にはあるのだろうとは想像しますが「やらないことを決めることは、やることを決めるのと同じくらい意味がある」とよく言われますが、まさに彼らの状況はそうだったな、と思いました。

全ては紹介しきれないので最後にEdgecortix

彼らはエッジAIを実現するためのシリコンのIPビジネスを狙っている会社です。ここは村上さん(審査員)もおっしゃっていたとおり正直BIG GUYたちがガンガン入ってくる領域ですので「あなたたちが勝つと言える理由は何?」という質問が当然飛んでしまいます。「資金も組織力も販売力も劣る君たちがどうするのか?」と。
なかなか返答に難しい質問だと思います。
しかし実はこれってほとんどのスタートアップに向けられるべきとても本質的な質問です。いくつかの模範解答的に考えられるパターンがあります。
・「特殊なパテントを持っている」
・「〇〇で研究開発をやっていたメンバーたちを引き抜いた」
・「まずニッチな市場から入ることでそこで先行者優位を取る」
などなど。状況によりけりなので一概には言えませんが、私の個人的な見解としてはパテントとメンバーを主として強く主張する(ある意味ベタな)パターンを正直あまり信用していません。理由は明白で「チームがあっけなく瓦解するという大事件がよく起こるから」です。パテントを重要視する会社は、そのパテントの優位性を存分に活かす必要がありますが、それを行うのはエンジニアです。パテントを持っているだけで金になる、なんて夢物語は存在しません。その有効性を示すリファレンスプロダクトが必要になりますし、またその独自技術をパートナーが使いやすい形に整形し、また彼らが導入する際にFAE的にサポートし続けていく必要もあります。それらを行うのは主にエンジニアです。したがって、それを十分に使いこなせるエンジニアが居なければパテントは無意味と言って差し支えません。
そしてメンバー。メンバーほど虚なものはありません。スタートアップはよりによって人材の回転が早いですし、小さなチームであるが故にちょっとしたことで空中分解することがあります。なおここで、もし技術的なキーパーソンがCo-Founderであったり、そもそも創業者兼CEO自身が研究者や発明者である場合は少し例外となりますけどね。
実際私は上記のような趣旨の質問をしたわけですが、彼らは「メンバー」という言い方をしていたので(CEO自身はシリコンに関連するスペシャリティは持っていない)うーん、少々危なっかしいなぁと私としては思ってしまったわけです。
とはいえプレゼン内で示された消費電力の削減などの指標は素晴らしいものでした。でもこういうのってピッチコンテストには難しいですね。その場でその数値の妥当性について議論することなんてできないので。
ということで、適用する市場についてのアイディアなんかが質問への応答として入ってきたりすると、そこでグッときたりするんですけどね。

さて、少々かいつまんだ書き方になってしまいましたが、以上で締めます。
スタートアップを立ち上げようとしていたり、すでに立ち上げてピッチコンテストに挑もうと思っている方などにとって少しでも参考になれば幸いです。


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