あるカフェができるまで(とこれから)
上がり框の玄関には雛飾り。池や灯篭、松などが整えられた庭を望みながら入った部屋は、ほんのりとした灯りが優しい、畳み敷きの和室。鳥の声を聞きながら、見た目も美しい和の食事を頂く。駅からも、賑やかな通りからも少し離れた、まさに隠れ家的な、横浜市本間のカフェ「豆松カフェ」。地域の子育て世代、またシニア世代にも愛されているこのカフェがどのようにできたのか、お店を一人で切り盛りする、渡辺妙子さんに話を伺った。
カフェの始まりの話で出てきたのは、「盆栽」という言葉。想像外の単語に、多少…いや、かなり驚いてしまった。
趣味だった盆栽を通じて、盆栽修行中という友人と出会い「盆栽を見ながら、お酒を飲めるようなお店をやりたいんだよね」「いいですね!」と盛り上がり、とあるセミナーで起業相談をしたところ、レンタルカフェを勧められ、月1回という形で盆栽教室とコラボしたカフェをオープン。そこで2年ほど営業した後、「やっぱり拠点を持ちたい」と思うように。「古民家でカフェはどうだろうか」というアイデアを抱いて道を探していた頃、たまたま建築家のフェアに参加する機会があり、そこで偶然にも現在お店を開いている古民家を管理しているNPO法人に声をかけられ…。渡辺さん本人も「やってみようと思ってからのつながりのでき方がすごい」というほど、このカフェの開店までに、様々な出会いが面白いほど続いている。
そんなつながりは、カフェの開店後も続いている。お店となっている古民家の家主である渋谷さんは、渡辺さんの想いに賛同し、友人などに声をかけてお店を広めたり、近所の子育て中の母親が評判を聞いてやってきたりと、ほとんどのお客様が口コミで来店しているという。
「お店としては理想形だと思います」と渡辺さんも嬉しそうに語っていた。
しかし、そもそもなぜ、「カフェ」だったのか?そこに至るまでの経緯が、またかなりバラエティに富んでいる。
もともと父親が板前だったという渡辺さんは、食べることが好き、また忙しい両親に代わって食事の支度をするなど、食に対する意識の高い環境で育った。だが、食を仕事にすることになるとは思わなかったという。
大学では生物部に所属。様々な生物の調査などを行い、卒業後も、そのつながりから環境アセスメント会社に10年ほど勤務していた。 しかも大学で専攻したのは美術。シルクロードなどの西アジアの美術を学んだというから、まるでカフェとは結び付かない経歴に驚く。
しかし「だから古民家に惹かれたのかも」という渡辺さんの言葉を聞いて納得した。生物部で環境や生き物の知識や興味を深めたことも、「どんな食材を使って料理をするか」「なるべく地元(横浜)のものを使いたい」「自然や生物の環境を考えながら食事を作り、提供している」という豆松カフェでの渡辺さんの姿勢につながっている。
聞くほどに、いろいろな人とのつながり、様々な経験の集大成のカフェのように思えてくる。ただ、それは渡辺さんが、出会いや機会を素直に受け入れてきたからではないだろうか。「盆栽カフェをやりたい」「古民家カフェをやりたい」といった夢や、「生物が好き」「美術が好き」という自分の興味を失わずに進んだ結果が、豆松カフェという形になったように思える。
今年の10月で閉店となる豆松カフェ。次にどのようにつながっていくのか、どんな出会いがあるのか、またいつか聞いてみたい。