恩田陸著『ネバーランド』感想
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恩田陸著『ネバーランド』集英社文庫
お気に入りの一冊なので、なぜお気に入りなのか考えてみたいと思い書いています。
あらすじ
感想(ネタバレを含む)
松籟館に居残りを決めた美国、寛司、光浩、統の4人は、それぞれ秘密を抱えています。
美国は、父親の不倫相手に連れ回され、額を引っ掻かれた時の赤い爪がトラウマとなり、女性が怖いと感じるようになりました。
寛司は、離婚間近の両親がいて、自分の人生を尊重されないことに憤りを感じています。
光浩は、妾の子供で、両親が心中しており、その後彼を引き取った父親の本妻から性的虐待を受けています。
統は、母親が湯船に電気剃刀を入れて自殺するところを目の当たりにした経験をしました。
これらの簡単に人には言えないような秘密が、4人で過ごす7日間の間に共有されていきます。
なぜ共有されるのか、語り手である美国が光浩の告白中に次のように表しています。
4人は、4人であるから秘密を共有できるのだと思います。
それぞれの事情で帰省せず寮に残ったという仲間意識は、未成年飲酒をするといった一般的には良しとされないことを当然のように受け入れ合って共にすることなどを通してより強固になったことでしょう。
また、秘密はそれぞれ様々な形で曝露されることとなりますが、翌日には普通に朝食を食べ、関係のない話をし、雪合戦をしたりテニスをしたり、ランニングをしたりします。
どんな秘密を伝えようとも、この(自分以外の)3人との関係性は崩れたりしないという信頼が、最初の統の告白の段階で、もしかすると、誰もいない寮に4人だけが残った段階であったのではないかと思います。
彼らは秘密を共有したからといって、共感的に慰めることも、その問題を解決へ導こうともしません。
秘密を打ち明けた仲間の辛さを、簡単に共感できるものではない、自分の辛さとは違うのだと分かっているからそうしないし、どうあがいても己の力ではどうにもできないこともあるのだと4人が知っているからそうしないのです。
その関係性が、とても心地よく感じます。
前にも述べたように、4人は、この4人であるから秘密を共有できるのだと思います。
しかし、この小説を読んでいると、私もあたかも4人の仲間である感覚、美国の言葉を借りると、私も共に共犯関係を結んでいるような感覚になります。
告白される彼らの秘密を私も当然のように受け入れるし、私自身の秘密は話したわけではないけれども、彼らによって受け入れられた感覚になって、それがとても心地よかったのです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。