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香港に行ったこと 7

4日目夕方、中環(Central)で友達Mさんと会う。3日連続で会ってくれて本当にありがたい…昨日も一日中遊んだのに。


漢方茶

駅の地下に漢方茶の店がある。私がずっと「漢方茶が気になる」と言っていたから、一緒に品を眺めた。

香港の街では昔からありそうな漢方の店をよく見かけるが、スタイルはそれだけに留まらない。駅前でもカジュアルに漢方茶を販売している専門店があったり、ベーカリーのレジ横にもジュースのような感覚でペットボトル製品が置いてあったり、ショッピングモールの中にも専門店がある。香港の人にとって漢方は、日本よりも身近であることがわかった。
Mさんは棚にたくさん陳列されたお茶の中から「これは喉を潤す、これは消化を助ける、これはコロナが流行ってから買う人が増えた咳止めの効果があるもの…」など説明してくれた。

「すごい詳しいね。パッと見て効果までわかるなんて」
「パッケージに書いてありますよ」
「ああそっか(笑)」

私はパッケージにある陳皮とか檸檬とかのイメージ画ばかり見て、字を解読しようとしなかった。Mさんは漢方に関して熱心で詳しく、パッケージに書いてある以上のことを知っていそうだった。Mさんは温かいペットボトルを(夏でも"温"があるのはさすが)、私は消化を促進する効果のある冷たいペットボトルを選んだ。グァバとなにかのフルーツが使われたもので、無糖だけど飲みやすい。お値段はジュースの何倍もするが、日本にもこういう商品あったら良いのになあと強く思うもののひとつだった。

駅前で買えるんすよ


ベーカリーに並んでいた漢方ドリンク(右)



中環で見た路上の人たち

中環にはショッピングできる大きな建物がたくさんあり、買い物や遊びに出かけるようなところ。東京で言うと、渋谷をもっと歩きやすくした感じだろうか。そんな中心街の沿道に、花見みたいに段ボールやシートを敷いて賑わっている人たちがいる。局所的ではない。路上だったり、長い歩道橋のような道だったり、その人たちの居場所が道という道に続いている。賑わう人々は主にフィリピンから来ているらしい。

香港では家庭内労働者、いわゆる家政婦を雇っている家が日本よりも多く、そのほとんどがフィリピン、インドネシアから来ている人たちだ。彼女たちは基本的に勤め先の家に住み込んでいるが、日曜はほとんどの人が休日のため、ここ中環ではフィリピン人の女性たちが集っている。仕切りを作った段ボールの囲いの中で、友達の家にいるようにただ座っていたり、お菓子を食べたり、箸が転びまくってるのか思うぐらい何に対しても爆笑してるグループもいて、本当に花見スポットのよう。またカラオケをしているグループも。…カラオケ!?私が午前中に街で見かけたポータブルカラオケは、こういうところで活躍していたのか!

※ポータブルカラオケ登場回↓


しかしながら、これがもしも日本・東京だったら…こんな風に路上で集えないだろうと思った。すぐに追いやられてしまいそうだ。でも、香港ではこれもOKとしている。雇う側は、この人たちのおかげで仕事に打ち込んだり自分の時間を作れている。家政婦たちは休日に同郷の人で集まってストレス発散して、次の週もまた頑張って、そうやって暮らしている。ここに来るまでは知る術もなかった香港の風景と、フィリピンの女性の実情を知った。


エッグタルト

セントラルマーケットに入った。かなり今風で最近できたような雰囲気の商業施設だが、元々は市場として使われていた建物らしい。確かに「マーケット」という名前だし、階段など細部を見ると古き良き形をしていて、その名残がわかる。この中で、香港名物のスイーツを味わう。


香港スイーツといえばエッグタルト!テカテカの部分は硬めのプリンを食べているような食感で、想像以上に美味しい。このようなクラシカルなスタイルもあれば、現代版にアレンジされたハイブリットなスタイルもあるらしい。この数日Mさんはいくつかエッグタルトが置いてある店に私を案内してくれたが、夕方以降は売り切れている傾向にあった。なるべく出来立てを提供しているからだろうか?滞在最後の夕方に食べれてよかった。


ドンドン!ドンキ

街を歩き、日本でお馴染みドン・キホーテを見つける!店名は「DON DON! DONKI」なのか?ドンキの店内で延々と流れているテーマソングの冒頭から来ている上機嫌な名前だ。

ドンキが香港に進出したタイミングはコロナ禍で、香港のみなさんが渡航できない中、日本製品を豊富に取り揃えているドンキにかなりの需要があった。Mさんもドンキの進出には喜んでいた。
日本との違いは、特にディスカウントされているわけではないことだった。入店はせず外から見るだけだったが…

黄色い光がドンドンドンキ


ヒルサイドエスカレーター

ドンキの建物から、道は急勾配の登り坂になっている。(↑ドンキの写真右)
坂にはヒルサイドエスカレーターという動く歩道が通っていて、距離がめちゃくちゃ長いのだ。長いし、坂を登るし、その迫力に衝撃を受けた。

『恋する惑星』に出てくるあのエスカレーター

映画にも使われた場所だとMさんが教えてくれた。私はウォンカーワイの作品を帰国後に見たが、確かにこのエスカレーターはよく登場した。エスカレーターを降りても坂道。ここは香港島。坂は山の頂点に向かっている。勾配お構いなしにそびえ立つビル群がもう、香港だ。

坂すぎ


監獄見物…

大館(Tai Kwun)という建物に到着。レストランが入っている商業施設だが、なんとここは監獄・裁判所として使われていた建物だ。無料で入れる博物館になっていて、実際に凶悪犯を収容していた独房も見物でき、そこには囚人の暮らしぶりを再現したシルエットが投影されている。こんな街なかに刑務所があったなんて…

わけありな高い塀


街のネオン、どこへ

昔の香港の写真を見ると、通りの上をネオン看板がびっしりと埋め尽くしている。その光景に憧れるが、台風がよく到来するこの街では看板の落下が危険なためどんどん取り外され、建物から飛び出してる系ネオン看板は随分と少なくなったようだ。

ところがこの大館の一角に、看板を展示しているスペースがあった。看板が密集している光景を今、私はこのように展示でしか見ることはできないがお目にかかれてよかった。あわよくばもっとたくさん集まってもいいと思ったが、光を反射しやすい天井の下に置かれてネオンが生かされている。


あのスターフェリーに乗船

この夏は毎週土日に100万ドルの夜景の中から花火が打ち上げられるとのことで、せっかくだから観に行くことにした。香港島から、あの有名なスターフェリーに乗って九龍半島に渡り、花火を見やすい尖沙咀(Tsim Sha Tsui)へ向かう。

「スターフェリーって観光客が乗るイメージなんけど、Mさんは普段乗るの?」
「乗りますよ、ときどき」
「乗るのかあ。いいな」
「でもコロナが流行ってからは本当に全然乗ってなくて、実は数年ぶりに乗ります」
「ええ。まさに今日ひさしぶりに乗るってこと?」
「そうです」

私の今回の初来港により、香港に住んでいるMさんが、いろいろな場所への再訪を次々に解禁してくれていることが、特別に感じた。

いよいよスターフェリー乗り場へ。大勢の人が並び、観光船らしい風景。あまりにも人が多いものだから皆せかせかしている。私もこの大人数を見て、ギュウギュウになっちゃうんじゃないか?席を選ぶ余地もないんじゃないか?と、その人たちと同じ思いを抱いていた。でもMさんはこの船のキャパを知っているからか、まったく慌てるそぶりもない。その安定した精神の柱が自分の同行者にあることが「大丈夫なんだろうな」という気にさせた。

行列が乗船へ促されたとき、大勢の人は早足で船に向かった。Mさんは「気をつけてね」と安全第一を呼びかけてくれた。あんなに人が多く並んでいたのに、船内に入ると確かに席を選ぶ余地が大いにあった。窓際に座った。

木製の窓枠や全体的にゴツゴツした感じが、船のヴィンテージさを表している。出航し、都会の景色の中で海の上を行く。船内は賑やかだし、建物はたくさん光っているけど、海の上を渡っているというだけで穏やかな気持ちがひとつできる。たった10分ぐらいの乗船だけど、良い時間だった。

観光客が多く利用するこのスターフェリーもコロナ禍で廃業の危機に晒されたそうだが、なんとか生き残った。乗船料は少し高くなったそうだが、元の値段を事前に調べたときは「こんなに安いの!?」と驚いた。


持ち堪えてくれてありがとうスターフェリー



地上から100万ドルの夜景

尖沙咀に到着したことにより、海とともに夜景を眺める。海面にビルの光が色とりどりに映って、それだけでもゴージャスだ。花火の打ち上げに合わせてたくさんの人が来ていた。

20時を前にカウントダウンの数字がビルのひとつに表示され、花火が打ち上がった。"花火大会"とはまた違った規模だけれど、この夏唯一の花火を旅先香港で、しかも最後の夜に見られたことは、なんと良いタイミングだろうか。ショーは10分ぐらいで「わー」「すごい」「きれいー」と言っている間に終わる、ちょうどいいサイズだった。


旅の最後のディナー

ディナーは、私がまだ体験していない茶餐廳(cha chaan tei)。朝から晩まで、香港料理から西洋の料理まで幅広く取り扱っている香港特有のレストランのジャンルのひとつだ。尖沙咀の近くでMさんが案内したかった店は、残念ながらこの日に限って臨時休業…!日曜のディナーはどこの店も混んでいて、選ぶことが難しい。近くでなんとか店を見つけた。

疲労もあってか、なにを食べたいのかわからない感覚になっていた。私は、インスタント麺にトッピングを3種類選べるものにした。スパム、高菜のようななにかを炒めた具材など。旅の初日には絶対選ばないだろうけど、こういうのが沁みる特殊な状況というのはある。

Mさんはほかに、私のために茶餐廳メニューらしいものを注文してくれた。
鴛鴦茶(ゆんよんちゃ)というコーヒーとミルクティをブレンドした飲み物だ!なんでもミックスしちゃって新しいものを生み出すんだなあと香港の食文化の気概みたいなのをここにまで来て知る。

カフェインに過敏な私は少しだけ飲む。コーヒーの味が紅茶より強い。店によってブレンドの割合や味が違うようなので、今後茶餐廳に行く際はフェイバリット鴛鴦茶を探してみるのもいいかもしれない。

カップがかわいい!!!!



楊枝甘露(よんじーがむろ)

私が香港に行くことが決まりMさんと連絡を取り合う中で「本物の楊枝甘露を食べてもらいたい」と、その存在について事前に教えてくれた。楊枝甘露とはマンゴーや小さなタピオカを使ったもので台湾スイーツとしても人気らしいが、発祥は香港の高級料理店の〆のスイーツとして出てきた逸品らしい。ここに来たからには楊枝甘露はぜひ味わいたい!

食後お腹いっぱいになってはいたが「楊枝甘露を食べよう!」と言ってMさんに案内をしてもらった。時刻は21時過ぎ。Mさん明日仕事だろうに、、

港に面した商業施設のフードコートに入り、その中に香港スイーツの店があった。そこは、昨日遊びに行った西貢での開業が始まりで、今では香港以外にも店を展開しているそう。

数ある美味しそうなラインナップの中から私は迷わず楊枝甘露を選び、Mさんは仙草ゼリーを注文。窓際のカウンター席に座ったら、港の景色が見えていた。しかしお話とスイーツに夢中で、景色が今は全然思い出せない。

楊枝甘露!仙草ゼリー!

初めて味わう純粋なマンゴースイーツ:楊枝甘露はソースも実も美味しい…小さいタピオカのほかに、なにかのフルーツの半透明な実があり、このプチプチした食感が絶妙でソースごと次々と口に放り込んでしまう。

旅最後の夜だし、いろいろなことを話す。自分がお伝えしたいことを話す。

「昨日みんなには一日中遊んでもらって本当にもう、ありがとうじゃ伝えきれないよ」

昨日もこんなふうに同じようなことをMさんに話していたのに、目に涙が溜まる。流れ落ちることをグッと堪えながら話す。カウンターの横並びでよかった。一昨日から毎日、Mさんにお礼を言いまくっている。

香港についてもっと話したいこと、聞きたいことがあるはずだけど、なんだろうな〜と思いながら閉店の時間が近づいていた。店の人が「ハイもうじき閉店すよ」と告げに来るとMさんはハイハイと言った感じで返事をし、まだ閉店時間になっていないから居続けた。二度目に店の人がやって来て、空になった容器やトレーを次々に回収し、持ち帰りたいクレカのレシートまで一緒くたにクシャ〜とトレーに載せるものだから、慌てて私が皿のソースにまみれたレシートをつまみ出した。

「すみませんね、こんなにせかせかしてて」とMさんは苦笑するが、それにはこの都市っぽさが滲み出ているような気がして、思い出としてきれいに思った。残るお客を遠慮なく一掃しようとする店の人、粘るお客たちの対比までも愛おしい。私が店員の立場だったら、そんな愛おしき感情も哀愁も汲み取る余裕もなく、自分がいかに早く帰れるかを第一に考えるに違いないが…

Mさんは私を帰りのバス停まで送ってくれた。あまり待たずにバスはやってきた。3日間会ってくれたMさんとも一旦お別れのとき。

「オクトパス(IC)使えるよね!?」
「使える!」
「前の方から乗るの!?」
「前から!」

初めて一人で乗るバスに慌てながら乗り方をにわかに尋ね、慌ただしくも、乗車の直前にしっかり別れを告げた。また香港か、台湾か、東京で!


すごく現実みある真っ白な照明の車内で、私は胸いっぱいになって座席に座った。香港の夜の当たり前の景色が通り過ぎていく。余韻に浸る時間も短く感じるほど宿の近くに到着して、すんなり下車した。雨の夜道もまた良く、なんてことのない道かもしれないがしつこくしつこく写真を撮った。

宿に戻って、忘れたくない今日の出来事をなるべくノートに記していると、いつもの夜更かしになった。

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