未来の検診を支える、クラシコの新たな挑戦:心と体を包む検査着
クラシコのユニフォームを超えた新たな挑戦、検査着の商品開発についてご紹介します。
今回、乳がん検診の負担を軽減する「無痛MRI乳がん検診」を実施している株式会社ドゥイブス・サーチと共同で検査着を開発しました。
この開発に携わったクラシコのメンバー、中尾(プロダクトマーケター)、京森(デザイナー)、青柳(パタンナー)にインタビューを行い、デザインの工夫やプロジェクトに込めた想いを聞きました。
共感とリサーチから始まったプロジェクト
──初めてお話しをいただいた時、どう思いましたか?
中尾
私は個人的にマンモグラフィーを受けた経験があり、それがすごく痛かったので、無痛MRI乳がん検診にとても惹かれ「ぜひ、このプロジェクトをやりたい」と思いました。
京森
私もお話しをいただいた時「やります!」と前のめりにお返事しました。
以前から検査着や入院着がもたらす影響力はとても大きいと感じていて、特に出産や入院の経験がある女性にとっては、見た目や身なりは大切なポイントです。着心地がよく身なりも整う検査着を作る機会はとても有意義だと感じました。
──確かに、検査を受ける時の服って、あまりかっこよくないですよね。
一同
ですよねー!
──パタンナーとして参加した青柳さんは、通常のアパレルとは違う検査着のプロジェクトについてどう思いましたか?
青柳
まず取り組みに入る前に、ドゥイブス・サーチさんのファンミーティングに参加させていただきました。会場では、検診を受けて癌のリスクが見つかった方々をはじめ、受けられたほぼ全ての方が強い感謝を感じておられ、ファンの熱の高さにとても驚きました。
私自身、マンモグラフィーやエコー検査も受けた経験がある中で、実際にこの検診を受けさせていただいたのですが、無痛MRI乳がん検診の快適さと画像の明瞭さにとても感激し、今後ずっと受けたい検査だと思いました。
中尾
ファンミーティングに参加した理由は、プロジェクトを始める段階から患者様の声をしっかり聞きたいという思いからです。そこで直接意見を集め、自分たちでも検査を受けるなど、受ける側、実施する側の双方向から、緻密なフィールドワークを行いました。
ファンミーティングでは、クラシコで展開している患者衣lifte(リフテ)のサンプル生地を触ってもらい、どのような肌触りや厚さが良いかなど、細かいところまでヒアリングしました。そこで得た意見をベースに、検査を運営していく医療現場の要望である工業洗濯に耐えられる生地を選定しました。
──生地はクラシコの既存の商品では使っていないものですか?
中尾
そうです、lifteで使用していた生地から派生したものになります。アンケートによると、医療機関の7割がリネン業者に洗濯を出していたので、工業洗濯に耐えうる生地が必要でした。
また、検査室は機材を冷やすために冷房を効かせているのでかなり寒いです。
そのためストレッチ性と嵩高性がある糸で編むことで、肌触りや感触が柔らかく、温かく感じる生地を選びました。
着る人、検査する人、みんなの目線に立ったデザイン
──検査着には通常のユニフォームとは異なる工夫が求められますよね。特にうつ伏せでの使用が前提だと思うのですが、デザインやパターンでこだわった点はありますか?
青柳
この検査着は素肌に直接着るため、胸の部分は生地を2重構造にしています。検査を受ける方は女性、技師さんは男性が多いので、前屈みになっても胸元が気にならないよう、詰まり気味の襟を設計しました。それと、髪型を崩さず脱ぎ着できるように、肩のスナップは3つに設定し、襟ぐりが大きく開くようにしました。
1番の特徴で、ドゥイブス・サーチさんと一緒に特にこだわった点は、メルクマールと呼ばれる目印を刺繍で入れたことです。服を着た状態でも脇や胸がどのくらいの位置にあるか目星をつけるためのもので、前身頃にドットの形で2箇所、後ろ身頃にドットとラインの形で6箇所入れています。
サンプルの段階で検査する方やドゥイブス・サーチの皆さん、色々な方に実際に着て動作の確認をしてもらい、たくさんの意見をいただきました。目印の刺繍の位置、袖丈の長さ、身幅のサイズ感など様々な箇所を調整して最終的な形にしていきました。
京森
この目印のドット刺繍は検査の位置を記すためのものですが、ドゥイブス・サーチさんのミッション“Think Small.”という言葉の意味も込めてデザインしました。ドゥイブス・サーチさんのロゴにも表現されているドットですが、『身体的負担が小さい検査で、がんをなるべく小さいうちに見つけて、可能な限り小さな治療法で治る世界を目指す』ことを目指していらっしゃいます。この想いにとても共感し、検査着に落とし込みました。
また、患者衣では服のサイズを管理するために色別のテープをつける文化があるのですが、この機能を刺繍で兼ねることができるように、サイズごとに刺繍色を選びました。
──生地色の選定についても教えてください。
京森
基本的には女性が多い検査ですが、ユニセックスな色味にしつつ、少し赤みのあるプラム色を選びました。
体の位置や服のサイズを示す刺繍は検査時に分かりやすくするため、ビビッドな色を使っています。Mサイズがピンクで、Lサイズがパープルの刺繍ですね。
──体の位置を示す刺繍は具体的にどのように活用されるのですか?
京森
うつ伏せの際にバストトップが検査の適正位置にあるかを技師さんが背中側から確認するための目安として使われます。
中尾
このアイディアは今回の取り組みの最初に高原先生(ドゥイブス・サーチ代表医師)からいただいたんです。『今検査をするときに、ここが困っている』というのがヒントになっています。
京森
先生がこの検査を開発されたので検査について知り尽くしていて、とてもたくさんのアイディアをいただきました。そのような過程もユニフォームのデザインとは少し違ったものづくりだったな、と思います。
──様々な体型の方が着用されると思うのですが、刺繍の位置はずれたりしないのですか?
中尾
私たちも初めはその懸念がありました。だからこそ、1stサンプルを実際の検査で使ってもらい、いただいたフィードバックから慎重に調整していきました。他の検査着にはない特徴なので、この部分は京森さんも青柳さんも特に神経を使ったんじゃないかな。
──パンツについても教えてください。
青柳
1番の特徴はウエストを調整する紐を、うつ伏せになった時に邪魔にならないように脇から出すようにしたことです。このアイディアも高原先生からいただきました。
それとどんなサイズの方でもしっかりお腹をホールドできるように股上を深めに設定しています。検査で寝ている時間が長いので窮屈にならないような寸法で作ってますね。サイジングは色々な方に試してもらい、高原先生にも上下あわせて着用いただき男性でも問題ないか検証しました。
あとは、検査台に上がるのにステップがあるので裾丈を短めにしてスリットを入れ、足さばきの邪魔にならないようにしました。
さまざまな体型に対応する工夫
──今回ユニセックスでM、Lの2サイズ展開とのことで、サイジングが大変そうですね。
青柳
はい、サイズ設定は難しかったです。Mサイズとはいえ、通常よりかなり広いので、小さすぎず大きすぎないバランスを探って、ドゥイブス・サーチさんとも何度もやりとりさせていただき、ここに着地しました。
あと検査で腕を上げるので、その姿勢が取りやすいように袖の付け方とサイズ感も工夫しました。肩の切り替えラインも、うつ伏せになった時に機材と身体の間に縫い目が当たることによる不快感を避けるため、位置を検証し、設定しています。
──なぜ2サイズ展開になったのでしょうか?
青柳
3サイズにする案もあったのですが、運用のしやすさを考慮した結果、2サイズになりました。Lサイズは180cmくらいの男性でも着られるサイズですが、男女どちらの方にも着ていただける目線を持って作っています。
目指したのは不安を和らげる服作り
京森
今回、初めての取り組みだったので、最初にクラシコらしい検査着とはなんだろうと3人でたくさん話し合いました。とても楽しい会でしたね。
中尾
あれはとてもよかったよね。
ドゥイブス・サーチのスタッフのお知り合いの方にも、乳がんを経験されている方が多くいたり、だからこそ思い入れもとても強くて、一緒に共創していけた実感がありました。
ファンミーティングで皆さんの体験談を聞いて、検査前の不安やストレスがとても大きいことを改めて感じました。その心理的なマイナス面を、この検査着を着た瞬間の温かみで包み込みたい、そこを1番大切にしたいということは3人で話したことです。
──私も乳がん検査を行った経験があるので、不安だった気持ちにとても共感できます。マンモグラフィーの検査は痛すぎたので、2度目の検査は別の方法を、と探していた時にネットで偶然ドゥイブス・サーチを見つけて受診しました。検査着はもっと温かかったり質の良いものがいいな、と思いましたが検査は痛みが全くなく、次回もお金を貯めてこれを受けようと思っています。
青柳
ファンミーティングでも、毎月2,000円づつ積み立てているという方がいらっしゃいましたよ。
それと『大切な女性に検査を贈る』という文化を広めたい、と活動されている男性の方も参加していました。母の日に贈るなどの事例も紹介していただき、私も大切な人に贈りたいなと思いました。
中尾
年々、認知度は広がっているようで、自治体によってはふるさと納税になっていますよね。
「心を包み込む検査着」—プロジェクトに込めた想い
──改めて、今回のプロジェクトを通して感じたことを聞かせてください。
中尾
今回、お話をいただいた時から、沢山の人に届けたいという一心で取り組んできました。そして私たちが検査着を作る時に1番大切にしたのは着る人に焦点を置き、それを絶対にぶらさないということです。この検診と検査着を通して不安が和らぎ、乳がん検診のハードルが下がるような方が増えるといいな、と思います。
京森
痛くないこの検査がもっと身近なものになって欲しいと思います。それと、工業製品として世の中で多く使われる衣服に使う人の目線が漏れてしまうのは、ずっと気になっていたことでした。使う人の精神面を少しでも和らげるプロダクトを作りたいという思いで、ここまで形にできたので、この思いが伝わることを願っています。
青柳
とても多くの人の気持ちがこもった企画だと思います。私たちだけでなく、高原先生を始め、ファンミーティングの参加者の方々、試作にフィードバックをしていただいた方々、みんなの思いが乗っているので、それを届けたいと思いました。
私たちが扱っているものは、たかだか服なのですが、着心地を感じたり美しいと思う気持ちなど、誰もが根底に持っている温かい感情を引き出すことができると思っています。この柔らかい気持ちが、これからもたくさんどこかの誰かに届いていって欲しいです。
今回の記事はいかがだったでしょうか。インタビュー内でも挙がった患者衣lifteについての記事も掲載しています。
ぜひ、こちらの記事を通してクラシコの商品開発に触れてみてください。