香港に行ったこと 5
香港科技大学を出た私たちは、街から更に離れて西貢(Sai Kung)へ向かった。こまごまとした小さな建物と緑が通り過ぎていく。中心地のアーバンさとは程遠い、昔から残っている村の景観。私のイメージになかったのどかな香港だ。
西貢は、自然豊かな海沿いの観光地。香港とは経済重視でなにもかもがハイスピードというイメージだったが、そういうのはここにない。ゆったりとした流れを感じる。海沿いの地域に一貫してあるその感じは、香港にもあるんだ…と、面白くなった。
細い路地に小さな店がひしめいている。白タイルに蛍光灯の明かりがついたような飯屋もあれば、今風な店、スイーツ店もあり、歩いているだけで楽しい。その中で、牛のアイコンが看板の小さな店に入店。注文は紙に記入するタイプ。
友達が注文した一つにスープ料理があった。名前はわからないが、ボルシチがロシア→上海→広東のルートで伝わったもので、こちらではビーツの代わりにトマトを使っている。一口頂いたが野菜の味がしっかりしていて美味しい。
私は、ライスにスクランブルエッグとトリュフがトッピングされた料理を選ぶ。ご飯を少なめに注文したはずだが、お腹いっぱいになってきてもご飯がまだまだあった。これまで行った店では感じなかったが、香港の店はどこも量が多い。そういうものらしい。
「だから無理に全部食べなくても大丈夫」
そう言われるも、フードロスへの後ろめたさからできる限り食べてみた。それでも残してしまったが。
しかしスイーツへの欲求は別途あり、散歩しながら甘いものを探す。というか暑いからとにかく冷たくて甘いものがほしい。
E君とH君は、フルーツとかお茶とかのジュースの店で飲み物を買っていた。2人が持っている飲み物の容器がやはり大きく、本当になんでもビッグサイズなんだなあと思った。こういう店にはミルクティーベースとか果物ベースでラインナップが展開されているけど、なんとヤクルトベースの商品もあった。「多多」というらしい。ヤクルトマンゴーとかヤクルトグリーンティとか興味深かった。買わなかったけど…
Mさんが見つけたヨーグルトスイーツの店に入店。私も食べることにした。どこよりも小さなその店はめちゃくちゃ繁盛していて、2-3帖ぐらいの空間の中で蛇行した列を作っていた。ヨーグルトのソフトクリームにトッピングを3つまで頼めるシステムで、並んでいる間に大いに悩んでMさんに注文してもらった。
座って食べる場所を探しているうちにアイスは溶け出したが、美味い。トッピングの中にマンゴーがあり、私は実はマンゴーは特別好きではなく普段なら除外してしまうのだが、この暑い気候と、「香港といえばマンゴースイーツ」というイメージに信頼と期待を委ね、自然にチョイスしていた。爽やかなアイスを食べるために、この暑さは最高の環境だった。
海沿いでは、路上でギターを持って歌う人がいたり、観光客の賑わいでひと気がしっかりあるものの、やはり穏やかなムードがあって気持ちがいい。最近はこの西貢の海でクジラが発見され、その珍しさに毎日のように観光客が見物に行っているようだった。
(ところが数日後、クジラは亡くなってしまった。帰国したあとにそのニュースを知った…)
H君の嗅覚・感覚によれば、このあと再び雨が降るかもしれないとのことで、再び街に戻ってショッピングモールに入ることにした。私には雨の匂いはまったくわからない…
啓徳空港跡地
走行していると、広範囲に渡ってなにやら高いビルをジャンジャン建設している様子が見えた。なんとここは25年前まであった啓徳空港の跡地で、そこを再開発している様子だった。むしろ空港の跡地が25年近くしばらく手付かずで今なお開発中であることに驚く。
旺角(Mong Kok)へ向かう数十分であっという間に大都会の景色に突入した。しかしながら、車利用のために駐車場も利用するし、高速も走るし、公共交通機関を使わないとはいえお金も結構かかっているだろう…
「高速道路はいくらぐらいするの?」
「高速は料金がかからない」
「タダなの!?」
全てそうではないかもしれないが、無料らしい。
休日のショッピングモール
旺角(Mong Kok)のショッピングモールへ。地下駐車場は満車状態で、地下何階までくだったか覚えていないが、とにかく3階も4階も下に降りてようやく空いたところを見つけた気がする。
「土日の駐車場がいっぱいなのはよくある光景だけど、東京はどう?」
「東京か…東京で車に乗らないからわかんないなあ…」
ちょうど香港のクリエイターのハンドメイドグッズ販売のイベントがあり、小さな屋台のように雑貨が並んでいた。その中に、香港在住の日本のイラストレーターの方の出店があった。香港の街や店に猫を登場させるイラストで、ポストカードを眺めるとその一つに、啓徳空港時代を思わせる、飛行機が街の近くを飛ぶ様子が描かれた作品があった。ほかの店でポストカードを見ても、そういう光景のものがあった。やっぱり啓徳空港の景色は香港ではかなり象徴的な存在だったんだなと思い、実際に見たこともないのに、思い出としてそれを買った。
小籠包の美味しい店でディナー。これまで香港料理で辛いものは見なかったが、この坦々麺は鬼のように辛かった。小籠包はもちろん美味しいし、ほかにピータンやきゅうりの酢漬けなど、知っている素材なのに調理法や味が違っていて、実に面白い。
特にこのきゅうり…皮だけくるくるに巻いているのは初めて見た。料理のクリエイティビティがとにかくすごいなと思う。
私は、ランチに頑張ってたくさん食べたライスとスイーツが消化しきれておらず、この大御馳走を全種類味わえなかった。悔しい。
反省会
帰り道も車で宿まで送ってもらえた…なんて至れり尽くせりなんだろう。
こんな暑いなかいろんなスポットへ走りまわって一日中遊んでくれて、色々とご馳走にもなり、感謝の言葉を述べるが、とても言い尽くせない。特にH君は、私との共通言語は英語のみで、私の少ない英語の語彙では会話できた量も数え切れるほどしかなく、もっとコミュニケーションできたらと思った。完全に運転係としてわざわざ車を出してもらった感じがして、一番どうにかなにかで恩を返せないだろうかと思うものだった。
でも、Mさんは言う。─ H君と私たちは長い仲だから、大丈夫。私たちもそうだけど、H君も世界中いろんな国を旅してきて、たくさんいろんな人に良くしてもらった。良くしてもらったことは、また別の人に良くすることで、循環させればいい。それに、大学や西貢に行ったのも2〜3年ぶりだった。クララちゃんがいなければ行くことはなかったと思うから、久しぶりに行けてよかった。…と。
彼らの具体的な行動による優しさや、歓迎する気持ちを、私はたくさん受け取っていた。
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