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悪魔の暗躍【玩具妄想】

 此処は地の果てベテリ領。
 深緑森に住まう樹木の精霊ファウナスを討伐したことは、領主であるヴェテリスの思惑から外れた影響を齎そうとしている。
 木箱に腰を掛けている見目麗しい女性も、その1つであった。

「深緑森か……此処の領主に嗅ぎ付けられるのは面倒だけど、だからといって無策で行くのは論外よね」
 彼女の名はラスティア。“サキュバス”と言われているが、その言葉だけで判断すると見誤ることになる。
 彼女の餌食になりたくないのならば、少なくとも今この場に居るラスティアは女性の姿をしたデーモンと認識するのが正しい。
「お腹が空いたし、取り敢えず食事の序でにベテリ領の民から話を聞きましょう。“急いては事を仕損じる”だったかしら?」
 ラスティアは角に着けている飾りを弄る手を止めると、蹄状の足を人の素足に変化させて領民を探し始める。

「そこの貴女、少し私とお話しない?」
「えっ?…………ハイ、喜んで」
「じゃあ場所を変えましょう、此処じゃ落ち着いて話が出来ないわ」
「分かりました、ラスティア様」
 ラスティアは若い女性に近付くと、その身を振り向かせて話しかける。
 女性は急に話しかけられて警戒していたが、目を合わせてラスティアの声を聞くうちに恍惚とした表情を浮かべ、彼女の言葉に従っていた。

「身も心も楽にして私の言うことを聞きなさい。そして貴女が知っていることを包み隠さず私に言うの、分かった?」
「……ハイ、何なりと」
 ラスティアという魔性に魅入られた若い女性は、彼女の言うがまま言葉を綴っていく。
「深緑森で樹木の精霊ファウナスが倒されたと聞いたわ。貴女、何か知ってる?」
「領主様が妖術師と“飼い犬”を連れて深緑森へ赴き、討伐されたと聞いています」
「飼い犬? じゃあファウナスを仕留めたのはヴェテリスか。まぁ予想通りね」
「いえ違います。ファウナス様を討伐されたのは領主様の“飼い犬”です」
「えぇっ、ちょっと待って! ファウナスは犬に噛み殺されたって言うの?」
「違います。“飼い犬”というのは領主様を討ちに帝都から来たディックという従騎士のことです。兜の装飾から“角の生えた犬”とも呼ばれているようですが」
「そのディックのこと、詳しく教えてくれないかしら?」
「ハイ、ラスティア様」

「この地でファウナスを倒すのならヴェテリスかグリシャのどちらかと思ってたけど……ディックかぁ~。人の子の雄らしいし、手駒として使うには丁度いいかもしれないわね」
 話終えたラスティアは若い女性を放置して場を立ち去る。
「それにしても人間って可愛いわ。定命風情で知恵者ヅラするエルフや雌でも髭が生えているドワーフと違って、遊ぶも良し食らうも良し潰すも良しだし。直ぐに数も増えるから、これほど玩具として弄ぶのに都合の良い種族もなかなか居ないわよねぇ♪」

「ファウナスの骸を寄り代にする……か。あんな厳つい身体、私は願い下げだけど」
 何処からともなく禍々しい書物を取り出したラスティアは、描かれている魔方陣を用いて魔術を行使し始める。
「アイツの思惑通りというのは面白くないけど、正面切っての荒事は私の趣味じゃないのよね。この際だから利用させてもらうわ、最後に笑うのは私と決まっているのよ」
 楽しみだわ♪と舌なめずりするラスティアの顔は、正しく“魔性の女”と呼ぶのに相応しい美しくも妖しいものだった。

・後書き
( ・□・)
 そんな訳で今回の記事はスネイルシェルさんから初購入したフィギュア『ラスティア』を主役に据えたフィギュア寸劇となります(とはいえ『“飼い犬”と呼ばれた若者』こと玩具妄想ではディック達がメインですが)。
 なおスネイルシェル公式だとラスティアはサキュバスですが、サキュバスだと淫靡な印象なので玩具妄想では女性型悪魔として人々を堕落と破滅に導く存在としています。
 玩具妄想では今まで居ないタイプのキャラクターなので、この先の出番は話の展開と神のみぞ知ることになります。

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