VASS(ヴァーシュ)について
すっかり更新が空いてしまいました…。
年度始めの仕事の多さにひいひい言いながら、なんとか日々を過ごしていた今日この頃です。
今回は東欧靴の雄、VASS(ヴァーシュ、ヴォーシュ)について。
購入から約一年が経ちましたので、色々と書いてみたいと思います!
1 VASSについて
「英国靴」や「イタリア靴」といったように、「東欧靴」というカテゴリーも最近はよく聞くようになりましたね。日本での有名どころでいうと、サンクリスピンやマテルナ、ハインリッヒディンケラッカー、ルーディックライターとかでしょうか。(ドイツも含めるならエドワードマイヤーとかも?)
中でも、ハンガリー靴であるVASSは、近年もの凄い勢いで日本の革靴(愛好家)界で存在感を示していますよね。
日本における存在の認知というところでは、恐らく最高級靴読本のVol.1(2002)で紹介されたことが契機だったのではないでしょうか。それ以降のVol.2(2004)などでも触れらていましたが、まだ日本市場で手に入る存在でもなく、「遠い異国のブランド」という印象を持たれていたはずです。しかしその後、かの有名な伊勢丹によるロベルト・ウゴリーニとVASSのコラボ品展開により、日本での知名度(というか人気)が急増。
さらに、近年はインスタでの発信や公式サイトの整備などで情報収集や購入のハードルが一気に下がり、多くの革靴愛好家が実際に履くようになった印象です。
かくいう私も、そんな諸先輩方がこぞって絶賛するVASSに興味津々で、昨年2足も購入してしまいました。
購入から約1年が経ち、そこそこ履いたりもしましたので、私なりにVASSを紹介してみたいと思います。
2 購入した2足
私が昨年購入したのは、以下の2足です。
①Alt English
②Austerity Brogue
シンプルな黒のストレートチップと、ミュージアムカーフのブラインドフルブローグの2足を購入しました。
どちらもサイズ43.5、ラストはFを選びました。
ブラインドフルブローグの方はそこそこ履きましたが、ストレートチップは最近履き下ろしたばかりでこれから育っていく感じです。
3 仕様など
では、各仕様の特徴について簡単に。
■サイズ
私は普段UK9.5を履いていますが、VASSは43.5でジャストサイズでした。Fラストであればサイズ感としては「UKサイズ+34」で問題ないと思います。
■ラスト
Fラストは日本人向けに開発されたと言われるクラシカルなラウンドトゥ。見た目はすこしぽってりして見えますが、実際はすっきりとしていて万人受けするシルエットです。英国靴が好きな人ならまず間違いないラストだと思います。比較的甲高なので、そこらへんは好みによるかもですね。
■カーフ
VASSは使用するカーフのタンナーなどを公表していないそうですが、特に悪い印象はありません(一方で過度に良いという印象もないですかね)。
黒のカーフでいうと、適度に柔らかく、ふかふかした革とした印象。履き込んでいくと、また違う質感になっていくと思いますが。
ミュージアムカーフはこの靴が初めてでしたので何とも言えませんが、ミュージアムカーフ特有の斑もはっきり確認できますし、価格相応に満足できるものだと思います。
VASSのミュージアムカーフについてとにかく思うのは、革自体がとても薄いということ。ミュージアムカーフ自体、ロブなどでも薄いとよく聞きますが、VASSもやはり薄い…。この為に履いた際にも後述するある影響が出てしまっている気がします…。
■ソール
シングルレザーソールですが、ヒドゥンチャネルです。またレンデンバッハの底材を使用しており、ここはかなりの高ポイントだと思います。
あくまで私感ですが、他のレンデンバッハ製のソールに比べても、VASSの靴はとても滑りやすい気がします。ソールの仕上げ方(あるいはヒールの積み方)などで多少質感が異なるんでしょうかね。
ちなみに、伏せ縫いが多少雑なのは、ご愛嬌です(笑)。
■フルソック
ライニングはフルソックとなっており、こちらも高級感を感じられる仕様となっています。
クロケットのハンドグレードもフルソックですが、艷やかな裏材を使用したクロケットがトゥルトゥルとした履き心地に感じるのに対し、VASSは足がライニングレザーでビタッと固定される感じ。これはこれで心地良さがあって、お気に入りの仕様です。
■ハンドソーンウェルテッド
みんな大好き高級靴仕様のハンドソーンウェルテッドですが、VASSもそのようです。
私はそこまで製法に拘りはありませんが、確かに足馴染みは早い気がしますので、ハンドソーンの恩恵は受けているのだと思います。
よくVASSのハンドソーンはビスポークメーカーなどに比べればそれほどでもないと聞きますが、早くそんな違いが分かるような靴道楽になりたいものです(笑)。
■シームレスヒール
こちらも高級靴らしく嬉しい仕様。シームレスってなんか美しくてテンション上がりますよね。
釣り込みもしっかりしていて、踵の食い付きも◎。個人的には結構お気に入りポイントです。
■ベヴェルドウエスト
土踏まず辺りのウエスト部が絞り込まれた仕様となっているベヴェルドウエスト。これもまた高級靴ならではですし、もっといえばハンドメイドならではですね。
VASSはそこまでググっと絞り込んではいないですが、確かにセクシーに見えます。他人が気づいてくれることは皆無でしょうが、履いている本人の自己満足を高めてくれる仕様だと思います(笑)。
4 履き心地など
ほぼ上述のとおりですが、約一年履いた感想としては
□フルソックからか、足に吸い付くような履き心地
□踵は小さめで、踵の食い付きが気持ち良い
□ソール、ヒールの耐久性が強く、摩耗が少ない
□履き始めはレンデンバッハが滑る
といった感じで、概ね良好です。
革のエイジングという点では、ミュージアムカーフの方はそれなりに履き、良い皺も入ってくれました。自分自身、ミュージアムカーフにおける良いエイジングが何を指すのかよくわかりませんが、斑もまだ残ってますし、結構良い感じに育っているのでは?
黒のカーフはまだまだこれから。楽しみに育てていきます。
このように履き心地ついては特に不満もないのですが、一点だけどうしても言いたいことがあります。
それは、履き口が笑うこと!!!!
本当、これだけがマイナス点です😇
履き口が笑う主な原因は、サイズが単純に合っていなかったり、足の内側のアーチが大ぶりな人によく見られると言われますが、
サイズはぴったりだし、足のアーチも別に大きくない…(というかVASS以外の靴で履き口が笑ったことないし…)。
特に、ミュージアムカーフのブラインドフルブローグの方が明らかに笑います。恐らく前述の革の薄さも関係もあって、如実に露見してしまうのでしょう…。
単純に足とラストが合っていないと言えばそれまでですが、インスタで他の方も同じこと呟いていたのを見たことがあるので、意外と同じ悩みを持ってる方は多いんじゃないかな…
ホント、これさえなければリピートしたいブランドなのに…。
5 シューツリー問題
あとVASSといえば、純正のシューツリーを思い浮かぶ人も多いかも。
インスタとかでも、このシューツリーを見かけることは多いのでは?
少し前までは、靴を買うとシューツリーも無料でついてきたようですが、昨年くらいから有料となっています。と言っても、日本円で4,000円くらいなのでとてもリーズナブルですよね(木製のスプリングだから安価なのかな)。
で、これもよく言われることですが、VASSの純正ツリーは微妙です(笑)。テンションもそんなかからないですし、そもそも靴と合っていない個体もあります。
私は踵が細いツリーを好むのですが、VASSのツリーは踵を広げてしまっている気がして、この点でも「むむむ…」という感じ…。
という訳で二足ともツリー込で購入したのですが、あっさり二つとも手放してしまいました。
「VASSのツリーってこんなもんだよね」とその不完全さを楽しむのはアリだと思いますが(それはそれで通っぽくてカッコいいですよね)、純正ツリーとしてのジャストフィットは求めない方が良いと思います(笑)。
ちなみに、純正ツリー以外では、キングヤードがオススメです。VASS43.5に対して、キングヤード43でピッタリです。間違いなく純正よりもフィットすると思います(笑)。
6 価格・購入方法
中々日本で買えないVASSですが、今回は初めて個人輸入をして購入しました。
VASSは公式サイトが非常に整備されているので、特に迷うことなく購入できると思います。普通に商品、サイズ等選んでクレジットなどで決済するだけです。
あとはハンガリーから送られてくるのを今か今かと楽しみに待って、到着後に送られてくる支払用紙で関税を決済すれば完了です。
価格は公式サイトでは400〜500ユーロの商品がほとんどで、日本円にすると5.5〜7万円くらいでしょうか。
ただ、VASSはかなり頻繁にセールを開催してくれており、セール時は20〜40%オフになることが多いです。
この二足もセール時にポチりましたので(且つ、送料無料&当時は今ほど円安でなかったので)、関税合わせても一足5万円ほどで購入できたと記憶してます。
VASSは謎に国内定価が15万円などとされていますが、5万円で買える革靴としては仕様など非常に優秀だと思いますので、セール時の個人輸入はかなり良いお買い物となるのではないでしょうか。
7 購入時の余談
個人輸入にはトラブルがつきものと言いますが、今回の個人輸入もなかなか思い出深い出来事がありましたので余談まで。
実は、最初に私が公式サイトから選び、注文した二足は上で紹介した二足とはまったく異なるものだったんです(笑)。
最初注文したのは、確か
□ミュージアムカーフのセミブローグ
□ダークブラウンのストレートチップ
の二足だったと思います。
で、上述のとおりVASSは公式サイトでセールを頻発してくれるのですが、それに伴いセール対象商品もコロコロ変わるんですよね。
注文して暫く経った後、別のセールが始まりまして、黒のストレートチップがセール対象となり、また値段も自分が注文したものと同じだったので、
ダメ元で「もしまだ間に合うなら、こないだ注文したダークブラウンのストレートチップを黒に変えてくれない?」と慣れない英語でメッセージを送ったところ、気前よく「もちろん構わないわよ!」と返事いただき、
この時点で、
□ミュージアムカーフのセミブローグ
□黒のストレートチップ
となりました。
その後、到着を首を長くして待っていると、今度はVASSからメッセージが届き、
「あなたの靴が完成したわ!でも残念なことにミスしてしまって、ブローグシューズにすることを忘れてしまったわ!」とのこと。
「もしあなたが問題なければ、このまま商品を送るけど、どう?」と聞かれ、添付のピクチャを見ると、確かにセミブローグではなく完璧なストレートチップが…(笑)。
「さすがにストレートチップ二足は…(苦笑)」と思い、お断りすることに。
で、この時点で自分の中で注文時から更に気分が変わっておりまして、再度ダメ元で「どうせ今から靴を作り直すなら、ブラインドフルブローグに変えてもいい?」と聞いたところ、
またも「全然大丈夫よ!こちらも迷惑かけちゃったし、喜んで作り直すわ!他の注文よりも優先して作るから、もう少し待っててね!」と快諾いただき、その一ヶ月後に無事この二足が届いた次第です。
英語でのやり取りも新鮮でしたし、間違えた商品をそのまま送ろうとしてくる姿勢も海外らしくて面白かったです(笑)。こういう経緯もあり、この二足には愛着が湧いております。
8 おわりに
よくVASSが紹介される枕詞として「世界最高峰の既成靴」が使われますが、今回紹介した二足はそれとは少し違うと思っています。
この枕詞の出典は、著名な靴職人の方がそう称したからだと思いますが、それはVASSが現在ほどレディメイドに(大量生産という意味で)力を入れる前の製品に対しての評価であって、今我々が公式サイトから容易に購入できる製品に対してではないと思います。
グリーンやロブと比肩するかというとそうではないと思いますし、いくらコスパがよいといっても定価400ユーロで販売している靴ですからね。やれ最高峰だと煽って消費者に過度な期待を抱かせるのは、不当にVASSへの失望を生んでしまうのではと思ってしまいます。
レディメイドのVASSに対するフェアな評価としては、アンダー10万円で、ハンドソーンウェルテッドやシームレスヒールなど靴好きには嬉しい仕様が施された良心的なブランド、というところではないでしょうか。
特に、私のようにミュージアムカーフの靴を買ってみたいとか、ハンドソーンウェルテッド製法の靴を履いてみたいとか、少しチャレンジしてみたいときにうってつけのメーカーだと思います。
そんな感じで過度にハードルは上げずにVASSを購入していただくと、数万円でそれなりの満足を得ることができると思います。
私は履き口が笑う問題が解決しないことにはリピートを迷ってしまいますが、皆さまにおかれましては是非一度購入してみてはいかがでしょうか。VASSはFラスト以外にも、UやKなどの魅力あるラストが豊富に用意がありますし、デザインなども数多く展開されているので、色々な方の足、ニーズに応えてくれるブランドだと思います😇
今回はVASSについて色々書いてみましたが、いかがでしたでしょうか。
それでは、また〜。