入院記 DAY 4
4時、7時、8時と寝たり起きたりしたけど23時には寝たから睡眠時間は長い。また色んな夢を見た。
8:30になっても寝続けていた私に「眠いですか?」と看護師。
「断続的に寝たりして、そんなに深くない眠りなんで、眠いですね。日中も気持ちよくて寝ちゃいます」
「そうですよね、日中もお散歩とかしてみてくださいね〜」
そうしてみようかな。さすがに。
8:30 医師群がやってきて調子を聞いてきた。
「痛くないけど伸縮してる感じはあります」
「横になってください、これはどうですか?」
今日来た医師、一本指でズギューンと深くまでお腹を押す。
「ううっ、でもそんなに痛くないです。」
水を飲む許可を得た!進歩!!
10:30 さて、景色の見える食堂でお湯解禁!このタイミングで富士山が数日ぶりに見えた。ちょうど真っ白な雲が裾にかぶっていて、突き出た山頂は真っ白だし、きょうの富士は白熊みたいなモコモコした装いだ。
普段、湯水のようにお茶やココアを摂取していたが、この眺望を眺めながら飲む数日ぶりの白湯は、プラスチックの容器の匂いはせど、カフェで運ばれてきた茶のようなありがたみがある。
ラジオ『生活は踊る』を聴く。スーさんが番組はじまりに読み上げる、「病気、療養、子育て、介護の皆皆様、」の「病気、療養」に自分が該当して聞く日。
13:00 相部屋のAさんとBさんがはじめて挨拶して会話しているのを聞いた。コロ対策なのか元々なのかわからないが、相部屋は基本的にそれぞれの病床をカーテンで閉め切り、ほとんどコミュニケーションをとらない。お二人ともこの病院は長く、入退院を繰り返したり、聞くに大変だ…盗み聴きだが…
大腸を長く患う人は、元々グルメで、食べに行くのが好きで、従来のグルメメイトとも会う楽しみがなくなってしまったとか、結局健康な人からは理解がなかなかされず、病気のことを話せる病気の人と話が合うようになったとか、色々だ。
13:30 散歩。1階に降りてみた。食べ物のとても良い匂いがする…色々な人が行き交う。医師も一般の人も自由に利用してて良いな。1階の食堂の方がほかのレストランより安い。別の階をふらつき、お茶を買うことを思いついて、コンビニでとうもろこし茶を買った。廊下の奥まで行くと、柱の隅で、コンビニのパスタと思われるものを食べる従業員がいた。ほかの人の目に入らぬよう、自分の時間を確保するよう、なるべく存在感を消そうとしている。屋上庭園も歩いてみたいものだが、今日は出ても寒いだけだと思い、やめておいた。
11階に戻り、北の山々を眺める。見えてる山の名前が知りたい。男体山や、八海山まで見えたりするものだろうか!?
→八海山は見えない
15-16時 抗生剤などの取り付け
看護師から「今晩にはいつも飲んでるお薬も飲めそうですけど」と言われた。そう、普段の服用薬を没収されていたが、解禁を提案されたのだ。「今のところ服用しなくても大丈夫な気がして、ちょっと飲まないでいてみます」と宣言。「飲まなきゃいけないお薬でもないので、医師にもそう伝えますね」と。そう本来飲まなくてもいいのだ。下界ではどうしてか、服用してないとなんだかソワソワする。もちろん調子が変だったら、また服用してみる。
今日の富士山は、時間とともに変わる光や色の中で、ずっと見ていたい。看護師も医師も、色んな人がきれいだと言ってた。曇が多いのに、しっかりと夕焼けが見える。清掃の人も足を止めて見入り、「きれいね富士山」と声をかけられる。きれいですよね。本当に誰とも話さないから、こういうちょっとしたコミュニケーションが超嬉しい。今日の夕焼けが一番きれいだった。
イラストレーターの友人Bがインスタのストーリーに投稿していた、イラストを描く工程の動画。被写体にテープを貼って保護し、その上から背景を塗ってテープを剥がす手法。見てて気持ちがよくて感想をコメントしたら、「クララゴンが退屈してないかなーと思って載せたんで、狙い通り!」と来た。まさか自分が動機になっているとは思わず、嬉しかった。特定の人に向けて発したものや作ったものは、あらゆる人の心に響く、みたいな説を見聞きしたことがあるが、これもそのひとつではないかと思う。私のような状況じゃない人が見ても、見入ってしまうものではないか。
18時には洗濯乾燥終える。
とうもろこしのひげ茶をコップに注いで飲んでみる。香りのあるものが久しぶりで、口や鼻に、ふんわー!と広がる。感覚に触れてこなかった分、鮮烈だ。
20:00 Pさんという、上野樹里みたいな話し声の看護師が、私の点滴の針を刺してるあたりが痛くないか気にかけて、取り替えを提案してくれた。点滴を入れるのは痛いから入れ直しは抵抗あったが、しかし点滴を刺している左腕の針周辺は赤くなっていた。
ナントカさんという爺さんが、でかい声で電話の相手に「あれを探して持ってきてくれよ!」と怒鳴って嫌な感じの中、Pさんが道具一式持って、点滴の儀を仕切り直してくれた。今度は、本来希望してた、利き腕ではない右腕に。
「点滴の針入れるときが一番痛かったです」
「針が太いんで、どうしても痛みはあると思いますね」
「あ、そういうもんなんですね」
知ると安心した。そして今まで、私の腕は血管が浮きがちで、針を刺しやすいものだと思っていたが、Pさんが見たところ血管が細いとのこと。それで初回の点滴は新人と思われる看護師が苦戦していたのか。
固唾を飲んで血管を定めるPさん、きっと難しいことなのに積極的に提案してくれたことに、看護師としての強い姿勢を感じた。「チクッとしまーす」たしかにチクッチクッと、針が長く入っていく感覚があった。
「完了です」
「もう終わりですか?はじめのときより痛くなかったです…」
すばらしい腕前。安心のクオリティだ…これで利き腕の左が使える…Pさんありがとう。
未だ電話先に怒鳴る爺さんに、看護師が「○○さん!電話はこっちでして!うるさいよ!シッ!」と注意する声が廊下から聞こえた。たぶんPさんだ。強いなあ。安心するなあ。
そのあとも爺さんはずっと探し物を求め、家族に捜索を要求するのだった。どうやらさっきは息子と話していた様子。受話器から女房らしき人の声が聞こえたけど「なに!?ないよそんなの!えぇ!?」と強そうに答えてて安心した。