「学ぶ者」を殺し、「読む者」で身内を満たして本を開く――ジャック・ロンドン「火を熾す」
*マガジン「読み返したくなる短篇小説」バックナンバー
『柴田元幸翻訳叢書 火を熾す』(2008年、スイッチ・パブリッシング)。我が家の本棚の中でもっとも〝読み返し率〟の高い一冊かもしれないこの本には、ジャック・ロンドンの短篇小説が9本収められている。
いずれの物語もきわめてシンプルである。たとえば、吐いたツバが空中で凍る極寒の地。運悪く足を濡らしてしまった男が独り、刻一刻と麻痺していく手で火を熾そうとし、生死を分かつその難事を犬がただ見ている。あるいは、もはや家族に食