CBX-セクション3(詳細版): 技術的特徴
ホンダCBX:並列6気筒が刻んだ伝説 – その技術的特異点
前項では、CBXの誕生と進化、そしてその時代背景を振り返りながら、その革新性を解説しました。本稿では、CBXを唯一無二の存在たらしめた、具体的な技術的特徴に深く迫ります。エンジニアリングの観点から、空冷並列6気筒エンジンを中心に、当時の技術水準を大きく引き上げたCBXの特異性を、細部まで掘り下げて解説していきます。
1. エンジン:空冷並列6気筒が生む滑らかなパワーフィール
CBXの核とも言えるのが、空冷4ストロークDOHC24バルブ並列6気筒エンジン(1,047cc)です。このエンジンは、当時としてはオートバイ界において革新的で、驚異的な性能を誇っていました。その最大の魅力は、スペック以上の「フィーリング」にあります。
圧倒的なスペックと滑らかな回転フィール
CBXのエンジンは、最高出力105ps/9,000rpm、最大トルク8.6kg-m/8,000rpmを発揮。当時としては破格の高出力を誇りつつ、エンジン回転の滑らかさが比類なきものでした。この特性を支えたのが、綿密に設計されたクランクシャフト、ピストン、コンロッドのバランス取りと、高精度な加工技術です。これらが、並列6気筒特有の1次バランスの完璧さと相まって、低回転域から高回転域までスムーズでシルキーな回転フィールを実現していました。
ハイボチェーン駆動による幅の最小化
CBXのエンジンは、ハイボチェーン(サイレントチェーン)を用いた1次減速機構を採用。この機構は、クランクシャフトからトランスミッションに動力を伝える際、エンジンの横幅を縮小する役割を果たしました。6気筒エンジンでありながら、車体全体のスリムさを確保するための鍵となった設計でした。
フリクションロスの極限低減
ホンダは、CBXのエンジンにおけるフリクションロスを最小限に抑えるため、各部に高度な表面処理を施しました。特に、クランクシャフトのジャーナル部やピストンリングには低摩擦コーティングが施され、これが燃費性能と耐久性の向上にも寄与しています。また、シリンダーヘッドの燃焼室形状や吸排気ポートの設計も徹底的にチューニングされ、効率的な燃焼を可能にしていました。
6気筒ならではの音の芸術
CBXがライダーを虜にした要素の一つに、その排気音があります。並列6気筒エンジン特有の高周波な排気音は、「モーターサイクルのオーケストラ」とも称されました。吸気から排気に至るまでの息継ぎのない音の流れは、官能的であり、エンジンの性能を感じさせるとともに、バイクそのものの存在感を一層際立たせました。
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