塔/02-03-2024

　「ロマンチストが死んだんだ。一昨日、あのあなぐらの底で」

　「だからみんなで弔ってやろうと決めた。――いや、決めたのは俺じゃない。姉さんだ。姉さんが窓越し云うんだよ、悼むべきだって。そう云うんだ」

　「おれは、嫌ではなかったけど、特別そいつと親交があるわけじゃあなかったからね。そいつはきまってあの塔にいるんだ。――いつでもね。だから、あなぐらで死んだって聞いた時には驚いたよ。ロマンチストってのは隣町や隣国、川向かいの家の娘のことが好きなのさ。塔にしきりに昇って、目の前のことなんてなんも見ちゃいないんだって、そういう風に聞かされていたから」