2024早稲田ロー再現答案(不合格)
早稲田ローの再現答案です
結果は不合格でした
1.民法
⑴ 答案
問題1.
〔設問1〕
第1.⑴
1.DA間の法律関係
⑴ AはDに対して717条1項本文によって損害賠償義務を負うのではないか。
ア.「工作物」とは土地上に存在する物をいう。本件店舗は、本件売買契約によってAが購入した敷地の上に存在する物であるから「工作物」にあたる。
イ.本件店舗の外壁は、本件請負契約の通りに外壁工事がなされていないことから、本件店舗の「設置」に「瑕疵がある」といえる。
ウ.「損害」とは、事故がなければ被害者が置かれていたであろう財産状況と事故によて被害者が置かれている財産状況の差額をいう。Dは本件店舗の外壁の一部の剥落(以下「本件事故」)によって、重傷を負っており、これによってDが負担した費用が損害となる。
エ.「よって」とは、瑕疵と損害との因果関係をいう。Dに生じた損害は、外壁工事が請負契約通りになされていたのであれば生じなかったといえるし、そう考えることが社会的に相当といえる。
⑵ 以上より、AはDに対して717条1項本文による損害賠償義務を負う。
2.DC間の法律関係
⑴ CはDに対して不法行為に基づく損害賠償義務(709条)を負うのではないか。
ア.Dは本件事故によって、重傷を負っていることから身体という「権利」が侵害されている。
イ.「故意又は過失」とは、権利侵害についての故意又は過失をいう。過失とは、予見可能性及び結果回避可能性を前提とする結果回避義務違反をいう。本件請負契約において、Cは工務店という建物建設のプロであり、本件店舗の設計、工事監理・施工を行なった。また、Cの供する材料を用いて本件店舗は建設されている。これらの事情から、外壁工事を請負契約どおりに行わなければ、剥落等の危険があることは予見できるし、結果回避可能性もあるといえる。それにもかかわらず、Cは外壁工事を本件請負契約どおりに行っていないため、結果回避義務違反が認められる。よって、Cには故意あるいは重過失が認められる。
ウ.損害及び因果関係については、上記のとおり本件事故は、外壁の瑕疵によって生じたものであるから認められる。
⑵ 以上より、CはDに対して不法行為に基づく損害賠償義務を負う。
3.AC間の法律関係
上記のとおりCはDに対して不法行為に基づく損害賠償義務を負う。Cは「損害の原因」(717条3項)である本件店舗の外壁の瑕疵について「責任を負う者」であることから、本件店舗の「所有者」Aは717条3項によりCに求償権を行使することができる。
第2.⑵
Dの有する損害賠償請求権は、「不法行為による損害賠償の請求権」(724条柱書)である。また、Dは重傷を負っていることから「人」の「身体を害する不法行為による損害賠償請求権」(724条の2)である。そこで、「被害者」D又は「その法定代理人が損害及び加害者を知ったとき」から「5年以内」(724条1号、724条の2)あるいは、「不法行為の時から二十年」(724条2号)以内の早い方までに権利を行使する必要がある。
〔設問2〕
第1.⑴
1.追完請求(562条1項本文)として、外壁の修補請求をすることが考えられる。
⑴ 本件売買契約によって「引き渡された目的物」である本件店舗は、本件請負契約どおりの品質を備えているとして本件売買契約の内容になっていたと考えられる。しかし、実際には、本件店舗は、本件請負契約どおりの外壁工事は行われていなかったため「品質」に関して「契約の内容に適合しない」といえる。
⑵ よって、AはBに対して「目的物の修補」による追完請求をすることが考えられる。
2.また、「買主」Aが「相当の期間を定めて履行の追完の催告」をし、その期間内に履行の追完がない時は、代金減額請求(563条1項)として、すでに支払った代金の返還を求めることが考えられる。
3.解除及び損害賠償請求もしうる(542条、415条1項本文)
第2.⑵
AはBに対して「不適合を知った時から一年以内」(566条本文)に不適合を通知した上で、「債権者」Aが「権利を行使することができることを知った時から五年間」(166条1項1号)以内に権利を行使しなければならない。
問題2.
〔設問1〕
1.AのBに対する離婚請求
Bは、Aでない女性と不貞な関係にあることから「配偶者に不貞な行為があった」(770条1項1号)といえる。
2.BのAに対する離婚請求
⑴ Bは有責配偶者であるから原則として離婚請求をすることができない。
⑵ 有責配偶者からの離婚請求であっても、実質的に夫婦関係が破綻しているという事情がある場合には「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(同項5号)として離婚請求をすることができる。ただし、夫婦間に未成熟子がいる場合や離婚によって相手方が経済的に困窮する場合は、離婚請求ができない。
本件では、AとBは別居しており、Aは隣の街に居住している。また、BがA以外の女性と暮らしていることからABが再び同居する可能性は低く、実質的に夫婦関係が破綻しているといえる。そして、AB間に未成熟子がいる事情は窺われないし、Aは医師であり職についていることから経済的に自立しており離婚によって経済的に困窮するとはいえない。
よって、Bの離婚請求は認められる。
〔設問2〕
1.Cは詐害行為取消権(424条1項本文)を行使できるか
⑴ 財産分与は、夫婦財産の精算、離婚後の経済基盤、慰謝料を性質として持つ身分行為であるから原則として「財産権を目的としない行為」(424条2項)である。しかし、不相当に過大な財産分与は財産分与に仮託した財産移転といえるから「財産権を目的としない行為」には当たらない。
本件において、甲土地はBが相続により取得したものであるから「自己の名で得た財産」(762条)といえ「当事者双方がその協力によって得た財産」(768条3項)とはいえず、財産分与の対象とはならない。また、乙建物は、ABの共有物であるからAが分与を受けるのはAの持分が妥当である。それにもかかわらず、AはBから甲乙を全て譲り受けていることから、甲及び乙のBの持分については不相当に過大な財産分与といえる。
したがって、ABの財産分与は「財産権を目的としない行為」には当たらない。
⑵ 「債務者が債権者を害することを知ってした」(424条1項本文)とは、積極的な詐害意思までは要せず、債務の返済が滞る可能性を認識していれば認められる。
Bが財産分与によって、債務の返済が滞る可能性を認識していれば、「債務者が債権者を害することを知ってした」といえる。
⑶ 「債権者」Cは、Bに対する貸金返還請求権を財産分与の前から有していたことからこの債権は、財産分与よりも「前の原因に基づいて生じたもの」(同条3項)といえる。
⑷ CのBに有する貸金返還請求権は金銭債権であるから「強制執行により実現することのできないものである」(同条4項)とはいえない(民事執行法143条)。
2.よって、「受益者」(424条1項ただし書)Aが財産分与時点において「債権者を害することを知らなかったとき」でなければ、Cの詐害行為取消請求は認められる。
⑵ 感想
2.刑法
⑴ 答案
設問1.
1.甲がBの手帳を取り出して記載されている情報をスマートフォンで撮影した行為について、窃盗罪(235条)が成立しないか。
⑴ 「他人の」とは、他人の占有する他人の所有物をいう。甲がBの手帳を持ち出したときBは離席していたが、Bの手帳はBの机の中にあり、その引き出しには鍵がついていることから、Bの手帳はBの占有下にあったといえる。また、Bの手帳はBの所有物である。よって、「他人の」にあたる。
「財物」とは、経済的価値を有する有体物をいう。情報は経済的価値はあるものの、有体物ではないことから「財物」には当たらない。しかし、有体物に情報が記載されれば一体として経済的価値を有する有体物となる。Bの手帳はBしか知らない情報が記載されていることから一体として経済的価値を有する有体物といえ「財物」にあたる。
よって、Bの手帳は「他人の財物」となる。
⑵「窃取」とは、他人の占有下から自己又は第三者の占有に移転することをいう。甲はBの手帳をBの机から自分の鞄の中に入れ持ち出していることからBの占有下から自己の占有に移転しているといえ、「窃取」しているといえる。
⑶ 故意(38条1項本文)にかける事情なく、故意が認められる。
⑷ 窃盗罪が成立するには、不可罰である使用窃盗との区別から要求される権利者排除意思と毀棄罪との区別から要求される利用処分意思からなる不法領得の意思が認められなければならない。
権利者排除意思について、甲はBの手帳を窃取から5分後に戻しており権利者排除意思が認められないように思える。しかし、情報は占有しなければ得られないものではないことから有体物とは異なりその情報を取得することによって権利者排除意思が認められると考える。甲はスマートフォンで甲の手帳の情報を撮影していることから情報を取得しているといえ、権利者排除意思が認められる。
また、利用処分意思とは、その物から得られる効用を直接享受する意思をいう。甲は得た情報を用いてBの弱みを掴もうとしていることから、情報によって得られる効用を直接享受する意思が認められる。
よって、甲に不法領得の意思が認められる。
2.したがって甲は窃盗罪の罪責を負う。
設問2.
第1.乙の罪責
1.乙の第一暴行について傷害致死罪(205条)が成立しないか。
⑴ 第一暴行によってBは急性硬膜下血腫の傷害を負っていることから、生理的機能が侵害されており「傷害」にあたる。また、Bは「死亡」している。
⑵ 「よって」といえるか。傷害致死罪の成立には傷害と死亡結果との因果関係が必要である。
因果関係存否の判断にあたっては条件関係を前提として傷害行為の危険性が死亡結果に現実化したかという観点から判断する。
Bの死因は急性硬膜下血腫に起因する脳機能傷害であるから第一暴行と死亡結果との条件関係は認められる。もっとも、Bは病院で緊急手術を受けており3週間安静にしていれば治る可能性があったにもかかわらず、安静にしなかったことで容態が急変し死亡している。そこで、第一暴行の危険が現実化したとはいえないのではないかとも思える。しかし、緊急手術は第一暴行による死亡の危険性を減少させるものでありBが安静にしなかったことはその減少した危険性が元に戻っただけであって新たに死亡結果の危険性を生じさせているわけではない。そうだとすれば、Bの死亡は第一暴行による危険が現実化したといえる。
よって因果関係が認められる
⑶ 故意にかける事情なく、認められる。
2.第一暴行はBの攻撃の反撃としてなされたものであるから正当防衛(36条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。
⑴ Bは乙に対して、激しく暴れ乙の顔面めがけて下から頭突きをしていることから、乙にとっては刑法上の不法な法益侵害が現存しているといえ「急迫不正の侵害」がある。
⑵ 乙は、自分の身体という「自己」の「権利を防衛するため」に第一暴行を行っている。
⑶ 「やむを得ずにした」とは、防衛行為の相当性をいう。
Bは乙よりも体が大きく格闘技経験もあり酔った勢いで相当力が強かったことに加えて、甲乙で取り押さえてもなお暴れている。乙は両手両足で体を押さえていることから手を使うことができず、頭突きをすることが相当性を欠く防衛行為とはいえない。
よって「やむを得ずにした」といえる。
3.以上より正当防衛が成立し、違法性が阻却される。よって、乙は傷害致死罪の罪責を負わない。
4.第二暴行について傷害罪(204条)が成立しないか。
⑴ 第二暴行によってBは肋骨骨折を負っていることから「傷害」にあたる。故意も認められる。
⑵ 正当防衛が成立しないか問題となるも、第二行為時点においてBは動かなくなっており「急迫不正の侵害」なく、正当防衛は成立しない。
⑶ 責任故意が阻却されないか。
故意責任の本質は反規範的人格態度に対する道義的非難にある。違法性阻却事由についての錯誤がある場合、反対動機の形成可能性なく、故意責任を問うことはできない。そこで、乙の陥っている違法性阻却事由の錯誤が相当であるならば、責任故意は阻却される。
まず、乙は急迫不正の侵害及び自己の権利を防衛するためについて、Bの攻撃が継続していると誤信している。急にBに襲われて心理的パニック状態にあったことから、この誤信は相当性がある。
また、乙は上記の通りBよりも体格に劣ることから素手で胸を2回殴ることは相当性を欠くとはいえない。
よって責任故意が阻却され、乙は傷害罪の罪責を負わない。
第2.甲の罪責
1.甲は乙と共同してBを押さえつけていることから傷害罪及び傷害致死罪の共同正犯(204条、205条、60条1項)になりうる。
2.共犯間の罪名は制限従属性説によれば、構成要件及び違法性阻却事由は連帯することから、乙の違法性が阻却される傷害致死罪の罪責は負わない。また、傷害罪については故意なく、これも認められない。
3.よって甲はなんらの罪責も負わない。
⑵ 感想
3.憲法
⑴ 答案
〔設問1〕
1.Xは本件差押えは、取材情報を公開しない自由を制約するものであるから、表現の自由(21条1項)の制約といえ、違憲であると主張することが考えられる。
2.本間差押えは、表現の自由の制約といえるか。
⑴ 21条1項が保障する表現とは、思想の外部的表明をいう。そして、意見を発表することは国民の価値観形成に資することから民主主義の発展に必要不可欠な権利である。マスメディアは、こうした意見表明を広く国民に届ける影響力があることからメディアの報道の自由は、表現の自由によって、保障される。また、報道の自由が認められたとしても取材源を公開しない自由が認められないのであれば将来にわたって取材活動を行うことができなくなるため、取材情報を公開しない自由も報道の自由の保障のために表現の自由の一内容として保障されると考える。
⑵ 本件差押えは、本件映像データという取材情報を強制的に取り上げるものであるから、取材情報を公開しない自由の制約といえ、表現の自由への制約といえる。
⑶ よって、本件差押えは、表現の自由への制約といえる。
3.全ての憲法上の制約が違憲となるわけではなく、公共の福祉によって、許容される場合もある。
⑴ 本件差押えは、本件映像データの内容を証拠として用いるために行われていることから内容に着目したものである。しかし、本件映像データは差し押さえ前にニュース番組で放映されていることから発表前の規制ではない。そこで、差押えの目的が裁判にとって必要不可欠で、手段が必要最小限度のものでなければ認められない。
⑵ 本件映像データ以外の証拠によっては事案の全容を十分に解明できないことを理由として差押えようとしている。しかし、Cからの電話履歴や面談場所の人の話などを聞くことでCの贈賄罪について立証することができると考えられることから、差押えの目的が必要不可欠とはいえない。
⑶ よって、許容される制約とはいえない。
〔設問2〕
1.これに対して、本件映像データ以外の証拠によっては事案の全容を十分に解明できないことから、合理的な理由があれば本件制約は許容されると主張する。
2.これについて、本件差押えをする理由はCの贈賄罪についてである。一方、本件映像データによって明らかになる事件の全容は本件についてである。そして、本件は株式会社Bの贈賄事件であって、CのAへの贈賄はその一部に過ぎない。そうだとすれば、本件の全容を解明する必要はなく、合理的な理由もない。
また、本件は、与党の政治家や官僚らに対する贈賄事件であって、これは国民が政治的関心を抱くことであるといえる。そうだとすれば、本件については、裁判所ではなく、Aが国政調査権(61条)を行使して国会で追及をする方が国民にとっても望ましいと考える。
3.以上より、かかる反論は認められず、本件差押えは認められない。
⑵ 感想
4.民事訴訟法
⑴ 答案
1.本訴判決の既判力は何に生じているか。
⑴ 既判力(114条1項)とは、前訴確定判決が後訴に有する確定力ないし拘束力をいう。既判力の趣旨は、判決の矛盾抵触を防止する点にある。そこで既判力は、原則として「主文に包含するもの」、すなわち訴訟物たる権利義務関係の存否について生じる。理由中判断については原則として認められない。なぜなら、理由中判断まで拘束すると審理が硬直化して自由心証主義(247条)を害するからである。もっとも、相殺の抗弁については、「相殺をもって対抗した額」(114条2項)に理由中判断ながら既判力が生じる。なぜなら、訴訟物の存否判断は相殺の抗弁を審理した上での判断であるから相殺の抗弁の判断に既判力は生じず訴訟物の存否のみに既判力が生じるとすると、相殺の抗弁に供した債権を後訴で争うことができるようになり、判決の矛盾抵触を生じさせる恐れがあるからである。そこで、「相殺をもって対抗した額」とは相殺の抗弁に供した自動債権のうち不存在と認められたものに加えて、相殺によって消滅した額をいう。
⑵ 旧訴訟物理論によると、訴訟物は実体法上の請求権ごとに判断される。本件判決において、XがYに請求したのは請負契約(民法632条)に基づく代金支払い請求権である。そして、本件判決はこの請求を300万円の限度で認める一部認容判決を下していることから、かかる債権300万円の存在について既判力が生じる。
本件判決においてYはXに有する本件売買代金債権1200万円を自動債権とする相殺の合弁を主張している。そして裁判所は、500万円については不存在、700万円については存在を認めた上で相殺によって消滅させている。よって、合計1200万円が「相殺をもって対抗した額」にあたり、この不存在について既判力が生じる。
2.後訴を裁判所はどのように扱うべきか。
⑴ 既判力の上記趣旨より、前訴訴訟物と同一・矛盾・先決関係にある権利主張はすることができず、裁判所は前訴と同様の認定をしなければならない。
⑵ 後訴におけるYの主張は本件売買契約代金200万円の支払い請求である。しかし、この本件売買代金債権は前訴たる本件判決において1200万円全額の不存在に既判力が生じていることから、後訴訟は前訴訴訟物と矛盾した主張であるといえる。
⑶ よって、裁判所は後訴においてもYの本件売買契約代金債権の不存在を認定しなければならない。
3.以上より、後訴裁判所は後訴を棄却すべきである。
⑵ 感想
5.刑事訴訟法
⑴ 答案
1.KがXを公務執行妨害の現行犯人として逮捕したことは適法か。
⑴ 「現行犯人」は「逮捕状なくして」逮捕することができる(213条)。「現行犯人」とは、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者」をいう(212条1項)。
⑵ 本件において、XはKの職務質問に際して、Kを突き飛ばして逃走している。これは、「公務員」(刑法95条1項)たる警察官Kの「職務を執行するにあたり」「暴行」を加えているといえる。また、KはすぐにXを追いかけ、突き飛ばしたところから数十メートル先で逮捕していることから、逮捕者から見た犯人と犯罪の明白性及び犯行と逮捕の時間的場所的接着性も認められる。
⑶ よって、Kは「現に罪を行い終わつた者」(212条1項)にあたるため、本件現行犯逮捕は適法である。
2.本件捜索差押えは、逮捕現場から約100メートル離れた区立公園内で実施されている。公園が「逮捕の現場」(220条1項2号)といえるか。
⑴ 「逮捕の現場」において無令状捜索差押を許容する220条の趣旨は、逮捕現場には被疑事実の証拠存在の可能性が高く、証拠保全の必要性も認められるからである。そこで、逮捕した現場から多少離れていたとしても、逮捕現場で捜索差押えをすることが適当でない場合で逮捕時点において被逮捕者が管理していた物に対する捜索差押えであれば、「逮捕の現場」においてなされたといえる。ただし、逮捕現場から最寄りの捜索差押えを行う適当な場所である必要がある。
⑵ 本件では、逮捕した時間は午後10時過ぎであり夜中である。また、その住宅街に街灯がなくリュックの中身を捜索することができなかった。そこで、公園に移動している。公園は逮捕した場所から約100メートルと近接しておりかつ街灯もあったことから逮捕現場から最寄りの捜索差押を行う適当な場所といえる。さらに捜索対象物は逮捕時点においてXが所持していたリュック等であるから、被逮捕者が管理していた物に対する捜索差押であるといえる。
⑶ よって、公園は「逮捕の現場」といえる。
3.本件捜索差押えによってA社製の腕時計を捜索差押えしている。この捜索差押えは適法か。
⑴ 逮捕に伴う捜索差押が許容される理由は、上記220条の趣旨による。そうだとすれば、かかる捜索差押えであっても令状の要否以外は令状捜索差押(218条)と同じ規律に服すると考える。そして、捜索差押えが認められるためには、被疑事実と捜索差押え対象物の関連性がなければ認められない。
⑵ 本件では、被疑事実は公務執行妨害である。XはKを両手で突き飛ばしたのであって道具を使っているわけではない。一方、本件捜索差押えによって差押えられた物は、Vが被害者の恐喝事件の被害品である時計である。
⑶ よって、被疑事実と捜索差押え対象物の関連性は認められないため、本件捜索差押えは違法である。
⑵ 感想
6.商法
⑴ 答案
〔設問1〕
1.甲社は、Aに対して423条1項によって、損害賠償請求をすることが考えられる。
⑴ Aは、甲社取締役であるから「取締役」に当たる。
⑵ 「その任務を怠った」とは、善管注意義務(330条、民法644条)違反、法令遵守義務違反・忠実義務違反(355条)をいう。
本件において、甲社取締役Aは甲社開発部長であり、新型エンジンの研究開発から製造までの一切を取り仕切っている。そのため、Aは甲社の新型エンジン研究開発及び製造に注力する義務を負っていたといえる。それにも関わらず、Aは丙社の業務執行に力を入れたために甲社技術陣への指導・指揮が停滞しており、そのためにエンジンの開発・製造の全工程が遅延している。
よって、Aは甲社業務に注力する義務を違反しており、忠実義務違反が認められるため「その任務を怠った」といえる。
⑶ 「損害」とは、任務懈怠がなければ置かれていた財産状況と任務懈怠があったことによって置かれている財産状況の差額をいう。本件Aの任務懈怠がなければ、甲社の売り上げ減少は生じなかったと考えられるため、売り上げ減少分は「損害」となる。
⑷ 「よって」とは、任務懈怠と損害の因果関係をいう。甲社の売り上げ減少はAの任務懈怠がなければ生じなかったし、そう考えることが相当といえる。よって、任務懈怠と損害の因果関係が認められる。
⑸ なお、Aが任務懈怠について善意無過失であったり、損害の発生についてAの責めに帰すべき事情がないという事情なく、425条1項及び428条は問題とならない。
2.以上より、甲社の請求は認められる。
〔設問2〕
第1.特許権を取り戻すことができるか。
1.甲社と丙社の間で行われた甲社特許権を時価の6割で売却する契約(以下「本件契約」)は承認なき利益相反取引にあたり無効であると主張することが考えられる。利益相反取引は、会社財産を害する取引であるから、承認なく行われた利益相反取引は無効である。
2.本件契約は、356条1項2号の取引に当たるか。
⑴「ために」とは、計算をいう。「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引」の取引とは、取締役が行う利益相反取引の直接取引をいう。
⑵ 本件契約は、甲社と丙社の間で行われたものであり、特許を時価の4割引きで売却するというものであるから、甲社にとっては利益にならない契約であり、丙社にとっては、利益になる契約であるといえる。Aは甲社の取締役であり、丙社の代表取締役であるから、Aにとっては本件契約は利益相反取引であるといえる。また、本件契約は直接取引である。
⑶ よって、本件契約は356条1項2号の取引にあたる。
2.そこで、株主総会において承認を得なければならない(356条1項柱書)。たしかに、甲社では本件契約の前に株主総会(以下「本件株主総会」)を開催しており、「議決権を行使することができる株主」(309条1項)の過半数である全員が出席して、ADが賛成していることから70%の賛成があり、「出席した…過半数」があるといえる。しかし、Aは本件契約について利害関係を有する株主であるからこの株主が参加して議決権行使した場合であっても有効な承認といえるか。
⑴ 株主は株式会社の所有者であって、会社の運営について決定できるものである。仮に株主が株主総会の議題について利害関係を有していたとしても、株主の議決権行使に影響することはないと考える。
⑵ よって、本件株主総会は有効である。
3.以上より、本件契約は、承認なき利益相反取引には当たらず、有効であるため、甲社は特許権を取り戻すことができない。
第2.Aに対する責任追及
1.423条1項による損害賠償請求をすると考える。
⑴ Aは甲社「取締役」である。
⑵ 本件契約によって、甲社は時価の4割分の代金を得ることができなかったことからその価額は、「取締役…株式会社に損害が生じた」(423条3項柱書)損害といえる。Aは、利益相反取引を行った取締役であるから「第三百五十六条第一項…の取締役」(同項1号)といえる。
2.よって、Aに特許権の4割分の損害賠償請求ができる。
⑵ 感想
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