受け継がれるもの
三橋の森は2021年で誕生から丸10周年を迎える。
この森がこれから先、どれくらいの歴史を物語るのかは誰にもわからない。ここ数ヶ月であっという間に世界が一変してしまったように、この森のまわりでも今後いろんなことが起こるだろう。ただ、はじめましての10年間はきっと未来の歴史を含めても間違いなく宝物となる期間。その節目に携われている貴重さを最近はしみじみと感じている。
この10周年を節目に、結婚式場ラ・クラリエールは生まれ変わろうとしている。ひとの「人生を表現する場所」という大切すぎるワンシーンのお手伝いに加えて、『リブランディング』という大役を任された私たち。結婚式のシーズンオン・オフなどまったく関係なく暗中模索の365日を過ごしている。
ラ・クラリエールのリブランディング計画が動き出したのはおよそ2年前の秋、2018年10月頃だ。
目の前のお客さまの結婚式を良いものにする事を考えるのに毎日精一杯であった私たちが、やってくる2年後のことまで考えられるはずはなかった。そんなとき突然降ってきたリブランディングのはなし。あのときはこれから始まる巨大プロジェクトを自分たちに動かしていけるのか想像もつかず、ただ耳から入ってくる情報を受け取ることで必死だった。あたりまえだが、結婚式をつくることが仕事だと思っていたから、別のなにかを創っていく毎日が始まることに正直戸惑いもあった。これは全員に言える。そもそもひとりのキャパシティが追い付くのか不安だったのと、成功するのかどうかわからないことに足を踏み入れる勇気がなかったのだ。ベクトルを指してくれたあのひとは言った。
「覚悟をしないと乗り越えられないことに挑戦しようとしている、離脱するメンバーがいてもおかしくはない」
「あったもの」を新しくすることは「ないところから生み出す」よりも難しいのではないか…なんだか大変なことになったなあと思っていたときにふと見える桜の木、いまでは三橋の森といったらこの桜。シンボルツリーとなってくれている。この桜も10年前は普通の桜の木としてここにあったのだ。
この桜の木をシンボルツリーと認知してもらうまで、どれくらいかかったのだろう。そうしてくれた先輩たちは、何をしてきたのだろう。
これだけ熱い想いを毎回の記事で綴っている筆者も、今一緒にいるプランナーたちも、三橋の森誕生時からここにいたわけではない。クラリエールではプランナーひとりひとりが自分の人生を振り返る時間を取っている。そのなかで話に挙がる「プランナーになりたいと思ったきっかけ」も様々だ。それと同じく、三橋の森でのプランナー期間を通して自分のさらなる可能性に気づき、挑戦するため羽ばたいていったスタッフもいる。今、三橋の森にいるプランナーは歴代のプランナーの想いを受け継ぎ、大切につむぎながら今度は新しいものへと進化させようとしているのだ。
同じように、自分たちも永遠にこの三橋の森にいることが出来るわけではないと考えることもある。
三橋の森に立ち寄った方々がどうしたら温かい気持ちになって帰ってもらえるか、どうしたらここでの結婚式がどこよりも良いと思ってもらえるか、結婚式をきっかけにふたりの未来も優しいものになったと言ってもらえるか…毎日毎日、一生懸命考えたこの日々の光景を未来のスタッフたちは見ることがないのだ。それでも伝えていくにはどうしたら良いのだろう。このリブランディングというものに挑戦し、新たに生まれ変わったクラリエールを大切に受け継いでもらうには何を残していけば良いのだろう。そんなことまでも考えるようになっていた頃、メンバーがいつものように働いている姿を見て気付いた。
……これで良いのかもしれない。
そもそも、10年前三橋の森を生み出してくれた先輩たちに会ったこともなく、そのときの話を熱弁された経験もないのに、今ここまで三橋の森に対して熱い想いを持っていられることが凄いことではないか?と気づいたのだ。もちろん環境だけでも魅了される点を挙げたらキリはない。一目見るだけで心奪われてしまうような桜景色や太陽の光が差し込むチャペルの木の香り、木々たちが生み出す心地よい風の音、朝保育園から響き渡る子供たちの声やカフェから届く焼き立てパンの匂い。これだけでも未来永劫、充分守りたくなる場所ではあるが、それ以上に守っていかなければならないと思わされる「何か」があったのだ。それに気づいたからこそ、「これで良いのかもしれない」と思えた。
なぜ守っていかなければならないと思わせてもらえたのか、
それは、ここを生み出した人たちの「愛」が10年たった今でもこの場所に生きているからだ。
何かを残す・受け継ぐには様々な方法がある。PC内にフォルダを作成する、クラウドに資料を残す、当時の写真・動画を残しておく等、きっと役に立つ方法も沢山あるだろう。しかし、それらはクリック一回で消されてしまうこともあれば、クラウドが消滅したら復活させることすら出来ないかもしれない。そんな中でクラリエール内に残された先輩たちが残してくれたこれら沢山の資料も勿論すべて読み漁ったが、どこか腑に落ちない感じがあったのだ。「守っていきたい」と思わされる決定打はこれではない…。
そんなとき目に映ったのが、今のスタッフたちが一生懸命に働く姿、考える姿、優しい姿だった。10年前三橋の森をつくり、沢山の人たちに認めてもらおうと奮闘していた先輩たちも、きっと全くおなじようにただ目の前のことに一生懸命だったのだろう。まだ10年前は森の中で行う結婚式なんて結婚式じゃないと言われていた時代だった。白亜の邸宅やプール付きのゲストハウスが台頭していたときだ。そこからこの三橋の森が認知され、有名になる未来を想像して毎日コツコツと出来ることを積み上げてきたのだ。きっと私たちと同じように暗中模索のなかでも、三橋の森に対する「愛」だけは確かなものだった。今の私たちと一緒だ。それは、先輩たちが残してくれた沢山のPC内の資料よりもずっと指針となるモノだった。
それが確信となった瞬間に、悩んでいたことも解決された。なにを残そう、なにかを伝えようとするのではなく、「姿」できっと未来は続いていく。 今、三橋の森のリブランディングに暗中模索しながらも一生懸命熱い気持ちで届けようとしているこの「愛」はどこかに残っていくはず。だから私たちも、なにか未来に続くマニュアルを作ったりするよりも、この場所をずっと守り続けたいという想いだけがベクトルでも良いのかもしれない。時代の移り替わるスピードが年々速くなっている今、作ったルールが明日には不正解になることも不思議でないから余計にだ。
先代が置いていってくれた一冊のノートには、当時の三橋の森の魅力が1月~12月まで綴られていた。これを創り上げるまでにどれくらいの時間をかけたのだろう。きっと書かれていない景色や感じた想いも詰め込まれている。ただ、読んでいると見えた事実だけでなく おふたりへの優しい想いがふっと現れるのだ。
やっぱり大丈夫、きっとわたしたちの今は間違っていない。
またそう思えた瞬間だった。
未来の三橋の森にいるだれかがこのノートの存在に気づいていてくれることを願って、懐かしの写ルンですで日付を残しておこう。
おわり*.
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本日もお立ち寄りありがとうございました*.
また次回もお楽しみに♪
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