【中村先生が早朝のコンビニに走る話】
※ゴマミソさん( @gomamisozuizui )の中村先生とのなれそめ夢を聞いて書いた三次創作。
商品をレジに通しながら、またこの人サラダチキン買ってる、と思った。私がシフトに入るのはだいたい夜浅め~深夜帯、大学の講義が昼過ぎからの曜日は深夜~明け方の日もある。このお客さんが来るのは多少ばらつきはあっても22時過ぎくらいのことが多い。買っていくのは夜ご飯と思しきもの。日によって、サラダチキン、弁当、和食系の総菜、新作スイーツ、たまにお酒、等々。「お箸お付けしますか」「お弁当温めますか」のお決まりの問いにも「いえ、大丈夫です」と柔らかめの低音イケボで毎回丁寧に答えてくれる。コンビニバイトしてるとお客さんから雑に扱われることも多いので、こういう丁寧系のお客さんはけっこー癒しだ。
別に毎日来るわけじゃないけど家近所なんだろなー。なんとなくそんなことを考えながら「あざまーしたー」とその背中を見送った。いつもいやに姿勢のいいおじさん……んー、おにーさん? 微妙なとこ。夏場に見たTシャツ姿はシャツがピタッとしてていい体してるのがわかった。主食サラダチキンだし、どっかのジムトレーナーとかかもしれない。今度訊いてみよっかな。
ふぁ、と込みあげるあくびを噛み殺しながら手を動かす。早朝の店内には私以外誰もおらず、暇なので日用品の商品棚で商品整理をしていた。たぶんしばらくしたら届いた商品の品出しや出勤のお客さんラッシュで忙しくなるはずだけど、私はもうすぐ上がりだ。それまで適当にやり過ごしてよっと。そう決めた瞬間に、自動ドアの開く音と入店音が聞こえた。
「しゃいませー」
どんな客が来たのか見てやろうと視線を巡らせると、あのおにーさん(仮)がなにやら妙な勢いでこのコーナー目掛けてやってくるところだった。
「(へー、この時間帯に初めて見たわ)」
少し立ち位置をずれて、横目でおにーさん(仮)の様子を伺う。
「(えっえっえっ)」
おにーさん(仮)の視線は明らかに日用品コーナーの避妊具ゾーンを物色していた。
「(なんか目も血走ってない?えっ大丈夫??)」
なんとなく空気を読んで私はレジカウンターの中に戻り、おにーさん(仮)がやってくるのを待った。
「…お願いします」
「はい、ありがとうございます」
いつものようにカゴの中身をレジに通していく。総菜パン、豆乳、スポーツドリンク、ゴム、ゼリー飲料、……栄養ドリンク? うーん。やっぱなんかやる気を感じるな。でもこの時間から? うーん。
「レジ袋どうされますか?」
「あっ忘れた……すいません、お願いします」
「かしこまりました」
いつもはエコバック持参のおにーさん(仮)だが、今日は見るからに「とりま財布だけ持ってきました」って感じだ。うん、これはもうほぼ確だわ。
ビニールのレジ袋を引っ掴むと、おにーさん(仮)は入店時と同じ妙な勢いで足早にドアをすり抜けていった。なんだろ、なんかちょっと爪先立ちじゃない?
「あざまーしたー」
既に遠ざかりつつある背中を見送る笑顔が、いつもより若干生ぬるいものになってしまったのは仕方ないことだろう。
精力剤じゃなくて栄養ドリンク選んだのは中村先生の恥じらい。
後日ゴマミソさん(たまに来るので顔把握済み)と二人で来店する様子を見て「あーねー」となるJDちゃん。