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嬉しくなる映画

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さいきんみた映画、何かの折りに思い出した映画のレビュー。
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2015年6月の記事一覧

すがすがしすぎる力技と不誠実――『アナと雪の女王』

2014年6月3日  先日、ディズニー映画最新作『アナと雪の女王』を娘といっしょに見た。日本では『ポニョ』以来の動員数だそうで、確かに近所の子どもたちも幼稚園の同級生もみんな見ててみんなあの歌歌ってて、娘もすでに2度目の観賞。とにかくものすごい話題になってて『ドラゴンボール』見逃すと木曜の朝仲間ハズ レ、 ワールドカップ盛り上がらないと非国民、みたいな雰囲気。  さて、実際見てどうだったかというと、やはり ”歌” だった、歌がすごい。あと雪。  話題の「Let It G

「スターシップ・トゥルーパーズ」イヤー は、こない。

 2015年11月、PS4・Xbox One・PC向けソフト「Star Wars バトルフロント」発売。そして12月、「スター・ウォーズ ep7 フォースの覚醒」劇場公開。いまさらながら、すっかり「スター・ウォーズ」イヤーだ。映画はもちろん楽しみだけれど、それ以上に「バトルフロント」公式サイトのゲームプレイトレーラーを見て胸と目頭が熱くなった。約10年前、暇な大学生の自分にこれが与えられていたら間違いなく没頭しただろう、と。まだいまの時点では冷静でいられるが、発売が近づいてき

“ 終わること ” と向き合う誠意の直線――『アメリカン・スナイパー』(クリント・イーストウッド)

2015年4月 ■ 夕日、草原、キャスパー、紙幣  私の人生初のクリント・イーストウッド体験は、小学生の頃に見た『パーフェクト・ワールド』(1993)だった。舞台は1960年代テキサス、脱 獄犯と彼に誘拐された少年のロードムーヴィー。路傍でのいくつかの出逢いと別れ、サスペンスとコメディ、やがて二人の間に芽生え始める感情、それぞれのト ラウマと願望、期間限定の父子関係、悪者の知性とヒューマニズム、二人を追う老練な刑事の葛藤。そして舞台に転がる無数の可能性のなかから、たったひ

「まずは粉を練るんだ!」とジャムおじさんは言った。

2015年2月  子どもと楽しさを共有できるたくさんの作品のなかで、『アンパンマン』ほどシンプルかつ本気で誠実なものを私はあまり知らない。  頭部が交換可能なアンパンでできたヒーロー、アンパンマン誕生の背景にやなせたかしの従軍経験があるのは有名な話だ。戦場で「正義」という言葉のキナ臭さ と飢え苦しむ人々の実態を思い知った彼は、強い力で敵を倒すだけのヒーローに、そしてそれが「正義」として描かれることに違和感を覚えた。その後 “ 売れない作家 ” として長らく不遇の時代を送る

「君の様子がおかしかったから、後をつけたんだ」とドラえもんは言った。

2015年1月  このところ、子どもといっしょにドラえもん映画をたくさん見ているのだが、新劇場版にはやっぱりいまだに馴染めない。どうしたって1980年代作品がすばらしすぎていちいち比べてしまって、あれらのおかげで世界の不思議に目覚めた少年時代を思い出す。VHSの磁気テープが擦り切れるほど「ドラえもん」を見まくったあの頃。  思い入れが深いだけに、2005年の全面リニューアルにはかなりの衝撃を受けたものだった。ハイビジョン制作への移行、声優陣と製作陣の一新、キャラクターデザ

男はもう時計を売るのをやめた――台湾映画について 02

2014年10月  ツァイ・ミンリャンはデビュー作『青春神話』(1992)から引退作『郊遊(ピクニック)』(2014)まで、すべての作品でリー・カンションを主演に起用し続けた。トリュフォーにとってのジャン・ピエール・レオ、コクトーにとってのジャン・マレーが想起されるが、それ以上の存在といってよいと思う。リー・カンションはツァイ・ミンリャンの分身でも詩神でもなく、映画をつくる動機そのものであり、映画をつくる唯一の具体的手段でもあったのだから。この21年間スクリーンに映じた無数

あなたが描く〝孤独〟は映画館で見るのでないと嫌だ――台湾映画について 01

2014年10月  ツァイ・ミンリャンが「長編映画製作から引退」し、「活動の場を美術館や舞台に移す」らしいと聞いた時、「〝私の台湾映画史〟が終わった」と思った。より正確には、ツァイ・ミンリャンの「引退作」である『郊遊(ピクニック)』(2014)のラストカットで、薄暗い廃墟の一室からリー・カンションが立ち去った瞬間にそれは本当に完全に幕を閉じた。いつもと同じ無音のエンドロールを憤然と睨みつけながら、「終わった」と何度も心のなかで呟いていた。  いきなり誤解の種をばら撒きまく

動き方としゃべり方がぜんぜんわからなくなる――『地面と床』(チェルフィッチュ)

2013年12月  古井由吉、蓮實重彦、磯崎憲一郎、岡田利規、筒井康隆。表紙に並んだ名前に胸が熱くなり、いつにもまして素晴らしい色合いの表紙にも惹かれ、 ほとんど涙ぐみながら文芸誌『新潮』 1月号を書店で手にとりました。岡田利規の新作戯曲「地面と床」を読み終えるなり上演をどうしても見たくなって立ち読みを中断、その場で、一 緒に見に行く流れになればよいなという思春期めいた心づもりで「岡田利規の新作読んだ?」と友人にメールしたところ、「上演を見に行くのでその前後に読もうと思って