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アートを次世代に残すということ

 先日、ふと小旅行がしたくなって佐野へ行ってきました。
 目当ては佐野市立吉澤記念美術館。

 私は地方の美術館や博物館が好きです。もちろん都内で華々しく開催する企画展も見たいと思っているのですが、とにかく人が多いのが我慢ができない。
 コロナ禍を経て、すっかりパーソナルスペースが広くなってしまいました・・・。


佐野市立吉澤記念美術館とは

佐野市立吉澤記念美術館は、地元旧家・吉澤家から美術コレクションと美術館施設等の寄贈を受け、平成14年(2002)に葛生町立吉澤記念美術館として開館しました。その後、平成18年の佐野市・田沼町・葛生町の合併に伴い「佐野市立吉澤記念美術館」となりました。

吉澤コレクションは、当地で酒造業(江戸時代)・石灰会社(近代以降)等を営む旧家・吉澤家で江戸時代後期以来約200年にわたって形成されてきました。代表的な伊藤若冲《菜蟲譜》をはじめ、江戸~現代日本の絵画、板谷波山ら近現代の陶芸など、豊富な内容で構成されます。また、高久靄ガイ(関東文人画の重要画家。ガイ=崖-山)らと親交があり自らも墨竹画を描いた吉澤松堂(1789-1866)以来、各時代の美術の動向の一面を反映しながら収集・蓄積され、散逸することなく現在まで伝えられてきました。コレクション自体が「江戸から近代にかけての北関東における書画愛好」の様相を示す貴重な事例という意義をもっています。

佐野市の吉澤美術館紹介ページより抜粋

 佐野の吉澤家というのは江戸時代からの旧家で、造り酒屋から、近年は吉澤石灰工業として大きく産業を興したそうです。吉澤家五代にわたり収集した500点以上のこのコレクションと美術館施設を、吉澤家は佐野市(当時は葛生町)に寄贈したとのこと。スケールが大きい。

 地方の旧家というのは、文化の発信とそれらを次世へ伝えることについてノーブリスオブリージュのような役割も担っていたのでしょうね。

 しかし戦後民主主義はそんなことを許さない。
 相続税は重税だし、コレクションを維持管理するには莫大な資金が必要だし、と考えると自治体にその重責を担って欲しいと思うのは当然でしょう。相続財産を国や地方公共団体等に寄附すると(一定条件のもと)その分は相続財産から除外できるという相続税法の特例もあります。
 世の流れなんでしょうね。もちろん先祖代々の大切なコレクションを手放すのは複雑な想いがあったでしょうけれど。

企画展 現代陶芸の「すがた」と「はだ」を開催中

吉澤記念美術館の企画展チラシ

 10月20日までは、現代陶芸の「すがた」と「はだ」という企画展を開催しています。板谷波山や富本憲吉、加藤卓男、加守田章二などなど、綺羅星のようなコレクションが並んでいます。東京藝大名誉教授の島田文雄先生の作品もありました。
 陶芸のフォルムとマチエール(絵肌感)にフィーチャーして企画した展覧会です。撮影可の作品もあったのですが、帰宅してから見直してみると写真が下手すぎたので、ここには上げないでおきます。

千葉市美術館でも摘水軒コレクション展が開催されていた

千葉市美術館チラシ ちょっとシワシワですみません!

 この夏8月25日までは、千葉市美術館でも摘水軒コレクション名品展が開催されていました。

摘水軒コレクションとは

摘水軒記念文化振興財団は、岩佐又兵衛《弄玉仙図》(重要文化財)をはじめとする肉筆浮世絵や、伊藤若冲《旭日松鶴図》等の花鳥・動物画を核とする国内有数の江戸絵画コレクションを所蔵しています。同財団のルーツである寺嶋家は江戸時代、柏村の名主を務め、水戸街道沿いの居宅「摘翠軒」は文人墨客が集う文化サロン的な役割を果たしていました。

千葉市美術館「摘水軒コレクション名品展」紹介ページより抜粋

 摘水軒も柏の旧家である寺嶋家のコレクションです。現在は、財団化してコレクションを守っているようで、あちこちの美術館の企画展にコレクションを貸出ししているようです。 

長澤芦雪 狗子図 絹本着彩
葛飾北斎 雪中鷲図 紙本着彩

美術館の存続ーDIC川村記念美術館の場合

 そして先日、「佐倉市にあるDIC川村記念美術館が年内で閉館、もしくは移転を検討する」というニュースが流れてきて大変驚きました。川村記念美術館は、DICが運営する私設美術館です。DICの創業家である川村家が三代に渡って集めたコレクションは本当に素晴らしいもので、現在佐倉市が美術館存続を求める署名活動を行っています。
https://www.city.sakura.lg.jp/soshiki/bunkaka/oshirase/19555.html

 ここは私も大好きな美術館のうちの一つで、特にマーク・ロスコの作品のみを展示するロスコ・ルームは、入ると形容しがたい気持ちで胸がいっぱいになる空間で、私の中で特別な位置を占めている部屋です。
 無くなって欲しくない!大変な損失です!

 ただ冷静に考えると一般的に美術館の運営で黒字になることは、たぶんほぼ見込めないと思うので、一企業としては正直、負担に感じるでしょうね。

 署名の結果でどうなるかは分からないですが、自治体である佐倉市や千葉県は譲り受けることは難しいのでしょうか。
 しかしコレクションの評価額としては莫大すぎるから、おいそれと買うのも難しい。税金の使い道としてアートの存続というと「もっと火急のものがあるでしょう」という声も上がるかもしれない。本当に難しいですね。
 前澤友作氏が「相談に乗ります」と作品の一部購入に名乗りを上げておられるそうなのですが、いっそ丸ごと運営してくださらないかしら・・・。
まあひとまずクラウドファンディングを募ってみたら、かなりファンは多いでしょうから、運営資金の足しになるのではないかと、素人ながら思いました。

 魅力的な町には魅力的な美術館があります。
 地方の美術館、何とか頑張って欲しいです。

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