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南へ向かう道
【記録◆2024年6月4日】①
『川上村』に立ち寄ると、最初の店も、次の店も、「臨時休業」でした。
南へ向かう道が、春から通行止めになっているためでしょうか。
先月、『大台ヶ原』へ行く途中で車を止められ、「通り抜けできません。どちらまで行かれますか?」と訊かれ、「大台ヶ原なら、大丈夫です」と、教えていただいたのでした。
その先へ行けないのなら、『前鬼川』にも『不動七重の瀧』にも、いまは行けないのでしょう。
それらの手前の『深瀬瀧』には、行ったことがありません。
そこで折り返すつもりでしたが、
「行ける所まで行って引き返す」と、予定を変えました。
『深瀬瀧』の手前の『黒瀬瀧』までは、行けるかもしれません。
『黒瀬瀧』にも、行ったことはありませんでした。
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走る車から、『西河(にじっこう)の瀧』が見えました。
二条になっています。左に水が流れ落ちているのを見たのは、ずっと前。
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「物流水路にするためノミと槌で岩を削った跡」には、目が行きません。
同じ光景をいつか、また見られるでしょうか。この先にも二条の流れを。
先月と同じように車を止められ、「次の『道の駅』までは行けますか」と尋ねたら、「そこまでなら大丈夫です」と、笑顔も返ってきました。
『黒瀬瀧』までは行ける、と判ったのです。
『道の駅 吉野路上北山』の手前ですから。
『上北山村』に入ると、たくさんの子猿たちが前方を横切りました。
待っていると、30匹ほどの群れが、国道を渡っていくのでした。
前は、『千尋の瀧』近くの国道で、ニホンカモシカと目が合っています。
「道の駅」を越えて進むと、『白川又川』と『北山川』が合流する手前で「通行止め」になっていました。『深瀬瀧』には行けません。
引き返して、『黒瀬瀧』へ向かいました。
◇黒瀬瀧◇
通ってくるとき、「この路肩に止められるのだろうか」と感じましたが、反対側は少し広くなっていたので、軽自動車なら大丈夫。後ろから来る車はごく少ないはず。いまは通行止めになっているので。
「200メートル北へ進むと車を止められる」と看板に書いてあったけれど、車椅子ユーザーだから、舗装路を二本杖で歩くのは、2メートルでも苦行。
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では、この、「急な鉄階段」を上がるのは修行?
障害認定を受けたとき、「あなたの身体は座ることでは休めないのです」と教えられたのですが、一昨日に長い文章を書くため座り続けたら、昨日は家の中でも移動が困難になりました。両脚に体重が載せられなくて。
そういうときには、樹上生活をする動物のように、枝から枝を(家具から壁を、柱から家電を)腕の力で渡ります。
一夜明けると、左脚には体重が載りました。
二本杖が「前脚」になるので、後ろ脚は左だけで充分。
けれども、この階段は、手すりを使ったほうが安全でしょう。
上のほうの段は土をかぶっていて、落ち葉が厚く積もっています。
「濡れた落ち葉」を踏むときには、滑らないよう慎重に足を置くのですが、乾いた落ち葉も、ここまで厚く積もると滑ります。
古い手袋をはめて、しっかりと手すりをつかみました。
右脚が利かないので、左脚だけで一段ずつ上がります。
ようやく上がり切ると、そこから先は、足をかけられそうな所がほとんど見当たりません。
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『御杖不動の瀧』でも、前年に躊躇なく上がれた斜面が様子を変えたように感じられ、進むのを止めています。豪雨が道の状態を変えるのでしょう。
進む先を見上げて、「わたしの脚では登れない」と、判断をしました。
(登山経験はありません。滝につながる登山道を少し進む時があるだけ。)
でも、「谷側」に鎖が渡されています。
場所によっては、「山側」にも鎖が。
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腕も肩も背中も、60歳のときより力が強くなっています。
「進行していく身体障害」を補うために。
ここ数年、年1回しか体重を量っていないけれど、常に数値は同じ。
鎖に過度な重さをかけることにはならないでしょう。
軽登山級の道なのかもしれません。
「体重を載せられない右脚」を使わずに済むよう、身体の使い方を考えつつ進んでみました。
特に歩きづらい所は、谷側に鎖があるだけではなく、山側に太いロープが渡されていました。高所から谷を見たくないので、山側に身を寄せます。
よじ登っていくときには、「戻るとき下りられるだろうか」と考えます。
どこの斜面でも、そう考えた瞬間には毎回、下りられる気がしません。
けれども、「踊れるはずがない」と告げられた後も踊り続けられたのは、脳と身体に任せておくと、使える所を使って必要な動きができたから。
「下りよう」としたら、きっと、総合力で国道まで辿り着けるはず。
手袋をはめたのは、地を這うことになっても「吸血被害」は防ぐため。
(どこからも入り込まれないよう、常に対策はしています。)
頭をぶつけそうな所は無いので、二度と目を上げませんでした。
進む先を見てしまったら、そこから動けなくなると分かって……。
「次に足を置く所」だけに視点を定めます。
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上り坂の果てまで進むと、『黒瀬瀧』の下半分が見えました。
ここまでで充分。
「ここから写真を撮って、引き返そう」と決めたのですが、撮り終えると、「ここから下りられたら、滝全体が見えるはず」と、心が動くのでした。
立っているだけでも怖くなってくる場所で、判断するために足を止め、「あと少しだから。次は無いから」と考え、「下りよう」と決めました。
大きな手術が必要と告げられているのは、最少でも3ヶ所。
「薬剤によって命を失う難病」を持つため、一昨年には、「病院へ行ったら年末までの命だろう」と推測して、昨年には、「治療を受けていないから、今年の年末まで生きられるかもしれない」と考え、生前整理を進めました。
気がつくと、深刻な病状が現れてから2年も過ぎています。
「なぜ生きていられるのか解らない」とは、おもわなくなりました。
「なぜ弱っていかないのか」と、しばしば自問はするのです。
(これまで、わたしに分からないことが分かる医師はいませんでした。)
新月のたび、願い事を書きます。「この世に在る間ずっと元気に動けて、頭もよく動いて、生き生きと暮らせる」と。
いまも装具を着けて動き、補助具を使って長い文章が書けています。
海外の先住民の長老が、『きれいな水に触れられる所へ行くことで、その地にいる龍を取り入れることができます』と語っていました。
水辺で舞う微生物群が、この身を生かしてくれているのかもしれません。
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カメラを向けると、たちまちレンズに水滴が。
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正午だったので、東向きの瀧の正面に陽が当たることはなく、水の流れはきれいに見え、真上からの光が木洩れ日となって差していました。
訪瀑がいまになったのは、水量の少ない滝だという情報があったため。
しかし、梅雨入り前なのに水は枯れていませんでした。
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流れの中央に平たい岩があると気づき、そこへ移りました。
見える角度が変わります。
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写真は撮れなかったのですが、瀧を見上げながら下流へ頭を巡らせると、前方へ向かう「滝風」が見えました。
微細な水の粒が、幅広い紗の幕となって、空中を移動していたのです。
それは、「地の流れ」と並んで谷を渡り、ゆったりと『北山川』へ向かう「天の流れ」でした。
木漏れ日が『黒瀬瀧』を輝かせると、虹が現れるようにも感じました。
滝風が創る薄い幕にも、たくさんの虹があったのかもしれません……。
振り返り、振り返り、来た道を戻りました。
この瀧を目で見られるのは、これが最後だろうから。
「下りられる気がしない」と考えた道も、おもったより楽に下れました。
前へ進めない所は横向きで。あるいは後ろ向きで。
階段の最後の一段まで、気を抜きません。
進むことも戻ることも放棄したくなるような道があります。
でも、放棄しませんでした。行くときも帰るときも。