セクション1(詳細版):V型4気筒エンジンの黎明
ホンダV4、その挑戦の軌跡
ホンダのV型4気筒エンジン。その物語は単なる技術の進歩を語るものではありません。これは、革新への果てなき情熱、そして挑戦の連続が織りなす壮大なストーリーです。その舞台となったのは、レースという極限の場でした。ここで培われた技術は、やがて市販車へと反映され、私たちの手に届く形で結実していきます。このドラマの起源を遡ると、1970年代後半から1980年代初頭にかけて、グランプリレースという厳しい競技の中で生まれた革新的な挑戦、「NR500」という異端のエンジンの存在を欠かすことはできません。
直列4気筒の支配とV型への挑戦 - レイアウトが語る物語
1970年代から1980年代初頭にかけて、二輪車の世界では「直列4気筒エンジン」が黄金時代を迎えていました。その設計はシンプルで、生産コストを抑えやすく、高回転域での出力特性も優れており、当時の主流となるには十分な理由がありました。特に、ホンダの「CB750フォア」を筆頭に、直列4気筒エンジンを搭載したモデルは、性能と価格のバランスが取れた理想的なマシンとして、多くのライダーに支持されていたのです。
しかし、その普及の一方で、直列4気筒には構造的な課題が潜んでいました。まず、シリンダーを一列に並べるというレイアウトは、どうしてもエンジン幅を広げてしまいます。この「横幅の増加」は、スリムさが求められるバイクのデザインにおいて制約となり、特にスポーツバイクやレーサーにとってはマイナス要素となり得ました。また、エンジン幅が広がることで、車体のバランスや操作性にも影響を与えます。
さらに、高回転での振動も大きな課題でした。直列4気筒は、高出力を発揮できる一方で、シリンダーが一直線に並んでいるため、動作時の振動がエンジン全体に伝わりやすくなるのです。特に、レーシングシーンなどで求められる超高回転域では、この振動がライダーの快適性やエンジン耐久性を損なう要因となりました。そして、重心位置が高くなりがちな直列4気筒は、車体の「マス集中化」を難しくし、ハンドリング性能の向上を妨げる要因ともなりました。
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