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人のかなしみが生んだもの 2020

 「あのときどうしてた?」「どこに住んでいた?」と数年後 会話に挙がる年がある。

 これまでは東日本大震災が起きた2011年だろうか。何年たっても、「地震のときどこにいた?」という会話をするとその人の経緯や知らなかったバックボーンまで知れたりする。2020年は間違いなく未来の私たちにとってそんな年になるだろう。ちょうど1年前の2019年末は「来年はついに迎えるメモリアルイヤー2020!」と誰もがなんとなく思っていたこの年を、こんな意味での「忘れられない年」と記憶するなんて誰も予想しなかった。

 「思い出が少ない」とか「何もしてなかったのに早かった」と表現する人も多いが、三橋の森としては決してそんな1年ではなかった。むしろ、この1年がなかったら気付かされなかったことだらけで、知らずにそのまま過ごしていたかと思うと怖くもなる。この時のことを知らずに三橋の森を守ってくれる未来のスタッフや、この1年三橋の森を支えてくれた数えきれないほどのお客様に感謝の気持ちを込めて、ここにしっかりと記録しておこう。

 まずは、私たち結婚式場が主に行うイベント「結婚式」がたった1ヶ月も経たないうちに「なくてもよいもの」にカテゴライズされるという衝撃的な幕開けから始まった。 

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 大げさな表現をするが、「結婚式」というものが夢、憧れ、幸せ、輝き、招待されると嬉しいもの、報告できることが嬉しいこと、というイメージだった時代のことをみなさん覚えているだろうか(笑)

 あえて(笑)とさせてもらったが、このイメージがあった事実を本当に忘れてしまっている人たちもいるのだ。人間の価値観の変化スピードに本気で驚いた1年であった。もちろん三橋の森では今でも毎週幸せな結婚式が行われているが。

 つい最近の打ち合わせで楽しく未来の話をしていた花嫁さまから泣きながらの電話を受けるスタッフ、その電話を横で聞き支える仲間、自分たちの無力さや100%の要望に応えきれない悔しさからスタッフまで流す涙、特別対応に追われ夜遅くまで電気が消えない連日の事務所、SNS上での繰り広げられるプレ花嫁さまたちの嘆き...普段目にしていた光景があっという間にがらっと変わった。私たちがいるこの場所で飛び交う会話や言葉たちはすべて幸せにあふれていることがこれまでは大前提だったのに、不安・迷い、そして悲しみという感情までもがそこにはいた。

 だからこそ私たちは今年いっぱいをかけて考えざる得なかったのだ。そもそも「結婚式」とはなんのためにやってきたのだろうと。

 ついに4月以降は緊急事態宣言が発令され、もしかすると結婚式が今後本当に習慣としてこの世からなくなってしまうかもしれないという危機感から、私たちは新しいチャレンジを始めた。それは、

 「普段から大切にしている想いを大切にする」ということ。

 そう、新しいチャレンジなようで根本的には何も変わっていない。なぜなら、私たちがこれまで大切にしてきた「結婚式は人生を表現する場所」や「ふたりの日常の延長にある幸せ」「嬉しさだけでなくさみしさも分かち合う時間」というベクトルが正にいまの世の中、いや、これからの世の中から求められるものと合致している確信があったからだ。むしろ、これまでの迷いをそう思わせてくれる後押しとなってくれていた。

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 確信したからには、この想いを外部にも発信することにした。5月末にはウエディングプランナー2名が、それぞれの人生を赤裸々に振り返りながら実際に手伝ってきた結婚式から想うこと・感じたことを生配信した。三橋の森10年の歴史上で初の試みともあり不安もあったが、想像以上の反響を頂いた。ふたりのウエディングプランナーが職業という肩書を下ろし、ひとりの女性として約30年間の経歴、辛かった経験、結婚をしてみて抱いた感情、迷ったことを自分の言葉で、しかも編集の出来ない生放送で話したのだから、周りの意見だけで結婚式を諦めないでほしいという嘘偽りのない想いが画面の向こう側にも届いたのだ。どの言葉が本心でどこの言葉が嘘で喋っているかなんて簡単に見破られてしまう時代だからこそ、この反応は尚更嬉しいものだった。

 7月末にはこれまで結婚式を行って頂いたみなさまにご協力を頂くプロジェクトをスタートさせた。もちろん事前準備期間がある。みなさまに協力募集をかけたのは3月末~4月上旬頃、まさに世の中がざわつき始めてからのピークを迎えているあの頃だった。1組1組さまに電話をかけ、詳細をお話する。このような状況でもあったので全組にお声がけ出来たわけではないのだが、およそ100組さまにお声がけをしたにも関わらず、1組として嫌な反応を見せる方はいなかった。「どんなことがあってもクラリエールのためなら行きます!」「ずっと家にいなければならなくなったのでその日を楽しみに頑張れます」「スタッフのみなさんも大変だと思いますがお体気を付けてください」とむしろ激励が返ってきたのだ。嘘でなく、涙が出た。この電話をかける前は、こんな気持ちになるなんて予想していなかった。すべてはお客様のため、三橋の森に携わるみなさまが幸せな気持ちになることを目的として仕事をしているはずの私たちが勇気をもらっていた。

 同時期SNS上では、結婚式を目の前にこのような世の中になってしまい落ち込むプレ花嫁さまたちを励ますために、#クラリプレ花嫁応援 投稿を募集した。結婚式を挙げて頂いた方々に当日の思い出やその後感じたこと、プレ花嫁みなさまへの応援メッセージを投稿してほしいとお願いしたのだ。つまり完全にこちら側都合100%の依頼だ。みなさまには投稿にかかる時間だけ頂くことになる。これはさすがに反応を頂けないことを覚悟で一晩待ってみると、画面いっぱいに投稿が挙がっていた。たった一晩でだ。スクロールしてもしてもまだ出てくる投稿たち。過去の投稿にタグをわざわざ付け直してくれている方もいた。こちら側からお願いをしたにも関わらず「なんでこんなにみなさん優しくしてくれるのだろう」と思わずにはいられなかった。とにかく「やさしさ」という言葉についてあんなにじっくりと考えた日はなかったと思う。

 この頃をきっかけに、私たちは翌年10周年のリブランディングを含め、今向かっている方向性に更なる確信と次なる可能性を見る。

 自信を持つことが出来た。私たちがこれまで手伝ってきた「結婚式」というものは、人の人生に必ず意味を残している。そのあともずっと忘れられないような言葉やたった1秒のワンシーンを生み出している。だからこそ、三橋の森でその一瞬を過ごしたみなさんがここまで私たちを優しく支えてくれるのだと。帰ってきたいと思ってくれているのだと。私たちが思っていた以上に、ここで過ごした時間を大切にしながら今も生活をしてくれているのだということを知ることが出来たのだ。

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 いろんな経緯や理由があるとはいえ、ここにいるスタッフたちは結婚式という時間に関わりたいと思ってこの仕事に就いている者たちだ。心が動かされる何かを感じる仕事がしたくてたどり着くこの場所。しかし一般的にこの業界には「リピーター」と呼ばれる顧客が主ではないため、これまでスタッフたちはお客様の人生のハイライトを演出できてもその後に携わることができなかった。しかし三橋の森では、それでもここをリピート利用して頂く、むしろその人にとって帰ってくる場所としてあってほしいという想いから10年運営してきた。それでも「結婚式からはじまる一生のお付き合い」を掲げながら、結婚式当日を無事に終え見送ってからはふたりの日常を直接見ることは出来ないのが現実だった。迷惑になってもいけないから、まさか友人のようにこちらから頻繁に連絡を取るわけにもいかなかったりと、あの日がふたりの未来にとって意味のある時間であったら良いなという願いを抱くしかなかった。もちろんイベントや三橋の森のレストランにお越し頂いたときにはそんな話も出来るが、そこにしかチャンスしかなかったのだ、「直接会える」というチャンス。

 そのチャンスすらも取り上げられてしまったからこそ感じることができた「画面から伝わる優しさ」。2020年という歴史に残る時間をここで生きていなければ知ることが出来なかっただろう。

 むしろ「画面だから伝えられた優しさ」かもしれない。直接だと恥ずかしくて伝えられなくても、ボタンで打ち込むなら送れる気持ちや匿名であるからこそ打ち明けられた熱い想いも存在する。それらを受信したことによりちゃんと心が動いて涙が流れたのだから、伝える方法へのこだわりなんて要らなかった。これこそ2020年に見えた、「なくてもよいもの」のひとつだったのかもしれない。

 ここに綴ってきた新しいチャレンジを2020年中継続した結果、1年前とは比較にならないほど、今では三橋の森には画面を通して優しさが毎日届くようになった。熱い想いが長く綴ってある優しさもあれば写真を加工したもの、スタンプたったひとつの優しさもある。それらを見てまた今日も昨日より優しくなろうと思う。なんて良い世の中になったのだろう。

 

 人の憂い(うれい) =優   

   うれい 意味:悲しみ・嘆き・心配


 一生忘れない年が私たちに教えてくれた、優しさという贈り物を大切に三橋の森10周年の2021年を守っていく。これからもずっと帰ってきたいと言ってくれた人たちのために。

 前の年にこれらのことを気づかせてくれた巡り合わせは きっと私たちの背中を押してくれていると信じて。

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おわり*.

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 本日もお立ち寄りありがとうございました*.  

 また次回もお楽しみに♪    

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